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記憶が戻った後の話
26 奥手な私
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私は一度死んで生まれ変わった後、田舎の平民として世間を知らずに育ち、王都に来た後は姉や義母に虐められて引きこもる生活をしていた。しかし、その間にこの男は公爵としてバリバリ仕事をし、交渉術のスキルを身につけ、完璧に仕事をこなす優秀な当主になっていた。
そんな男に敵うはずもなく、気づくと私は簡単に言いくるめられ、一緒の部屋で寝ることになってしまう。
しかし私なりに何とか粘って、一緒に寝るのは一日おきで、私に手を出さないという約束はしてもらえた。
「公爵様、ベッドの真ん中に置いたクッションを越えてはいけませんよ。
それではおやすみなさいませ」
「分かっているよ。
アリー、愛してる。おやすみ」
金持ち公爵家のベッドはとても大きい。真ん中に仕切り用の大きなクッションを置いても、寝るスペースは十分にあるから、まあ何とか眠れるだろう。
寝つきが良くて眠りの深い私は普通に眠ってしまった。
しかし、翌朝……
「ギャー!」
「……アリー、どうしたんだい? 君は朝から賑やかだね。まあ、君が元気で私は嬉しいが」
「何で公爵様が?」
目覚めると、目の前には石像のように整った美しい胸板があり、私は公爵の腕の中にいた。
私達二人とも服は着ていたが、公爵のシャツははだけていて色気がヤバい。
「アリーはぐっすり眠っていて覚えていないようだが、クッションを蹴飛ばして私の寝ている所に転がってきたんだ。
寝相が悪くてベッドから落ちてしまいそうだから、落ちないように私が抱きしめたまま眠ったんだよ」
「う、嘘っ! 私がそんなことを……」
確かに私の寝相は良くはないけど、子供じゃあるまいしそこまで酷かった? でも、それなら……
「まあ! それはご迷惑をおかけしました。やはり私達が一緒に寝るのはまだ難しいのかもしれません。
やはりお互いのために、夜は別の部屋で休んだ方がよろしいかと思いますわ」
「……そうか、それは残念だ。アリーが寝る時も一緒にいてくれたら、あの女の刑を何とか軽くしてもらえないかを陛下に交渉するつもりでいた。地下牢に行くにも陛下の許可が必要だったから、それも一緒に頼むつもりでいたんだ。
でも、一緒にいてくれないなら私はまた不眠で体調が悪くなってしまうから、上手く交渉出来るか分からない。
陛下はとても厳しい方で、一度決めたことを簡単に覆すことはしない。難しい交渉になるが、アリーが夜も一緒にいてくれるから、何とか最善を尽くそうと考えていたんだ」
「……くっ」
陛下がまだ王太子殿下だった頃を覚えているが、確かにあの頃から仕事に厳しい方で、何を考えているのか分からず、従姉妹の婚約者であっても親しみが持てなくて怖い方だった。当時の私は、お姉様はよくあんな人と仲良く出来るなぁって思っていたっけ……
結局、公爵に上手く言いくるめられて終わった。
しかし、公爵は地下牢に姉の面会に行く許可をすぐに取ってきてくれた。
「王妃殿下とのお茶会の後に、あの女との面会許可がおりたよ。
ただ、体調が悪い時は中止にする。それは分かってくれ」
「公爵様、ありがとうございます。
こんなに早く許可を取ってきてくれるとは思いませんでしたわ」
「愛する君の頼みは何でも聞いてあげたいからね。
アリー、ご褒美にキスをしてもらってもいいかい?」
「……へっ? き、キスって、あのキスですか?」
「私達は夫婦なのだし、そろそろキスくらいは出来るようになりたい」
最近、気づいた。公爵は奥手の私を揶揄っている。
手を握るのも、腰を抱かれるのも、私が過度に近づくことを嫌がっているのを知りながら、わざと言っている。
しかし、本当に人格が変わりすぎよ! でも、もしかしたら真実の愛の相手であるオーロラにはこんな風にしていたのかもしれない。
やっぱり……、この男は信用出来ない。
「……アリー? そんな悲しそうな顔をしないでくれ。揶揄って悪かった。キスは我慢するから、抱きしめるくらいは許してくれるかい?」
「……分かりました。少しだけなら我慢します」
「ありがとう」
そう言って、公爵は優しく私を抱きしめてきた。
突き飛ばしてやりたいくらいだけど、今は我慢……
◇◇
邸の中を自由に歩き回れるくらいに回復した私は、公爵家の図書室にきていた。それは勿論、公爵の愛するオーロラのことを調べるためにだ。
図書室には、貴族の姿絵や家族構成が細かく記された貴族名鑑があるはず。これは毎年、貴族向けに発行されるもので貴族なら必ず目を通すものだ。オーロラの実家の男爵家を見れば、オーロラがどこに嫁いだのかなどが書いてあるはず。
しかし、今年発行されたばかりの最新の貴族名鑑にはオーロラの名前を探しても見つからなかった。それどころか、オーロラの実家のマーズレイ男爵家の名前も消えている。
あの女、色々な令嬢から嫌われて怒りを買いまくっていたから、誰かに刺されていたりして? それはないかぁ……
でも、男爵家の名前がないのはどういうこと? 貧乏だったから没落したのかな? 没落して平民になったから、公爵とは結婚できなくて、私の知らない所で公爵の愛人をやっているのかも!
気になった私は、過去の貴族名鑑もチェックしてみたが、公爵家の図書室には過去十年分の貴族名鑑しか残っていなくて、一番古い貴族名鑑にもマーズレイ男爵家は載っていなかった。
公爵家の図書室では無理ね。こういうことは、王宮の図書館に行って調べるしかない。あそこに行けば、過去の新聞もあるはずだから、私が死んだ後の事件なども分かるはず。
でも、王宮の図書館に行くにもあの公爵から外出の許可を取らないと行かせてもらえないから辛い。
今の公爵は私の保護者みたい。自由がなくて、毎日窮屈だわ。
そんな男に敵うはずもなく、気づくと私は簡単に言いくるめられ、一緒の部屋で寝ることになってしまう。
しかし私なりに何とか粘って、一緒に寝るのは一日おきで、私に手を出さないという約束はしてもらえた。
「公爵様、ベッドの真ん中に置いたクッションを越えてはいけませんよ。
それではおやすみなさいませ」
「分かっているよ。
アリー、愛してる。おやすみ」
金持ち公爵家のベッドはとても大きい。真ん中に仕切り用の大きなクッションを置いても、寝るスペースは十分にあるから、まあ何とか眠れるだろう。
寝つきが良くて眠りの深い私は普通に眠ってしまった。
しかし、翌朝……
「ギャー!」
「……アリー、どうしたんだい? 君は朝から賑やかだね。まあ、君が元気で私は嬉しいが」
「何で公爵様が?」
目覚めると、目の前には石像のように整った美しい胸板があり、私は公爵の腕の中にいた。
私達二人とも服は着ていたが、公爵のシャツははだけていて色気がヤバい。
「アリーはぐっすり眠っていて覚えていないようだが、クッションを蹴飛ばして私の寝ている所に転がってきたんだ。
寝相が悪くてベッドから落ちてしまいそうだから、落ちないように私が抱きしめたまま眠ったんだよ」
「う、嘘っ! 私がそんなことを……」
確かに私の寝相は良くはないけど、子供じゃあるまいしそこまで酷かった? でも、それなら……
「まあ! それはご迷惑をおかけしました。やはり私達が一緒に寝るのはまだ難しいのかもしれません。
やはりお互いのために、夜は別の部屋で休んだ方がよろしいかと思いますわ」
「……そうか、それは残念だ。アリーが寝る時も一緒にいてくれたら、あの女の刑を何とか軽くしてもらえないかを陛下に交渉するつもりでいた。地下牢に行くにも陛下の許可が必要だったから、それも一緒に頼むつもりでいたんだ。
でも、一緒にいてくれないなら私はまた不眠で体調が悪くなってしまうから、上手く交渉出来るか分からない。
陛下はとても厳しい方で、一度決めたことを簡単に覆すことはしない。難しい交渉になるが、アリーが夜も一緒にいてくれるから、何とか最善を尽くそうと考えていたんだ」
「……くっ」
陛下がまだ王太子殿下だった頃を覚えているが、確かにあの頃から仕事に厳しい方で、何を考えているのか分からず、従姉妹の婚約者であっても親しみが持てなくて怖い方だった。当時の私は、お姉様はよくあんな人と仲良く出来るなぁって思っていたっけ……
結局、公爵に上手く言いくるめられて終わった。
しかし、公爵は地下牢に姉の面会に行く許可をすぐに取ってきてくれた。
「王妃殿下とのお茶会の後に、あの女との面会許可がおりたよ。
ただ、体調が悪い時は中止にする。それは分かってくれ」
「公爵様、ありがとうございます。
こんなに早く許可を取ってきてくれるとは思いませんでしたわ」
「愛する君の頼みは何でも聞いてあげたいからね。
アリー、ご褒美にキスをしてもらってもいいかい?」
「……へっ? き、キスって、あのキスですか?」
「私達は夫婦なのだし、そろそろキスくらいは出来るようになりたい」
最近、気づいた。公爵は奥手の私を揶揄っている。
手を握るのも、腰を抱かれるのも、私が過度に近づくことを嫌がっているのを知りながら、わざと言っている。
しかし、本当に人格が変わりすぎよ! でも、もしかしたら真実の愛の相手であるオーロラにはこんな風にしていたのかもしれない。
やっぱり……、この男は信用出来ない。
「……アリー? そんな悲しそうな顔をしないでくれ。揶揄って悪かった。キスは我慢するから、抱きしめるくらいは許してくれるかい?」
「……分かりました。少しだけなら我慢します」
「ありがとう」
そう言って、公爵は優しく私を抱きしめてきた。
突き飛ばしてやりたいくらいだけど、今は我慢……
◇◇
邸の中を自由に歩き回れるくらいに回復した私は、公爵家の図書室にきていた。それは勿論、公爵の愛するオーロラのことを調べるためにだ。
図書室には、貴族の姿絵や家族構成が細かく記された貴族名鑑があるはず。これは毎年、貴族向けに発行されるもので貴族なら必ず目を通すものだ。オーロラの実家の男爵家を見れば、オーロラがどこに嫁いだのかなどが書いてあるはず。
しかし、今年発行されたばかりの最新の貴族名鑑にはオーロラの名前を探しても見つからなかった。それどころか、オーロラの実家のマーズレイ男爵家の名前も消えている。
あの女、色々な令嬢から嫌われて怒りを買いまくっていたから、誰かに刺されていたりして? それはないかぁ……
でも、男爵家の名前がないのはどういうこと? 貧乏だったから没落したのかな? 没落して平民になったから、公爵とは結婚できなくて、私の知らない所で公爵の愛人をやっているのかも!
気になった私は、過去の貴族名鑑もチェックしてみたが、公爵家の図書室には過去十年分の貴族名鑑しか残っていなくて、一番古い貴族名鑑にもマーズレイ男爵家は載っていなかった。
公爵家の図書室では無理ね。こういうことは、王宮の図書館に行って調べるしかない。あそこに行けば、過去の新聞もあるはずだから、私が死んだ後の事件なども分かるはず。
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