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記憶が戻った後の話
48 不審者
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若いメイドさんにガッチリと手を引かれ、キャンベル侯爵家の中に連れていかれる。
「本当に人違いです! 手を話していただけますか?」
「嘘をついても無駄よ。貴女はエイムス子爵令嬢でしょ? 行儀見習いに来るのを嫌がり、逃亡する可能性があるから強引に連れて行くって連絡を受けているのよ。やる気がないから厳しく躾けてやって欲しいとも言われているわ」
今日に限って行儀見習いにくる令嬢がいたなんてー!
しかも、逃亡の可能性のある問題児の令嬢ですって? 私みたいだわ。
「貴女は貴族令嬢にしか見えないし、エイムス子爵家からは、あの時間に裏門に送って行くと言われているの」
「でも、私はエイムス子爵令嬢ではありませんわ!」
「じゃあ、貴女は誰なの? 名前を教えてくださるかしら?」
「……」
どうしよう……。アンダーソン公爵夫人ですなんて言えない。公爵家を脱走してきたなんて絶対に言えないよ。言っても信じてもらえないと思うけど。
「何も言えないってことは、貴女はエイムス子爵令嬢で間違いないわね……」
そんなやり取りをしているうちに邸の中に入っていた。中には使用人が沢山いて、私達をジロジロ見ている。
知らない使用人ばかりだわ……
アリスが死んで18年以上経つ。死ぬ前にいた使用人はベテランばかりだったから、みんな退職してしまったのだろう。
アリスのメイド達は若かったけど、独身だったから結婚退職してしまったかもしれない。私の推し活に理解を示してくれた優しいメイド達だった。
すると奥から見たことのある女性がやってくる。
「メイド長、エイムス子爵令嬢が到着しました」
私を連れてきたメイドがその女性をメイド長と呼んでいるが、あれはアリスの専属メイドだったブレンダだ!
ブレンダは私を見て一瞬ギョッとしていた。アリスにそっくりだから驚いたのだろう。
「……そちらがエイムス子爵令嬢?」
「はい! 逃げ出そうとするので、手を繋いでお連れしました」
私とメイド長のブレンダに対する口調が全然違うことにモヤッとするけど、今はそんなことは気にしてられない。
「貴女は本当にエイムス子爵令嬢ですか? 私がお聞きしていた容姿とは違いますが……」
さすがブレンダだわ! 私が子爵令嬢と違うことに気付いてくれた。
「違います! 私は偶然、この近くを歩いていただけなのです」
「まあ! 大変申し訳ありませんでした。
リズ、ご令嬢の手をお離してすぐに謝罪をするのです」
私をここまで連れて来たメイドはリズという名前らしく、ブレンダから謝るようにと言われた瞬間に顔色を悪くする。
「そんな……あの時間に邸に来られたから、この方がエイムス子爵令嬢かと」
「エイムス子爵令嬢は、長身で赤茶色の髪のご令嬢よ。騎士の家門のご令嬢で剣術の心得があると聞いているわ。こちらのご令嬢は、か細く美しい手をしていて剣を握るようには見えないでしょう?」
「あっ! ……私ったらなんて事を!
申し訳ありませんでした」
エイムス子爵令嬢の特徴を聞いたメイドは、私が別人だとやっと気付いて謝ってくれる。
「分かってくださったのなら良かったですわ。
私はこれで失礼します……」
邸の周りをうろついて様子を伺って帰ろうと思っていたのに、このメイドに捕まったおかげでムダに目立ってしまった上に時間まで経ってしまった。早く帰らないと公爵に無断外出がバレてしまう。
「うちのメイドが申し訳ありませんでした。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
リズがご令嬢を強く引っ張ったせいで手首が赤くなっておりますわ。手当をさせて下さいませ」
「……これくらい大したことはありませんわ。放っておけば勝手に治りますから。
それよりも、私はそろそろ行かなくてはならないので、これで失礼致します」
早く帰りたかったのと、ちょっとの傷やアザなんて気にしない私は手当てはいらないと断る。しかし、私の話を聞いていたブレンダが眉間に皺を寄せていた瞬間を私は見逃さなかった。
あの表情はブレンダが何かを疑っている時の顔だわ。今の私は不審者に見えているのね。
「そうはいきませんわ。うちのメイドの失態により、ご令嬢に怪我をさせたようなものなのです。
怪我の手当てと、ご令嬢の保護者様には正式に謝罪をさせていただきます」
げっ! そんな事をされたら公爵にバレて説教されちゃう。
「あ、あの! 実はお忍びで散歩をしていただけなので、あまり大事にさせたくないのです。
本当に大丈夫ですから、このまま帰らせて下さいませ」
「しかし、こちらの失態ですから……」
こんな感じで帰ると言い張る不審者の私と、謝罪と怪我の手当てをしたいと言うブレンダでやり合っていると、傍観していた他の使用人達が騒つく。誰かが来たようだ。
「メイド長、うちの使用人が怪我をさせたご令嬢はそちらの方か?」
「侯爵様、こんな所まで申し訳ありません。
こちらのご令嬢です。行儀見習いに入る予定だったエイムス子爵令嬢と間違えて、お忍びで散歩をしていたご令嬢をリズが強引に引っ張ってお連れしたせいで、手首にアザが」
ブレンダが侯爵様って呼んでいるということは、この人が弟の……
「本当に人違いです! 手を話していただけますか?」
「嘘をついても無駄よ。貴女はエイムス子爵令嬢でしょ? 行儀見習いに来るのを嫌がり、逃亡する可能性があるから強引に連れて行くって連絡を受けているのよ。やる気がないから厳しく躾けてやって欲しいとも言われているわ」
今日に限って行儀見習いにくる令嬢がいたなんてー!
しかも、逃亡の可能性のある問題児の令嬢ですって? 私みたいだわ。
「貴女は貴族令嬢にしか見えないし、エイムス子爵家からは、あの時間に裏門に送って行くと言われているの」
「でも、私はエイムス子爵令嬢ではありませんわ!」
「じゃあ、貴女は誰なの? 名前を教えてくださるかしら?」
「……」
どうしよう……。アンダーソン公爵夫人ですなんて言えない。公爵家を脱走してきたなんて絶対に言えないよ。言っても信じてもらえないと思うけど。
「何も言えないってことは、貴女はエイムス子爵令嬢で間違いないわね……」
そんなやり取りをしているうちに邸の中に入っていた。中には使用人が沢山いて、私達をジロジロ見ている。
知らない使用人ばかりだわ……
アリスが死んで18年以上経つ。死ぬ前にいた使用人はベテランばかりだったから、みんな退職してしまったのだろう。
アリスのメイド達は若かったけど、独身だったから結婚退職してしまったかもしれない。私の推し活に理解を示してくれた優しいメイド達だった。
すると奥から見たことのある女性がやってくる。
「メイド長、エイムス子爵令嬢が到着しました」
私を連れてきたメイドがその女性をメイド長と呼んでいるが、あれはアリスの専属メイドだったブレンダだ!
ブレンダは私を見て一瞬ギョッとしていた。アリスにそっくりだから驚いたのだろう。
「……そちらがエイムス子爵令嬢?」
「はい! 逃げ出そうとするので、手を繋いでお連れしました」
私とメイド長のブレンダに対する口調が全然違うことにモヤッとするけど、今はそんなことは気にしてられない。
「貴女は本当にエイムス子爵令嬢ですか? 私がお聞きしていた容姿とは違いますが……」
さすがブレンダだわ! 私が子爵令嬢と違うことに気付いてくれた。
「違います! 私は偶然、この近くを歩いていただけなのです」
「まあ! 大変申し訳ありませんでした。
リズ、ご令嬢の手をお離してすぐに謝罪をするのです」
私をここまで連れて来たメイドはリズという名前らしく、ブレンダから謝るようにと言われた瞬間に顔色を悪くする。
「そんな……あの時間に邸に来られたから、この方がエイムス子爵令嬢かと」
「エイムス子爵令嬢は、長身で赤茶色の髪のご令嬢よ。騎士の家門のご令嬢で剣術の心得があると聞いているわ。こちらのご令嬢は、か細く美しい手をしていて剣を握るようには見えないでしょう?」
「あっ! ……私ったらなんて事を!
申し訳ありませんでした」
エイムス子爵令嬢の特徴を聞いたメイドは、私が別人だとやっと気付いて謝ってくれる。
「分かってくださったのなら良かったですわ。
私はこれで失礼します……」
邸の周りをうろついて様子を伺って帰ろうと思っていたのに、このメイドに捕まったおかげでムダに目立ってしまった上に時間まで経ってしまった。早く帰らないと公爵に無断外出がバレてしまう。
「うちのメイドが申し訳ありませんでした。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
リズがご令嬢を強く引っ張ったせいで手首が赤くなっておりますわ。手当をさせて下さいませ」
「……これくらい大したことはありませんわ。放っておけば勝手に治りますから。
それよりも、私はそろそろ行かなくてはならないので、これで失礼致します」
早く帰りたかったのと、ちょっとの傷やアザなんて気にしない私は手当てはいらないと断る。しかし、私の話を聞いていたブレンダが眉間に皺を寄せていた瞬間を私は見逃さなかった。
あの表情はブレンダが何かを疑っている時の顔だわ。今の私は不審者に見えているのね。
「そうはいきませんわ。うちのメイドの失態により、ご令嬢に怪我をさせたようなものなのです。
怪我の手当てと、ご令嬢の保護者様には正式に謝罪をさせていただきます」
げっ! そんな事をされたら公爵にバレて説教されちゃう。
「あ、あの! 実はお忍びで散歩をしていただけなので、あまり大事にさせたくないのです。
本当に大丈夫ですから、このまま帰らせて下さいませ」
「しかし、こちらの失態ですから……」
こんな感じで帰ると言い張る不審者の私と、謝罪と怪我の手当てをしたいと言うブレンダでやり合っていると、傍観していた他の使用人達が騒つく。誰かが来たようだ。
「メイド長、うちの使用人が怪我をさせたご令嬢はそちらの方か?」
「侯爵様、こんな所まで申し訳ありません。
こちらのご令嬢です。行儀見習いに入る予定だったエイムス子爵令嬢と間違えて、お忍びで散歩をしていたご令嬢をリズが強引に引っ張ってお連れしたせいで、手首にアザが」
ブレンダが侯爵様って呼んでいるということは、この人が弟の……
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