目覚めたらバッドエンドを迎えた後のヒロインだった件

せいめ

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乙女ゲームとバッドエンド

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 引きこもりだった前世の私がやっていたゲームがあった。それは『恋は桃色』という乙女ゲームである。

 桃色の髪のヒロイン『エリー』が貴族学園に入学して恋をするというありきたりなゲームで、ヒロインは男爵令嬢で身分は低いものの、美しい容姿と貴重な治癒魔法の使い手ということで学園中の生徒から注目される。
 少々抜けているが、頑張り屋で素直で誰にでも優しいヒロイン。そんなヒロインに特に惹かれていたのが、この国の将来を担う王太子殿下とその取り巻きの側近候補たち。
 学園は身分が関係ないからと、友人として親しく接してくる殿下&取り巻き。しかし、その婚約者達はそれを良くは思わず、嫌がらせが始まるという内容だ。

 殿下と両想いになって恋愛関係になれば二人は結婚して幸せになれる。しかし、このゲームはバッドエンドが多く存在する。それは殿下以外の人と結婚した場合だ。

 宰相の子息を選んだ場合、結婚後に義母(悪役令嬢の叔母)から酷い嫁いびりをされて精神を病み、幽閉されて死ぬ運命。

 騎士団長の子息を選んだ場合は、騎士団員の騎士との不貞を疑われ、酷いヤンデレである子息と無理心中させられてしまう。

 神官長の子息を選ぶと神殿でタダ働きをさせられ、治癒魔法の使い過ぎで若くして死ぬ運命。

 王太子殿下の婚約者である悪役令嬢の弟の公爵令息を選ぶと、悪役令嬢の手先であるメイドに媚薬を盛られた後、護衛騎士に手籠にされて自殺する。

 隠しキャラ①の情報ギルド長の子息を選ぶと、敵対するギルドに誘拐されて殺される。

 隠しキャラ②の魔法教師の公爵を選ぶと、嫉妬深い公爵に監禁され、使用人にいじめられて自殺する。
 
 生きるためには王太子殿下と結婚しなくてはならないが、王太子殿下の婚約者の悪役令嬢が強敵でなかなか恋に発展しない。
 悪役令嬢は金持ち公爵家の令嬢で、親の権力で王太子殿下の婚約者の座を手に入れた典型的な悪役令嬢だ。
 もちろん王太子殿下に対する愛執が半端ない。実家の権力、金、持ち前の頭脳を使ってありとあらゆる嫌がらせをしてくる。
 貧乏男爵家の令嬢であまり優秀でないヒロインが勝つのは非常に難しく、『このゲームのヒロインはかわいそう』とか『ハッピーエンドなんで無理』だなんて口コミが沢山あったほど。
 
 そして、今の私の名前はエリー。美しく愛らしい顔立ちに薄い桃色の髪、小柄だけど出ているところはいい感じに出ていて男ウケしそうな体、夫は魔法の教師をしていた嫉妬深い公爵。間違いなく『恋桃』のエリーだ。私はゲームの中に転生してしまったらしい。
 王太子殿下ではなく公爵が夫で、少し前に自殺未遂をしたことを考えると、今の私はバッドエンドを迎えた後だと思われる。
 しかし、私はなぜ生きているのだろう? ゲームの中では公爵との結婚後に自殺で死ぬはずなのに……

 色々考えてみたが理由が全く分からない。とりあえず静かに部屋に引きこもっていれば、ヤンデレ気味の公爵を刺激せずに済むだろう。
 お金持ちの公爵家だから無理に働く必要もないし、最高の部屋にフカフカのベッド、美味しいご飯とオヤツに優秀なメイドまで付いていて昼寝し放題。引きこもりには最高の環境だ。

 余生は穏やかな引きこもり生活を送れるように頑張ろうっと!


⭐︎⭐︎


 目覚めてから約一ヶ月後、私は順調に回復し日常の生活を送れるようになっていた。
 公爵家の力を使い、王宮所属の治癒魔法使いに回復魔法をかけてもらえたお陰だ。

「エリー、今日は天気がいいから、久しぶりに庭でお茶でもしないか?
 君のために植えた花々がちょうど見頃なんだ。庭師たちが君を喜ばせたいと熱心に世話をしていたようだから見てやるといい」

 優しい笑みを浮かべながら、王命で結婚しただけの妻である私をお茶に誘ってくる夫。
 夫はサラサラの黒髪を一つに纏め、ブラックダイヤモンドのような神秘的な瞳を持つ二十四歳の大人の男性。背が高く騎士のように鍛えれた体に、一目見たら忘れられなくなるほど整った顔の美丈夫だ。
 更に夫は我が国の公爵でもあり、様々な魔法を完璧に使いこなす凄い人で、私が卒業した貴族学園の魔法学の先生でもあった。一見すると完璧な人のようだが、実は嫉妬深いヤンデレという欠点もある。

「フィル、花ならこの部屋からでも見えているから、わざわざ庭に出る必要はないと思うの。
 庭師たちには、素晴らしい仕事に私が感謝していたと伝えてくれるかしら」

 自慢の夫からのお誘いをサラッと断る妻の私は、まだ幼さの残る十九歳の元男爵令嬢。
 自意識過剰になってしまうが、元ヒロインの私はとても可愛い。薄い桃色のふわふわの髪に大きな水色の瞳。魅了の魔法なんて使わなくてもみんなから愛され(そんな魔法は使えないが)、特技は治癒魔法。沢山の動物、子供、大人(一部の女性を除く)にまで好かれてしまう、これまた凄い女の子だった。

「エリーは事故の後からずっと部屋に引きこもっているだろう? それは体に良くない。たまには太陽の光を浴びることも必要だと思う。陛下や殿下たちも、邸から出てこない君を心配しているんだ。
 そうだ! お茶が嫌なら、二人で出かけるのもいいな。エリーの好きな所に連れていこう」

 必死になって私の興味を惹こうとする夫。しかし、私は外出なんて全くしたいと思わない。

「フィルは私が他の人の目に晒されることを嫌がっていたでしょう? 使用人だけでなく、私の家族・友人・先生に通りすがりの子供まで、男性なら誰であっても私の近くにいることを嫌がるじゃない。
 私は妻として、夫であるあなたを不安にさせることはしたくないの。他人と関わる可能性のある外出なんてしなくていいわ。この部屋で静かに過ごすことが一番だって、あなたも分かっているでしょう?」

 以前の私は田舎で伸び伸びと育ってきたこともあり、外で活発に動くことが大好きだった。自然が大好きで花を育てたり、ピクニックに出かけたり、街を自由に散策して子供たちに話しかけたり。
 結婚してからは、公爵夫人として社交を沢山こなし、色々な人と交流を深めた。
 しかし夫はそれを良くは思わなかったらしく、結婚後しばらくすると私を離れの邸に閉じ込めた。更に、邸で仲良くなった庭師や騎士、従者、料理人たちを私に色目を使ったと思い込んでは何人もクビにしたのだ。今では私の周りの使用人は初老の家令以外、全てが女性だ。

「エリーはいるだけで周りの目を引くし、誰からも好かれてしまうから、私は年甲斐もなく嫉妬してしまった。本当に愚かだったと思う。
 心から反省している。だから、前と同じように私と一緒に過ごしてくれないか?」

「一緒に過ごすなら、ここで二人きりで読書をしましょうか。外になんて出なくてもいいの。私は邸の中であなたと過ごせればそれで幸せなのよ」

「エリー……」

 夫は寂しげに私を見つめているが、病的に嫉妬深くてヤンデレ気味の夫と出掛けるなんて、そんな命知らずなことはしないに限る。
 私が偶然他の男性を見ただけで、夫は殺気を放って面倒な男になるし、ヒヤヒヤしながら外出するくらいなら、引きこもっている方が安心・安全なのだから。

 
 
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