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35 元婚約者
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目覚めてから数日後、私はやっと体の調子が良くなり、一人で歩けるようになっていた。
あの後、自分の置かれた状況について考えてみた。恐らく私は公園で座っている時に、アストン様の関係者に攫われたのだと思う。
風船を取りに行った騎士様を見ていて口を押さえられた後の記憶がなく、目覚めたら知らない部屋に寝かされていただなんて恐怖しかない。
突然、私がいなくなったことで、テレサ様やマクラーレン様に心配をかけているのでは……。あの日、一緒に行動していたメイドさんや騎士様が責任を問われていたりしたら……
このよく分からない邸にいることを何とか伝えたいが、一人で部屋の外に出ることは許されず、部屋の外に出る時はメイドと騎士が数人、必ず付き添うことになっている。メイドが監視役ということなのだろう。伯爵家から家出した前科のある私のことを、アストン様なりに注意して見ているらしい。
そして、余計なことを話す隙すら与えてくれないアストン様が、昼と夜の食事を一緒に食べるために私のいる部屋までやって来る。
この男は何がしたいのだろう? いつまでもここにいるわけにはいかないから、ハッキリさせなければ。そう考えた私は、アストン様が部屋に来た時に勇気を出して、話を振ってみることにした。
「ローラ。今日は君の大好きな鶏肉の香草焼きだ。
味付けは侯爵家のレシピと同じにしてあるから、きっと気に入るはずだよ」
この男は元婚約者だけあって、私の好きな物をよく覚えていて、食事の献立に入れてもらえるように手配してくれているようだ。
お父様は私に関心がなかったけど、この男は婚約した後に、私のことを沢山知ろうとしてくれたことが嬉しかったし、そんな優しいところが大好きだった。でも、それは過去の話。今更そんなことをされても、ご機嫌とりをされているようで不快しかない。
「アストン様。食事のことよりも、お聞きしたいことがあります。
貴方は何のために私を攫ったのですか?
ここの邸はどこなのです? 貴方はずっとこの邸にいるようですが、リリアンの所に帰らなくていいのですか?
私はいつ解放していただけるのでしょうか?」
その話をした瞬間、和かにしていたアストン様の表情が凍りつく。そして、無言でメイド達に合図を送り人払いをするのであった。
「ローラ……、確かに私は君を攫ったかもしれない。
しかし、それくらいしないと君とこうやって話すことが出来ないだろう?
君を匿っていたマクラーレン公爵令息だが、他国の王女との縁談の話が出ているようなんだ。私はね、君が邪魔者扱いされる前に保護した方がいいと考えたんだよ。愛人なんて立場は君には合わないだろう?
でも、流石に公爵家の領地に入るわけにはいかないし、公爵家の人間が一緒にいる時に無理に動くことは出来ないからね。だから、君が一人になる時をずっと待っていたんだ。親友の結婚式に君が王都に来ることを期待していたが、本当に来てくれて良かったよ。
ローラは表向きは病気で伏せっていることになっているし、身内でも婚約者でもないあの男が堂々と君を探すことは出来ないだろうね……」
私がマクラーレン様に匿ってもらっていたことがバレていたようだ。そういえば、マクラーレン様はアストン侯爵家を警戒していた。
しかし、マクラーレン様に縁談の話があったのね……
何も聞いてないから知らなかったが、次期公爵なのだから、他国の王族との政略結婚の話があってもおかしくはない。
誰かと婚約するのは当然のことなのに、どうして私の胸はこんなにチクチクしているのかしら。
「……私とマクラーレン様はそのような関係ではありませんわ。愛人だなんて言わないで下さい」
「君が否定しても、周りはそうは思わない。
マクラーレン公爵令息が結婚したとして、妻になった者が君の存在を知ったらどう思う? 領地の豪華な別荘に、君を大切に隠すように住まわせておいたのを見たら、二人は特別な関係だって思うだろう。
他国の王女を妻に迎えて、夫婦仲に亀裂が入ったりしたら外交問題に発展するかもしれない。だからそうなる前に、私は君を保護しただけだ」
私のことを保護したという言い分はおかしいが、その他のことについては正論だと思ってしまった。
あの後、自分の置かれた状況について考えてみた。恐らく私は公園で座っている時に、アストン様の関係者に攫われたのだと思う。
風船を取りに行った騎士様を見ていて口を押さえられた後の記憶がなく、目覚めたら知らない部屋に寝かされていただなんて恐怖しかない。
突然、私がいなくなったことで、テレサ様やマクラーレン様に心配をかけているのでは……。あの日、一緒に行動していたメイドさんや騎士様が責任を問われていたりしたら……
このよく分からない邸にいることを何とか伝えたいが、一人で部屋の外に出ることは許されず、部屋の外に出る時はメイドと騎士が数人、必ず付き添うことになっている。メイドが監視役ということなのだろう。伯爵家から家出した前科のある私のことを、アストン様なりに注意して見ているらしい。
そして、余計なことを話す隙すら与えてくれないアストン様が、昼と夜の食事を一緒に食べるために私のいる部屋までやって来る。
この男は何がしたいのだろう? いつまでもここにいるわけにはいかないから、ハッキリさせなければ。そう考えた私は、アストン様が部屋に来た時に勇気を出して、話を振ってみることにした。
「ローラ。今日は君の大好きな鶏肉の香草焼きだ。
味付けは侯爵家のレシピと同じにしてあるから、きっと気に入るはずだよ」
この男は元婚約者だけあって、私の好きな物をよく覚えていて、食事の献立に入れてもらえるように手配してくれているようだ。
お父様は私に関心がなかったけど、この男は婚約した後に、私のことを沢山知ろうとしてくれたことが嬉しかったし、そんな優しいところが大好きだった。でも、それは過去の話。今更そんなことをされても、ご機嫌とりをされているようで不快しかない。
「アストン様。食事のことよりも、お聞きしたいことがあります。
貴方は何のために私を攫ったのですか?
ここの邸はどこなのです? 貴方はずっとこの邸にいるようですが、リリアンの所に帰らなくていいのですか?
私はいつ解放していただけるのでしょうか?」
その話をした瞬間、和かにしていたアストン様の表情が凍りつく。そして、無言でメイド達に合図を送り人払いをするのであった。
「ローラ……、確かに私は君を攫ったかもしれない。
しかし、それくらいしないと君とこうやって話すことが出来ないだろう?
君を匿っていたマクラーレン公爵令息だが、他国の王女との縁談の話が出ているようなんだ。私はね、君が邪魔者扱いされる前に保護した方がいいと考えたんだよ。愛人なんて立場は君には合わないだろう?
でも、流石に公爵家の領地に入るわけにはいかないし、公爵家の人間が一緒にいる時に無理に動くことは出来ないからね。だから、君が一人になる時をずっと待っていたんだ。親友の結婚式に君が王都に来ることを期待していたが、本当に来てくれて良かったよ。
ローラは表向きは病気で伏せっていることになっているし、身内でも婚約者でもないあの男が堂々と君を探すことは出来ないだろうね……」
私がマクラーレン様に匿ってもらっていたことがバレていたようだ。そういえば、マクラーレン様はアストン侯爵家を警戒していた。
しかし、マクラーレン様に縁談の話があったのね……
何も聞いてないから知らなかったが、次期公爵なのだから、他国の王族との政略結婚の話があってもおかしくはない。
誰かと婚約するのは当然のことなのに、どうして私の胸はこんなにチクチクしているのかしら。
「……私とマクラーレン様はそのような関係ではありませんわ。愛人だなんて言わないで下さい」
「君が否定しても、周りはそうは思わない。
マクラーレン公爵令息が結婚したとして、妻になった者が君の存在を知ったらどう思う? 領地の豪華な別荘に、君を大切に隠すように住まわせておいたのを見たら、二人は特別な関係だって思うだろう。
他国の王女を妻に迎えて、夫婦仲に亀裂が入ったりしたら外交問題に発展するかもしれない。だからそうなる前に、私は君を保護しただけだ」
私のことを保護したという言い分はおかしいが、その他のことについては正論だと思ってしまった。
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