元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 男爵令嬢 5

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 私が話を終えると、王太子殿下は目を見開いて

「君、想像以上にすごいね。これは放っておいたら、確実にマリーベルの命が危なかったね。」
「アルベルト、最近はマリーベルにベタベタして、ただのシスコンになってしまったのかと心配していたけど…、さすがあの切れ者の叔父上が可愛がる義息子だけある。よくやった!!」

「王太子殿下、お忙しい中、協力して頂きありがとうございました。…ただのシスコンと言われるのは心外ですが。」
「今回は、担任のルーベンス先生が協力してくれたことも大きいのです。マリーベルが幼い頃から家庭教師としてお世話になっていて、マリーベルは先生をとても信頼しているのです。」

「ルーベンスと言ったね?マリーベルの担任の。今回は大義だったね。私達の大切な従姉妹を守ってくれて、ありがとう。あっ、もしかして外交官のルーベンス伯爵の子息かな?」

「勿体ない御言葉にございます。当然の事をしたまでです。そして殿下の言われた通り、父は外交官のルーベンスでございます。」

「殿下、今のマリーベルがいるのはルーベンス先生のおかげなのです。マリーベルが話していたのですが、幼い時に体が弱くて領地を出れず、両親と離れて暮らして寂しかったけど、ルーベンス先生達のおかげで、頑張ることが出来たと言ってました。そして、マリーベルは才媛と言われる程に成長したのです。」

「マリーベルをあそこまで大切に育ててくれたのか。心から感謝するよ。若いのに、なかなかの手腕だ。」

「殿下、発言よろしいですか?」

「シリル、どうした?」

「マリーベル嬢の担任のルーベンス卿を学園の首席教員にしてはどうでしょう?今の貴族学園は仕事の出来ない、古狸みたいな教員が多すぎます。そのおかげで、学力も教養もすべてのレベルが下がってきていますし、聖女子学園にどんどん差をつけられている状態です。特に、令嬢方のレベルの低さが問題です。これは将来の国力にも関わる問題でもあるかと。しかも来年度は第一王子殿下が初等部に入学されるのに、あんな古狸たちには任せられませんよ。若くて実力のあるルーベンス卿を筆頭に、貴族学園も改革していく必要があると思うのです。」

「…その通りだな。すぐに学園の人事に取り掛かろう。それと、ルーベンスには爵位も必要だな。身分だけを気にする者はまだ多いから、爵位を持っている方が、動きやすいだろう。ルーベンス、色々大変だが頼んだよ。」

「仰せのままに。」

 私の存在を気にせずに話し合いをする方達。そこで私に気付いた生徒会長が口を開く。

「彼女はもう学園には在籍できませんよね?実家の男爵家には何と説明するのでしょう?」

「マリーベルに死んで欲しいと思っているところで、反逆罪だ。男爵家も取り潰してもいいくらいだ。」

「そうですわね。王家の血を引く姫に嫌がらせをして、危害を加える危険がある令嬢の実家なんて、取り潰しくらいしないと、周りの貴族達にも示しがつきませんわ。死ねばいいなどと言っている時点で反逆です!」

 どうして反逆罪に?彼女は侯爵家の養女でしょ?ただの養女に少し嫌がらせしただけじゃない。王家の血を引くのはフォーレス侯爵令息でしょ?
 私は自白剤を飲んでいたので、思ったことが、そのまま口に出てしまった。
 私の言葉を聞いた殿下は呆れて

「アルベルト、この令嬢にはそのように見えていたらしいよ。それだけ君が、叔父上たち家族に大切にされていたということだろうけどね。」

「だから男爵令嬢は嫌なのですわ。無知で教養もなくて、家族も娘を教育しようとしない家が多くて。まともな方もいらっしゃるのは知っているのですが。」

 フォーレス侯爵令息は不快そうな表情だ。

「本当に君にはガッカリだ。貴族学園の他の令嬢とは違って真面目で努力家だと思っていたのだが。」
「私は義母のフォーレス侯爵夫人の従姉妹の息子だ。馬車事故で両親を亡くした私をフォーレス侯爵夫妻が引き取って大切に育ててくれたのだ。マリーベルはそんな私を心配して、陰で両親に強く注意をしていたらしい。お兄様は傷ついているだろうから、大切にしてやって欲しい、私は平気だからお兄様を優先して欲しい、家族で1番はお兄様だ、私を愛してくれたようにお兄様も愛して欲しいと。体が弱くて、1人で領地にいるマリーベルがだ。幼いマリーベルだって寂しい思いをしていただろうに。しかもマリーベルは、あの聖女子学園の入学式ですら両親の参加を断り、私の貴族学園の入学式に両親を優先して参加させたのだ。貴族学園で私が肩身の狭い思いをしないようにと、考えてくれたのだろう。そんな優しいマリーベルに、こんな事をして許されると思うなよ!」

 そんなこと知らなかった…。あの仲が良さそうなフォーレス侯爵家にそんな事情があったなんて。

「あの御令嬢にそっけなかったアルベルトは、そのような過程を得てシスコンへと変化したんだね!」

「まあ!マリーベルはなんて心の優しい子なの!ねぇ、マディソン殿もそう思いますでしょ」

「妃殿下、わざわざ振らなくても、そう思っていますよ。」

「叔母上、マリーベル嬢はうちの領民にも慕われているのですよ。領内の病院に聖女子学園が休みの日に来ては、治癒魔法で病気を治し、ピアノ演奏で心を癒やしてくれ、まるで聖女様だと。そんな心優しいマリーベル嬢が、自分に危害を加えようとしたとはいえ、男爵家が取り潰されたと知ったら悲しむのでは?取り潰しまではしなくとも、本人にきちんと罪を償わせればいいのではないでしょうか?アルベルトも、マリーベル嬢の悲しむ顔は見たくないだろう?」

「そうですね。絶対に許すことはしませんが、私の最愛のマリーが悲しむ顔だけは見たくないですね…。
 位置情報ネックレスを着用させて、逃げられない場所で監視してくれるなら、いいと思います。」

「殿下、叔母上。アルベルトもこう言ってますので、男爵家には今回のことについて厳重に注意し、御令嬢本人は、位置情報ネックレスを装着させ、最北の修道院に送るということでもよろしいでしょうか?」

「厳しいと評判の最北の修道院なら、自力で出て来れないだろうから、それで妥協するか。」
「シリル、男爵は明日にでも、王宮に呼びだせそうかな?」

「ええ。王太子殿下からの呼び出しに応じなければ、それこそ、反逆の意思ありと思われますから、慌てて来るでしょうね。」

「ソフィーも、それでいい?」

「マリーベルが安全なら、今回はそれで我慢しますわ。」
「それと、アラン!学園内の不穏な動きは生徒会長として、しっかり管理なさい。学園は社交だけでないのです。よからぬ思想や宗教を広めたり、反逆を企てたりする者がいたっておかしくないのですから。」

「肝に銘じます。」


 次の日、王太子殿下に呼び出された両親は、顔を真っ青にしていた。私が学園で殿下の従姉妹の姫に行った事を聞き、強く注意されたのだろう。ただでも、立場のない男爵家なのに、これからは更につらい立場になるのが目に見えている…。
 
 顔色の悪い両親に見送られ、位置情報ネックレスと手枷をつけられた私は、質素な馬車で、最北の修道院へ旅立つのであった。


 つまらない嫉妬と欲で、私は全てを失ったのである。

 
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