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記憶が戻った後の話
29 図書館にて
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姉との話を終えて公爵の所に戻ると、公爵と他の護衛騎士達の様子がおかしい。
「アリーは随分と心が広いようだ……
私はあの女の声が聞こえてくる度に怒りを抑えるのが大変だった。騎士の剣を借りてあの女を斬りつけてやろうかと思ってしまったよ」
うん? 公爵をよーく見ると、笑顔なのに目は笑ってないし、青筋を立てているように見える。
私達の会話を聞いて怒っていたのね。あれだけ大声で叫べば嫌でも聞こえてしまうからしょうがない。
「公爵様、今日はありがとうございました。
姉に会えて良かったですわ。それでお願いがあるのですが、姉に温かい食事と毛布と本の差し入れをしたいのです。お許しいただけますか?
辛い環境に置かれれば、誰だって精神的に参ってしまいます。姉の苦しみを和らげてあげたいのです」
姉を獄中死させたくない私は、必死に公爵に頼んでいた。
あの女に死なれたら、本気で呪われそうで恐ろしいからね……
「あんな女など捨て置けと言いたいところだが、アリーの頼みは聞き入れることにしている。すぐに手配しよう」
「公爵様の優しいお心遣いに感謝いたします」
◇◇
それから数日後、私は公爵に頼み込んで王宮の図書館にやってきた。
図書館の中に護衛騎士は連れて行けないからダメだと言う公爵を説得するのは大変で、夕食は毎日一緒に食べたいですわーとゴマスリをして、何とか許してもらえたのだ。
オーロラのことよりも、今は姉の処刑を回避するために、過去の裁判やこの国の刑法について調べるのが先だ。
ふむふむ……
かなり前ではあるが、心神喪失が認められて無罪となった人がいたらしい。しかし治療を受けるために長期間の入院をした後、そのまま亡くなられて社会復帰は叶わなかったと書いてある。
更に同居の家族には、患者本人が逃亡したり治療を拒否したりしないように、毎日病院に面会に行くことを義務にしたとも書いてある。家族が責任を持って患者を監視しろってことのようだ。
なかなか興味深い内容だわ。
夢中になって本を読んでいると、突然声を掛けられる。
「もしかして……、アンダーソン公爵夫人ではありませんか?
大怪我をして記憶を失われたとお聞きしましたわ。心配しておりましたのよ。
ここにいるということは、怪我は完治されたのですね。良かったですわぁー」
その人物の顔を見て、私は心の中で歓喜した。このオバさんは、あの義母の友人のミッチェル伯爵夫人だったからだ。
ミッチェル伯爵夫人は、義母の友人だけあって私生児のアリシアを散々バカにし、公爵夫人として参加したお茶会でも、目立たない程度にさり気ない嫌がらせを繰り返した中途半端な悪者で小物。
公爵夫人相手に目立つ嫌がらせは出来ないけど、友人の嫌っている義娘だから、ちょっとくらいの嫌がらせはしてもいいよね……って考えの人で、アリシアは普通にこの夫人のことが嫌いだった。本好きの博識な人だと義母が話していたから、図書館にはよく来ているのかもしれない。
ふふっ! 義母の友人なら色々と探りを入れてみようかしら……
「ご機嫌よう。私のことを知っているということは、私の家族の知り合いの方でしょうか?
申し訳ありません。まだ記憶が戻っていないのです。私の怪我や記憶喪失を知っておられるということは、私の両親と親しい間柄なのでしょうね」
「ええ。貴方の義母君とは昔からの友人ですのよ。
私はミッチェル伯爵家の者ですわ。
ベント伯爵夫人はお気の毒ね……。可愛いがっていた一人娘を失って塞ぎ込んでいるみたいなの。娘と一緒に死にたいとまで訴えているそうよ」
かかったわ、ラッキー!
その可愛がっていた娘が殺人未遂をしたのが悪いのに、このオバさんは被害者の私に何を言ってんの?
義母なんて、娘を見捨てて地下牢にすら行ってないのに。
どうせ表向きは、娘のことがショックで体調を崩して臥せっていることにでもしているのだろう。
あの義母のことだから、周りからの同情を得るために死ぬ死ぬ詐欺でも働いているに違いない。
それにしても、ミッチェル伯爵夫人も相変わらずだわ。姉のことを『可愛がっていた一人娘』って私に言うなんて、アリシアをベント伯爵家の娘だと認めていなかったとさり気なく言っているようなもの。
よーし! 今までの弱っちいアリシアではないという牽制を込めて、はっきり言ってやろうっと。
「アリーは随分と心が広いようだ……
私はあの女の声が聞こえてくる度に怒りを抑えるのが大変だった。騎士の剣を借りてあの女を斬りつけてやろうかと思ってしまったよ」
うん? 公爵をよーく見ると、笑顔なのに目は笑ってないし、青筋を立てているように見える。
私達の会話を聞いて怒っていたのね。あれだけ大声で叫べば嫌でも聞こえてしまうからしょうがない。
「公爵様、今日はありがとうございました。
姉に会えて良かったですわ。それでお願いがあるのですが、姉に温かい食事と毛布と本の差し入れをしたいのです。お許しいただけますか?
辛い環境に置かれれば、誰だって精神的に参ってしまいます。姉の苦しみを和らげてあげたいのです」
姉を獄中死させたくない私は、必死に公爵に頼んでいた。
あの女に死なれたら、本気で呪われそうで恐ろしいからね……
「あんな女など捨て置けと言いたいところだが、アリーの頼みは聞き入れることにしている。すぐに手配しよう」
「公爵様の優しいお心遣いに感謝いたします」
◇◇
それから数日後、私は公爵に頼み込んで王宮の図書館にやってきた。
図書館の中に護衛騎士は連れて行けないからダメだと言う公爵を説得するのは大変で、夕食は毎日一緒に食べたいですわーとゴマスリをして、何とか許してもらえたのだ。
オーロラのことよりも、今は姉の処刑を回避するために、過去の裁判やこの国の刑法について調べるのが先だ。
ふむふむ……
かなり前ではあるが、心神喪失が認められて無罪となった人がいたらしい。しかし治療を受けるために長期間の入院をした後、そのまま亡くなられて社会復帰は叶わなかったと書いてある。
更に同居の家族には、患者本人が逃亡したり治療を拒否したりしないように、毎日病院に面会に行くことを義務にしたとも書いてある。家族が責任を持って患者を監視しろってことのようだ。
なかなか興味深い内容だわ。
夢中になって本を読んでいると、突然声を掛けられる。
「もしかして……、アンダーソン公爵夫人ではありませんか?
大怪我をして記憶を失われたとお聞きしましたわ。心配しておりましたのよ。
ここにいるということは、怪我は完治されたのですね。良かったですわぁー」
その人物の顔を見て、私は心の中で歓喜した。このオバさんは、あの義母の友人のミッチェル伯爵夫人だったからだ。
ミッチェル伯爵夫人は、義母の友人だけあって私生児のアリシアを散々バカにし、公爵夫人として参加したお茶会でも、目立たない程度にさり気ない嫌がらせを繰り返した中途半端な悪者で小物。
公爵夫人相手に目立つ嫌がらせは出来ないけど、友人の嫌っている義娘だから、ちょっとくらいの嫌がらせはしてもいいよね……って考えの人で、アリシアは普通にこの夫人のことが嫌いだった。本好きの博識な人だと義母が話していたから、図書館にはよく来ているのかもしれない。
ふふっ! 義母の友人なら色々と探りを入れてみようかしら……
「ご機嫌よう。私のことを知っているということは、私の家族の知り合いの方でしょうか?
申し訳ありません。まだ記憶が戻っていないのです。私の怪我や記憶喪失を知っておられるということは、私の両親と親しい間柄なのでしょうね」
「ええ。貴方の義母君とは昔からの友人ですのよ。
私はミッチェル伯爵家の者ですわ。
ベント伯爵夫人はお気の毒ね……。可愛いがっていた一人娘を失って塞ぎ込んでいるみたいなの。娘と一緒に死にたいとまで訴えているそうよ」
かかったわ、ラッキー!
その可愛がっていた娘が殺人未遂をしたのが悪いのに、このオバさんは被害者の私に何を言ってんの?
義母なんて、娘を見捨てて地下牢にすら行ってないのに。
どうせ表向きは、娘のことがショックで体調を崩して臥せっていることにでもしているのだろう。
あの義母のことだから、周りからの同情を得るために死ぬ死ぬ詐欺でも働いているに違いない。
それにしても、ミッチェル伯爵夫人も相変わらずだわ。姉のことを『可愛がっていた一人娘』って私に言うなんて、アリシアをベント伯爵家の娘だと認めていなかったとさり気なく言っているようなもの。
よーし! 今までの弱っちいアリシアではないという牽制を込めて、はっきり言ってやろうっと。
応援ありがとうございます!
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