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記憶が戻る前の話
20 閑話 公爵
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アリスから永遠にサヨナラと言われた後の記憶は曖昧だった。
理由は分からないがとにかくショックで、その日はオーロラとレストランにランチを食べに行く約束をしていたのに、それをすっぽかして自分の邸に帰って来た。
そして夜遅く帰ってきた父から、理由も告げられずに謹慎を言い渡され、自室から出ることを禁止された。外部と接触は出来ず、監禁のような状態で一ヶ月近く過ごした。
部屋に閉じ込められている間、頭が自然にスッキリしてきて、自分がアリスにした仕打ちを思い出して辛くなる。
私は大切な彼女に何をしたんだ? どうしてあんなに悲しませるようなことをしてしまったのか……
私は大切な任務を放棄して、アリスにあんな酷いことをしたから謹慎させられているのかもしれない。
そして謹慎明けに私は父から呼び出しを受ける。
「ルーファス、目は覚めたか?」
「……はい。私はどうかしていたようです。理由は分かりませんが、マーズレイ男爵令嬢を愛していると思い込み、任務遂行出来なかっただけでなく、大切なアリスまで沢山傷付けてしまいました。大変申し訳ありませんでした。
国王陛下と王太子殿下に謝罪を……
アリスにも謝罪をしに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
しかし、父は口を力強く閉じたまま何も言ってくれない。
あんな失態をしたんだ。私は廃嫡されるかもしれない……
「ルーファス……、謝罪は必要ない。マーズレイ男爵と家族は拘束されて裁判にかけられることになった。任務は終了したんだ。
国王陛下と王太子殿下は、お前に過酷な任務を任せてしまったと謝罪をして下さったよ」
信じられない言葉を掛けられて、私は自分の耳を疑った。
「意味が分かりません。なぜ任務を放棄した私に陛下と殿下が謝罪をして下さるのです?
それに私は早くアリスに謝罪に行きたいのです。何が言いたいのかハッキリして下さい」
その後、父は悲しげな目で私を見つめて驚く話をする。
私はマーズレイ男爵令嬢に操られていたらしい。
彼女の使用していた香水を嗅ぎ続けると、魅了の魔法にかかったような状態になり、彼女を愛していると思い込み、彼女の言いなりになってしまうというものだった。
私は任務の為、マーズレイ男爵令嬢と近い距離で一緒に過ごす時間が長かったため、かなり強く魅了の効果が表れていたようだ。
魅了魔法は昔話で聞く程度のもので、魅了効果のある香水があるなど誰も知らず、私がおかしくなっていても、マーズレイ男爵令嬢に恋をした馬鹿な男くらいにしか見られなかった。元々、婚約者のアリスとの関係が良くなかったので、私が心変わりしたと思われたらしい。
しかし、あの女は多くを求め過ぎて自滅した。
私がマーズレイ男爵令嬢の操り人形になっても、アリスとの婚約を解消しなかったため、アリスを殺す計画を立てたのだ。
取り調べであの女は……
『アリスが生きている限り、私は公爵夫人になれないから殺そうと思ったわ。私は一番じゃないと嫌なの。第二夫人なんて許さない』と、アリスに対しての強い憎しみを語ったという。
あの女は、私と同じく自分の言いなりになっていた下位貴族の令息に、どさくさに紛れてアリスを馬車の前に突き飛ばすように命令した。だが、その現場を偶然見ていた者がいて令息はすぐ拘束される。
その日のうちに黒幕のマーズレイ男爵令嬢が捕まり、男爵家の家宅捜索が行われ、男爵の違法薬物が見つかって逮捕に至ったという。
そして魅了の香水のことを調べた結果、匂いを嗅がなくなると効果が薄れてくるということが分かり、私はしばらく謹慎させられていたということだった。
「あの女……よくもアリスを!
父上、アリスの怪我は大丈夫なのでしょうか? 今すぐに見舞いに行かせてください」
「見舞いは必要ない……
お前はもう婚約者でもないんだ」
あれだけのことをしたから婚約解消されたのか?
しかし、私はアリスのことを諦めたくなかった。
「アリスに謝罪をしに行きたいのです!
私は彼女を沢山傷付けて苦しめましたが、彼女を諦められないのです」
「私もお前が不器用ながらアリス嬢を想っていたことは分かっていたから、婚約解消はしたくなかった。
最後くらいは、婚約者として彼女の旅立ちを見届けて欲しいと思ったからだ」
普段、感情を表に出さない父が声を震わせている。
「最後……? 父上、何を言っているのです?」
「キャンベル侯爵から言われた……
〝娘が旅立つ前に最後の願いを聞き入れて欲しい〟とな。
アリス嬢はずっとお前との婚約解消を望んでいたようだ」
「アリスが……ずっと婚約解消したがっていた?」
頭を鈍器で強く殴られたような衝撃だった。
「ああ。公爵家の次期当主であるお前の婚約者として僻まれることが沢山あるのに、お前はいつもそっけなくて冷たいから辛かったと。
別に好きな人がいるならすぐにでも婚約解消するし、愛はなくても婚約者として信頼関係くらいは築きたいと思ったが、それも無理そうだからしんどいと話していたらしい。
婚約解消したら、家庭教師でもして働きたいと夢を語っていたようだ。
侯爵はお前とアリス嬢を婚約させてしまったことを後悔し、憔悴していた」
「……っ! アリスはどこに行ったのです? もしかして修道院ですか?」
「ルーファス、彼女は馬車に突き飛ばされたんだぞ。
私も辛いんだ……分かってくれ……」
その後、私は感情を捨てることにした。感情がなければ余計なことを考えなくてすむ。平常心を保つにはこれしか方法がなかったのだ。
しかし、アリスと最後に会った日に彼女が私に言い放った言葉は私の心の中に刺さり続けていた。
『貴方のことも昔はそれなりに好きだったけど、今は大嫌いだから嫉妬で狂うことだけは絶対にないわ』
『貴方と結婚するくらいなら死んだ方がマシよ!』
『永遠にサヨナラ!』
私は愛していた彼女の気持ちの変化に気付けず、そこまで愛想を尽かされていたことを知らなかった。
彼女にもっと寄り添っていたら、未来は変わったのだろうか?
後悔しても遅いのに、無意識にアリスを思い出しては辛くなる日々が続く……
理由は分からないがとにかくショックで、その日はオーロラとレストランにランチを食べに行く約束をしていたのに、それをすっぽかして自分の邸に帰って来た。
そして夜遅く帰ってきた父から、理由も告げられずに謹慎を言い渡され、自室から出ることを禁止された。外部と接触は出来ず、監禁のような状態で一ヶ月近く過ごした。
部屋に閉じ込められている間、頭が自然にスッキリしてきて、自分がアリスにした仕打ちを思い出して辛くなる。
私は大切な彼女に何をしたんだ? どうしてあんなに悲しませるようなことをしてしまったのか……
私は大切な任務を放棄して、アリスにあんな酷いことをしたから謹慎させられているのかもしれない。
そして謹慎明けに私は父から呼び出しを受ける。
「ルーファス、目は覚めたか?」
「……はい。私はどうかしていたようです。理由は分かりませんが、マーズレイ男爵令嬢を愛していると思い込み、任務遂行出来なかっただけでなく、大切なアリスまで沢山傷付けてしまいました。大変申し訳ありませんでした。
国王陛下と王太子殿下に謝罪を……
アリスにも謝罪をしに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
しかし、父は口を力強く閉じたまま何も言ってくれない。
あんな失態をしたんだ。私は廃嫡されるかもしれない……
「ルーファス……、謝罪は必要ない。マーズレイ男爵と家族は拘束されて裁判にかけられることになった。任務は終了したんだ。
国王陛下と王太子殿下は、お前に過酷な任務を任せてしまったと謝罪をして下さったよ」
信じられない言葉を掛けられて、私は自分の耳を疑った。
「意味が分かりません。なぜ任務を放棄した私に陛下と殿下が謝罪をして下さるのです?
それに私は早くアリスに謝罪に行きたいのです。何が言いたいのかハッキリして下さい」
その後、父は悲しげな目で私を見つめて驚く話をする。
私はマーズレイ男爵令嬢に操られていたらしい。
彼女の使用していた香水を嗅ぎ続けると、魅了の魔法にかかったような状態になり、彼女を愛していると思い込み、彼女の言いなりになってしまうというものだった。
私は任務の為、マーズレイ男爵令嬢と近い距離で一緒に過ごす時間が長かったため、かなり強く魅了の効果が表れていたようだ。
魅了魔法は昔話で聞く程度のもので、魅了効果のある香水があるなど誰も知らず、私がおかしくなっていても、マーズレイ男爵令嬢に恋をした馬鹿な男くらいにしか見られなかった。元々、婚約者のアリスとの関係が良くなかったので、私が心変わりしたと思われたらしい。
しかし、あの女は多くを求め過ぎて自滅した。
私がマーズレイ男爵令嬢の操り人形になっても、アリスとの婚約を解消しなかったため、アリスを殺す計画を立てたのだ。
取り調べであの女は……
『アリスが生きている限り、私は公爵夫人になれないから殺そうと思ったわ。私は一番じゃないと嫌なの。第二夫人なんて許さない』と、アリスに対しての強い憎しみを語ったという。
あの女は、私と同じく自分の言いなりになっていた下位貴族の令息に、どさくさに紛れてアリスを馬車の前に突き飛ばすように命令した。だが、その現場を偶然見ていた者がいて令息はすぐ拘束される。
その日のうちに黒幕のマーズレイ男爵令嬢が捕まり、男爵家の家宅捜索が行われ、男爵の違法薬物が見つかって逮捕に至ったという。
そして魅了の香水のことを調べた結果、匂いを嗅がなくなると効果が薄れてくるということが分かり、私はしばらく謹慎させられていたということだった。
「あの女……よくもアリスを!
父上、アリスの怪我は大丈夫なのでしょうか? 今すぐに見舞いに行かせてください」
「見舞いは必要ない……
お前はもう婚約者でもないんだ」
あれだけのことをしたから婚約解消されたのか?
しかし、私はアリスのことを諦めたくなかった。
「アリスに謝罪をしに行きたいのです!
私は彼女を沢山傷付けて苦しめましたが、彼女を諦められないのです」
「私もお前が不器用ながらアリス嬢を想っていたことは分かっていたから、婚約解消はしたくなかった。
最後くらいは、婚約者として彼女の旅立ちを見届けて欲しいと思ったからだ」
普段、感情を表に出さない父が声を震わせている。
「最後……? 父上、何を言っているのです?」
「キャンベル侯爵から言われた……
〝娘が旅立つ前に最後の願いを聞き入れて欲しい〟とな。
アリス嬢はずっとお前との婚約解消を望んでいたようだ」
「アリスが……ずっと婚約解消したがっていた?」
頭を鈍器で強く殴られたような衝撃だった。
「ああ。公爵家の次期当主であるお前の婚約者として僻まれることが沢山あるのに、お前はいつもそっけなくて冷たいから辛かったと。
別に好きな人がいるならすぐにでも婚約解消するし、愛はなくても婚約者として信頼関係くらいは築きたいと思ったが、それも無理そうだからしんどいと話していたらしい。
婚約解消したら、家庭教師でもして働きたいと夢を語っていたようだ。
侯爵はお前とアリス嬢を婚約させてしまったことを後悔し、憔悴していた」
「……っ! アリスはどこに行ったのです? もしかして修道院ですか?」
「ルーファス、彼女は馬車に突き飛ばされたんだぞ。
私も辛いんだ……分かってくれ……」
その後、私は感情を捨てることにした。感情がなければ余計なことを考えなくてすむ。平常心を保つにはこれしか方法がなかったのだ。
しかし、アリスと最後に会った日に彼女が私に言い放った言葉は私の心の中に刺さり続けていた。
『貴方のことも昔はそれなりに好きだったけど、今は大嫌いだから嫉妬で狂うことだけは絶対にないわ』
『貴方と結婚するくらいなら死んだ方がマシよ!』
『永遠にサヨナラ!』
私は愛していた彼女の気持ちの変化に気付けず、そこまで愛想を尽かされていたことを知らなかった。
彼女にもっと寄り添っていたら、未来は変わったのだろうか?
後悔しても遅いのに、無意識にアリスを思い出しては辛くなる日々が続く……
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