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記憶が戻った後の話
47 人違い
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公爵は私が図書館に行く度に、必ず送り迎えをしてくれる。
「私は一時間くらい王宮の執務室で仕事をしてくるから、アリーは図書館でゆっくり過ごしていてくれ。私が迎えに来るまで知らない人物について行ってはダメだぞ」
アンダーソン公爵夫人の私を攫う人なんているはずがないわよ……
「分かっておりますわ。公爵様もお仕事頑張って下さいね」
「行ってくるよ……チュッ!」
「……っ!」
ニコッと微笑んだ公爵は、私の額にキスをして行ってしまった。
周りには人が沢山いて、年の差夫婦の私達はただでさえ目立つのに、公爵が余計なことをして更に目立ってしまい、恥ずかしさで顔が燃えるように熱くなっていた。
本当に昔とキャラが変わりすぎてついていけないわ……
公爵がいなくなった後、早速、前世の実家のことを調べ始める。
しかし、キャンベル侯爵領の歴史みたいな本はあるが今が分かるような本は見当たらない。両親や弟は何をしているんだろう?
更に、弟の現在を調べるために色々な名簿を見るが……
「ええと、ディック・キャンベル……ないわね。お父様のように王宮で大臣はやってないのね。まだ若いから平の文官でもやっているのかしら?
騎士になって姉上のことを守ってあげるってカワイイことを言ってたから、近衛騎士団にいたりして……」
王宮の文官名簿の中に弟のディック・キャンベルという名前は見当たらない。次は近衛騎士の名簿でも見てみようと思っていると、背後から急に声を掛けられる。
「私のお姫様は一体何を調べているんだい?」
「……公爵様、大したことは調べておりません。
お迎えありがとうございます。そろそろ行きましょうか」
「もういいのか? 調べ物なら私が手伝おう」
「今日はもう大丈夫です。行きましょう」
公爵に、必死になってキャンベル侯爵家のことを調べていたなんて言えなかった。
実家や弟のことが気になった私が計画したのは、王都にあるキャンベル侯爵家のタウンハウスの様子を見に行くということだった。侯爵家は私が今住んでいる公爵家の邸から馬車で10分もかからない。ギリギリ歩いていける距離だ。
無断外出になってしまうけど、公爵が留守の日にこっそり抜け出してちょっとだけ行ってこよう。
◇◇
「アリー、会議が長引きそうだが夕方までには帰るようにする。ディナーは一緒に食べよう。では行ってくるよ」
「……い、行ってらっしゃいませ」
メイドや従者、護衛騎士達が見ている前で私を堂々と抱きしめた後、公爵は王宮に出発した。
アリスの記憶が戻ったばかりのころは、この過剰なスキンシップが受け入れられずにゾーッとしていたが、最近では鳥肌は立たなくなって平気になりつつある。慣れは本当に恐ろしい。
絆されるつもりはないが、日に日に公爵のペースに巻き込まれている自覚はある。
離縁するつもりでいたのに、こんな中途半端な状態でどうしよう……?
いや、今はそのことよりもあの計画を実行する日よ!
今日は天気が良くて外出日和なだけでなく、仕事で公爵が留守にする日だ。
昼寝をするとか言ってメイドを部屋から追い出した後、行儀見習いの時に着ていたシンプルで比較的動きやすいワンピースに着替える。
バルコニーから木をつたって外に出て、茂みに隠れながら移動し、木登りをして高い塀を乗り越えた。
「ふふっ……。脱出成功ね」
結婚前に公爵家で行儀見習いをしていたので、使用人用の通路や人の少ない場所に詳しかったことと、前世で警備の厳重な侯爵家を抜け出して推し活をしていた経験もあって、私は簡単に公爵家から脱出していた。
よーし! キャンベル侯爵家まで急いで行こう。
「……はぁ、はぁ、疲れたわ」
思った以上に遠く感じたが、何とか侯爵家の正門近くに到着した。
正門には警備の騎士が数人いるのが見える。これ以上近付いたら不審者にしか見えないだろう。裏門の方に行って様子を伺ってみよう。
すると、裏門には警備の騎士の他に若いメイドらしき女の子の姿がある。そのメイドは、少し離れた場所にいる私に気がつくと、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「待ってたわよ。メイド長が待ってるから、早くしてちょうだい」
「……はい?」
「貴女は今日から行儀見習いに入るのよね?
急いで! 荷物は後で届くのかしらね。ほら、早く行くわよ」
この若いメイドさんは、私を誰かと間違えているようだ。
「人違いですわ」
「急いでいる時に冗談に付き合っている暇はないのよ!」
その後も自分は違うと言っているのに、強引なメイドに強く手を引かれ、邸の中に連れて行かれてしまった。
「私は一時間くらい王宮の執務室で仕事をしてくるから、アリーは図書館でゆっくり過ごしていてくれ。私が迎えに来るまで知らない人物について行ってはダメだぞ」
アンダーソン公爵夫人の私を攫う人なんているはずがないわよ……
「分かっておりますわ。公爵様もお仕事頑張って下さいね」
「行ってくるよ……チュッ!」
「……っ!」
ニコッと微笑んだ公爵は、私の額にキスをして行ってしまった。
周りには人が沢山いて、年の差夫婦の私達はただでさえ目立つのに、公爵が余計なことをして更に目立ってしまい、恥ずかしさで顔が燃えるように熱くなっていた。
本当に昔とキャラが変わりすぎてついていけないわ……
公爵がいなくなった後、早速、前世の実家のことを調べ始める。
しかし、キャンベル侯爵領の歴史みたいな本はあるが今が分かるような本は見当たらない。両親や弟は何をしているんだろう?
更に、弟の現在を調べるために色々な名簿を見るが……
「ええと、ディック・キャンベル……ないわね。お父様のように王宮で大臣はやってないのね。まだ若いから平の文官でもやっているのかしら?
騎士になって姉上のことを守ってあげるってカワイイことを言ってたから、近衛騎士団にいたりして……」
王宮の文官名簿の中に弟のディック・キャンベルという名前は見当たらない。次は近衛騎士の名簿でも見てみようと思っていると、背後から急に声を掛けられる。
「私のお姫様は一体何を調べているんだい?」
「……公爵様、大したことは調べておりません。
お迎えありがとうございます。そろそろ行きましょうか」
「もういいのか? 調べ物なら私が手伝おう」
「今日はもう大丈夫です。行きましょう」
公爵に、必死になってキャンベル侯爵家のことを調べていたなんて言えなかった。
実家や弟のことが気になった私が計画したのは、王都にあるキャンベル侯爵家のタウンハウスの様子を見に行くということだった。侯爵家は私が今住んでいる公爵家の邸から馬車で10分もかからない。ギリギリ歩いていける距離だ。
無断外出になってしまうけど、公爵が留守の日にこっそり抜け出してちょっとだけ行ってこよう。
◇◇
「アリー、会議が長引きそうだが夕方までには帰るようにする。ディナーは一緒に食べよう。では行ってくるよ」
「……い、行ってらっしゃいませ」
メイドや従者、護衛騎士達が見ている前で私を堂々と抱きしめた後、公爵は王宮に出発した。
アリスの記憶が戻ったばかりのころは、この過剰なスキンシップが受け入れられずにゾーッとしていたが、最近では鳥肌は立たなくなって平気になりつつある。慣れは本当に恐ろしい。
絆されるつもりはないが、日に日に公爵のペースに巻き込まれている自覚はある。
離縁するつもりでいたのに、こんな中途半端な状態でどうしよう……?
いや、今はそのことよりもあの計画を実行する日よ!
今日は天気が良くて外出日和なだけでなく、仕事で公爵が留守にする日だ。
昼寝をするとか言ってメイドを部屋から追い出した後、行儀見習いの時に着ていたシンプルで比較的動きやすいワンピースに着替える。
バルコニーから木をつたって外に出て、茂みに隠れながら移動し、木登りをして高い塀を乗り越えた。
「ふふっ……。脱出成功ね」
結婚前に公爵家で行儀見習いをしていたので、使用人用の通路や人の少ない場所に詳しかったことと、前世で警備の厳重な侯爵家を抜け出して推し活をしていた経験もあって、私は簡単に公爵家から脱出していた。
よーし! キャンベル侯爵家まで急いで行こう。
「……はぁ、はぁ、疲れたわ」
思った以上に遠く感じたが、何とか侯爵家の正門近くに到着した。
正門には警備の騎士が数人いるのが見える。これ以上近付いたら不審者にしか見えないだろう。裏門の方に行って様子を伺ってみよう。
すると、裏門には警備の騎士の他に若いメイドらしき女の子の姿がある。そのメイドは、少し離れた場所にいる私に気がつくと、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「待ってたわよ。メイド長が待ってるから、早くしてちょうだい」
「……はい?」
「貴女は今日から行儀見習いに入るのよね?
急いで! 荷物は後で届くのかしらね。ほら、早く行くわよ」
この若いメイドさんは、私を誰かと間違えているようだ。
「人違いですわ」
「急いでいる時に冗談に付き合っている暇はないのよ!」
その後も自分は違うと言っているのに、強引なメイドに強く手を引かれ、邸の中に連れて行かれてしまった。
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