35 / 41
34 目覚めた私
しおりを挟む
頭がズキズキと痛み、体がとてもだるい。瞼が重くて目は開かないし、体も動かない……
どれくらい眠っていたのだろう?
目覚めた私は知らない部屋に寝かされていた。まだ体はだるくて自分で体を起こせず、部屋の中を眺めることしか出来ない。私に何があったというのか?
その時、誰かが部屋に入ってくる音がした。ドアの方に視線を向けると、部屋に入ってきた人物と目が合う。
「ローラ! 良かった……
なかなか目覚めなかったから心配していたんだ」
目覚めた私に気付き、安堵の表情を浮かべながら近づいて来るその人物を見た私は、絶望感に苛まれる。
「……どうし……て?」
今すぐに逃げなければならないのに、体が動いてくれない。
「そんなに怯えないで欲しい。
心配しなくて大丈夫だ。私がローラの面倒を見るからね。薬が強過ぎたらしくて、君はずっと意識を失っていたんだよ。まだしばらくだるさが残るらしいから、安静にするんだ」
目覚めたぼかりの時に、優しい口調で話しかけられたら普通は安心するだろう。しかし、私はその人物を見て警戒と恐怖しかなかった。
「……アストン様。ここはどこなのです?
どうして私はここにいるのですか?」
「ローラは、また私を家名呼びしているね……
私達は名前で呼び合う仲だったのに、家名で呼ばれるとただの知り合いのようで寂しく感じる。今までのように名前で呼んでくれるかい?」
この男と話が噛み合わない……。無理に話を逸らそうとしているようにも見えた。
「……名前で呼び合う仲を、裏切りによって壊したのは誰なのでしょうね?
それより私の質問に答えて下さい。ここはどこなのですか?」
「……っ! 私が悪かった。ずっと君に謝罪がしたいと思っていた」
アストン様の穏やかな表情が一変し、苦痛に歪んだものになる。
「謝罪は結構ですわ。もう終わったことですから。
それよりも私を帰して頂けませんか?
急に居なくなったら、知り合いたちに心配をかけてしまうと思いますので」
「終わってなどない。私は君に償うつもりでいた」
「結構です。それより、愛するリリーを放っておいていいのでしょうか?
ああ見えて孤独なのです。一人が嫌で構って欲しくて、色々な殿方と仲良くしようとしていたようですわ。早く行ってあげて下さい。新婚の二人を邪魔したくないのです」
ここまできつい言葉が次から次へと出てくる自分自身に嫌気がするが、この男に今更遠慮なんてしたくなかった。この男に良い子で振る舞う必要はないと思っている。
「あんな女を愛するわけない! 私が愛しているのは君だけだ」
私は挑発し過ぎてしまったようだ。
あの穏やかなアストン様が声を張り上げて、取り乱している。
しかし、この人は侯爵家の跡取りとして育ってきた人。私の驚いた顔を見てハッとし、感情を抑えたようだ。
「……すまない。私が全て悪かった。だが、私が愛しているのはローラだということは分かって欲しい。
とりあえず、君はまだ安静にした方がいいからこの部屋で休んでくれ。
メイドに飲み物を運ばせる。何かある時は、ベルを鳴らしてメイドを呼ぶように。
また来るよ……」
悲しげな表情をして、アストン様は部屋から出て行ってしまった。
結局、ここがどこなのか分からない私は、その後に飲み物を持ってきてくれたメイドに尋ねるのだが、『私達は何もお答えしてはいけない決まりになっております』と言われてしまい、何も聞き出せなかった。
しばらくして何とかベッドから立ち上がり、窓まで行って外の様子を見ようかと考えたのだが、フラついた私は家具にぶつかって転倒してしまった。
ぶつかった時の音でメイドが来てしまい、アストン様を呼ばれてしまう。
「ローラ、まだ安静だって言ったはずだ。
怪我をしてしまうから、一人で歩き回るのは禁止。守れないなら、私がずっと側にいることになる。
それも嫌なら、体を拘束することになるかもしれないよ」
「……気を付けます。一人で大丈夫ですわ」
いつものように優しい口調だったが、アストン様の目は笑っていなかった。
ゾッとした私は、反論することすら出来ずに黙って従うことにした。
どれくらい眠っていたのだろう?
目覚めた私は知らない部屋に寝かされていた。まだ体はだるくて自分で体を起こせず、部屋の中を眺めることしか出来ない。私に何があったというのか?
その時、誰かが部屋に入ってくる音がした。ドアの方に視線を向けると、部屋に入ってきた人物と目が合う。
「ローラ! 良かった……
なかなか目覚めなかったから心配していたんだ」
目覚めた私に気付き、安堵の表情を浮かべながら近づいて来るその人物を見た私は、絶望感に苛まれる。
「……どうし……て?」
今すぐに逃げなければならないのに、体が動いてくれない。
「そんなに怯えないで欲しい。
心配しなくて大丈夫だ。私がローラの面倒を見るからね。薬が強過ぎたらしくて、君はずっと意識を失っていたんだよ。まだしばらくだるさが残るらしいから、安静にするんだ」
目覚めたぼかりの時に、優しい口調で話しかけられたら普通は安心するだろう。しかし、私はその人物を見て警戒と恐怖しかなかった。
「……アストン様。ここはどこなのです?
どうして私はここにいるのですか?」
「ローラは、また私を家名呼びしているね……
私達は名前で呼び合う仲だったのに、家名で呼ばれるとただの知り合いのようで寂しく感じる。今までのように名前で呼んでくれるかい?」
この男と話が噛み合わない……。無理に話を逸らそうとしているようにも見えた。
「……名前で呼び合う仲を、裏切りによって壊したのは誰なのでしょうね?
それより私の質問に答えて下さい。ここはどこなのですか?」
「……っ! 私が悪かった。ずっと君に謝罪がしたいと思っていた」
アストン様の穏やかな表情が一変し、苦痛に歪んだものになる。
「謝罪は結構ですわ。もう終わったことですから。
それよりも私を帰して頂けませんか?
急に居なくなったら、知り合いたちに心配をかけてしまうと思いますので」
「終わってなどない。私は君に償うつもりでいた」
「結構です。それより、愛するリリーを放っておいていいのでしょうか?
ああ見えて孤独なのです。一人が嫌で構って欲しくて、色々な殿方と仲良くしようとしていたようですわ。早く行ってあげて下さい。新婚の二人を邪魔したくないのです」
ここまできつい言葉が次から次へと出てくる自分自身に嫌気がするが、この男に今更遠慮なんてしたくなかった。この男に良い子で振る舞う必要はないと思っている。
「あんな女を愛するわけない! 私が愛しているのは君だけだ」
私は挑発し過ぎてしまったようだ。
あの穏やかなアストン様が声を張り上げて、取り乱している。
しかし、この人は侯爵家の跡取りとして育ってきた人。私の驚いた顔を見てハッとし、感情を抑えたようだ。
「……すまない。私が全て悪かった。だが、私が愛しているのはローラだということは分かって欲しい。
とりあえず、君はまだ安静にした方がいいからこの部屋で休んでくれ。
メイドに飲み物を運ばせる。何かある時は、ベルを鳴らしてメイドを呼ぶように。
また来るよ……」
悲しげな表情をして、アストン様は部屋から出て行ってしまった。
結局、ここがどこなのか分からない私は、その後に飲み物を持ってきてくれたメイドに尋ねるのだが、『私達は何もお答えしてはいけない決まりになっております』と言われてしまい、何も聞き出せなかった。
しばらくして何とかベッドから立ち上がり、窓まで行って外の様子を見ようかと考えたのだが、フラついた私は家具にぶつかって転倒してしまった。
ぶつかった時の音でメイドが来てしまい、アストン様を呼ばれてしまう。
「ローラ、まだ安静だって言ったはずだ。
怪我をしてしまうから、一人で歩き回るのは禁止。守れないなら、私がずっと側にいることになる。
それも嫌なら、体を拘束することになるかもしれないよ」
「……気を付けます。一人で大丈夫ですわ」
いつものように優しい口調だったが、アストン様の目は笑っていなかった。
ゾッとした私は、反論することすら出来ずに黙って従うことにした。
334
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる