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31 パレード
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今日はセシリアと王太子殿下の結婚式。
マクラーレン様は王太子殿下の側近として動くので、今日は一日中忙しいと話していた。
テレサ様は、セシリアの祖母として結婚式やパーティーに出席するから留守にするらしい。
そして私の方は、結婚式やパーティーに出席出来ない代わりに、パレードを見に行けることになった。
結婚式の後、未来の国王と王妃を平民にお披露目するために、セシリアと殿下は大聖堂から王宮までを馬車でパレードすることになっている。それを見るために沢山の平民が集まるので、平民の格好をしていけばバレないだろうということになったのだ。
平民が着るワンピースにカツラと帽子をかぶり、メガネをかけ、私服姿の公爵家のメイドさんと騎士様と三人で出発する。今の私達は、どこにでもいそうな平民のグループにしか見えない。
「ララさん。この先は人が多いので、スリに注意して下さい。はぐれないように、私達の腕にしっかりつかまって下さいね」
「はい。よろしくお願い致します」
メイドさんと騎士様の腕につかまりながら人混みの中を歩き、パレードの道を目指して歩く。
目的の場所に着いた時には、人に酔い、少しぐったりしてしまった。その場所でパレードの時間になるまで立ったまま待つ。
疲労で体は辛いけど、セシリアの花嫁姿を見るためにはこれくらいは我慢! そう自分に言い聞かせる。
しばらく待っていると、警護の近衛騎士が騎乗して来た。その後すぐに沢山の近衛騎士に囲まれて走ってくる豪華な馬車が見える。
その馬車を見た人々は、歓喜の声を上げている。
ほんの一瞬だった……
チラッと見えたセシリアは、純白のドレスに身を包んで豪華なティアラをかぶり、優雅に手を振っていた。
いつもはお転婆だけど社交の場では完璧な淑女になるセシリアは、殿下の婚約者に選ばれた後に、周りから嫌がらせを受けたり僻まれたりすることが沢山あった。しかしそんなことに負けず、殿下の隣に立つために、ひたすら努力をしていたことを覚えている。
そんなこともあり、セシリアの美しい花嫁姿を見た私は、感極まって涙が止まらなくなってしまった。
「ララさん、大丈夫ですか?」
「……は、はい。嬉しくて涙が出てきてしまいました。申し訳ありません」
「落ち着くまで待ちますわ。気になさらないで」
溢れ出た涙を拭くためにメガネをとる。今の私は化粧も崩れて、酷い顔になっていることだろう。でも、こんなに沢山の人がごちゃごちゃしているから、誰も私の顔なんて見ていないはず。
涙を拭いた後、私達は人混みの中を歩き出す。せっかく王都に来たのだから、街を見ていかないかと聞かれたのだが、疲れていたのですぐに帰ることにした。
「ララさん。とてもお疲れのように見えますわ。何か飲み物でも買ってきましょうか?
みんな一斉に帰るので、この先の道も混んでいると思われます。少し休憩を取ってはいかがでしょう?」
付き添いのメイドさんは、私が疲れていることに気付いたようだった。人混みを歩くことに慣れていない私は、疲れが顔に出ていたらしい。
「お気遣いありがとうございます。
少し休憩を取らせて頂いてもよろしいですか?」
「はい。では、すぐ近くにベンチのある公園がありますので、そこに座って休憩しましょう」
公園まで移動してベンチに座ると、メイドさんは飲み物を買いに行ってくれるらしく、私は騎士様と二人でそこで待つことになる。
人混みを歩いただけで、こんなに疲れてしまうなんて、私はまだ体力がないようだ。自分の力で生きていくつもりだったのに、こんなに体力がないなんて、情けなく感じてしまう。
その後、座ったまま公園を見渡した私の目に入ってきたのは小さな女の子だった。女の子は、木の上の方をジーっと見ている。
あの木に何かあるのかしら? あれは風船?
「木に風船が引っかかってしまったようですね」
隣にいた騎士様も、女の子を見ていたようだった。
「可哀想ですわ。取ってあげることは出来ないのでしょうか?」
「少し行ってきてもいいでしょうか?
木に登れば取れるかもしれません」
「ええ。私はここで待ってますから、行ってあげて下さい」
騎士様はすぐに戻りますと言って、女の子の方に掛けて行った。そして、スルスルと木に登り、風船に手を伸ばす。
あと少しで手が届きそう……
その様子を夢中になって見ていた私は、ベンチの後ろから手が伸びていたことに気づかなかった。
気がついた時には、口を布で押さえられて意識が遠のいていた。
マクラーレン様は王太子殿下の側近として動くので、今日は一日中忙しいと話していた。
テレサ様は、セシリアの祖母として結婚式やパーティーに出席するから留守にするらしい。
そして私の方は、結婚式やパーティーに出席出来ない代わりに、パレードを見に行けることになった。
結婚式の後、未来の国王と王妃を平民にお披露目するために、セシリアと殿下は大聖堂から王宮までを馬車でパレードすることになっている。それを見るために沢山の平民が集まるので、平民の格好をしていけばバレないだろうということになったのだ。
平民が着るワンピースにカツラと帽子をかぶり、メガネをかけ、私服姿の公爵家のメイドさんと騎士様と三人で出発する。今の私達は、どこにでもいそうな平民のグループにしか見えない。
「ララさん。この先は人が多いので、スリに注意して下さい。はぐれないように、私達の腕にしっかりつかまって下さいね」
「はい。よろしくお願い致します」
メイドさんと騎士様の腕につかまりながら人混みの中を歩き、パレードの道を目指して歩く。
目的の場所に着いた時には、人に酔い、少しぐったりしてしまった。その場所でパレードの時間になるまで立ったまま待つ。
疲労で体は辛いけど、セシリアの花嫁姿を見るためにはこれくらいは我慢! そう自分に言い聞かせる。
しばらく待っていると、警護の近衛騎士が騎乗して来た。その後すぐに沢山の近衛騎士に囲まれて走ってくる豪華な馬車が見える。
その馬車を見た人々は、歓喜の声を上げている。
ほんの一瞬だった……
チラッと見えたセシリアは、純白のドレスに身を包んで豪華なティアラをかぶり、優雅に手を振っていた。
いつもはお転婆だけど社交の場では完璧な淑女になるセシリアは、殿下の婚約者に選ばれた後に、周りから嫌がらせを受けたり僻まれたりすることが沢山あった。しかしそんなことに負けず、殿下の隣に立つために、ひたすら努力をしていたことを覚えている。
そんなこともあり、セシリアの美しい花嫁姿を見た私は、感極まって涙が止まらなくなってしまった。
「ララさん、大丈夫ですか?」
「……は、はい。嬉しくて涙が出てきてしまいました。申し訳ありません」
「落ち着くまで待ちますわ。気になさらないで」
溢れ出た涙を拭くためにメガネをとる。今の私は化粧も崩れて、酷い顔になっていることだろう。でも、こんなに沢山の人がごちゃごちゃしているから、誰も私の顔なんて見ていないはず。
涙を拭いた後、私達は人混みの中を歩き出す。せっかく王都に来たのだから、街を見ていかないかと聞かれたのだが、疲れていたのですぐに帰ることにした。
「ララさん。とてもお疲れのように見えますわ。何か飲み物でも買ってきましょうか?
みんな一斉に帰るので、この先の道も混んでいると思われます。少し休憩を取ってはいかがでしょう?」
付き添いのメイドさんは、私が疲れていることに気付いたようだった。人混みを歩くことに慣れていない私は、疲れが顔に出ていたらしい。
「お気遣いありがとうございます。
少し休憩を取らせて頂いてもよろしいですか?」
「はい。では、すぐ近くにベンチのある公園がありますので、そこに座って休憩しましょう」
公園まで移動してベンチに座ると、メイドさんは飲み物を買いに行ってくれるらしく、私は騎士様と二人でそこで待つことになる。
人混みを歩いただけで、こんなに疲れてしまうなんて、私はまだ体力がないようだ。自分の力で生きていくつもりだったのに、こんなに体力がないなんて、情けなく感じてしまう。
その後、座ったまま公園を見渡した私の目に入ってきたのは小さな女の子だった。女の子は、木の上の方をジーっと見ている。
あの木に何かあるのかしら? あれは風船?
「木に風船が引っかかってしまったようですね」
隣にいた騎士様も、女の子を見ていたようだった。
「可哀想ですわ。取ってあげることは出来ないのでしょうか?」
「少し行ってきてもいいでしょうか?
木に登れば取れるかもしれません」
「ええ。私はここで待ってますから、行ってあげて下さい」
騎士様はすぐに戻りますと言って、女の子の方に掛けて行った。そして、スルスルと木に登り、風船に手を伸ばす。
あと少しで手が届きそう……
その様子を夢中になって見ていた私は、ベンチの後ろから手が伸びていたことに気づかなかった。
気がついた時には、口を布で押さえられて意識が遠のいていた。
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