元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 男爵令嬢 4

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 私が破いたノートを見て、悲しそうにするフォーレス侯爵令嬢。それを彼女の友人達が励まそうとしている。沢山の友人に囲まれているのだから、これくらい大した事ないじゃない。大袈裟なのよ!
 しかしその後、彼女の義兄のフォーレス侯爵令息が放った言葉に、私は狂いそうになる。

「マリーは私が守るから大丈夫だ。そんな悲しそうな顔はしないでくれ。」

 優しい言葉を掛けて、彼女を大切そうに抱き寄せるフォーレス侯爵令息。

 どうして?彼女は義理とはいえ、ただの兄妹よ。パーティーでは、次期宰相と楽しそうにダンスしてたし、貴方のことなんてそこまで意識してないじゃない。美しいからって騙されないで。彼女が来る前の貴方に戻って!少しは私のことも見て!

 彼女を愛しそうに見つめるフォーレス侯爵令息を見るたびに、私はどんどん理性を失い、狂っていくのであった。
 そして彼女の机に、私の彼女への正直な気持ちを書きこんだ。
〝学園辞めろ、死ね、いなくなれ〟

 もう狂った自分を止めることが出来ず、違う日にはまた教科書を破いていた。
 そんなある時、机にメモが入っているのを見つける。メモには〝犯人〟とだけ書いてあったのだ。こんな物、誰が入れたのかしら。もしかしてバレた?慌てるな、落ち着け私。何となく周りを観るが、クラスメイト達は特に普通に見える。大丈夫よ。犯人はあの伯爵令嬢だとみんな思っているのだから。
 その時にやめておけばよかったのに、後日、情緒不安定だった私は、またフォーレス侯爵令嬢の机に嫌がらせの落書きをしてしまう。ペンで〝目障り、悪女、死ね〟と書いているその時だった……。

 背後から体をグッと拘束される。えっ?何が起こっているの?

「動くな!!」

 よく分からないまま、後ろ手に縛られて、学園の警備騎士に連行される。そのまま、簡素な馬車に乗せられる。えっ、どこに連れて行かれるの?怖い!
 馬車からは王宮が見えてくる。どうして王宮なの?王宮の人気のない裏口のような所で、降ろされ、暗い地下牢へ連れて行かれる。怖すぎて、言葉が出てこない。
 拘束は解かれ、地下牢の中に入れられる。何が起こっているのか分からないでいると、誰かが来る足音が…。あっ!担任のルーベンス先生だわ。

「先生、どうして私はここにいるのでしょうか?助けてください。」

 ルーベンス先生は、冷やかな笑顔だ。

「どうして?こっちが、聞きたいですよ。なぜ、あの様な嫌がらせをしたのですか?現行犯で捕まったのですよね?」

「違います!私は脅されて、嫌がらせをするように命令されたのです。」

「それは、本当ですか?嘘はバレますし、許されませんよ。」

「本当です。先生、信じて下さい!」

 私は助かりたくて必死だった。

「……と話しておりますが、どういたしましょうか?」

 ルーベンス先生が通路の入口の方を見て、誰かに話掛けている。ここからは見えない位置に誰かがいたようだ。すると、数人がスッと現れる。現れたのは、私がずっとお慕いしていた、フォーレス侯爵令息と、王太子殿下夫妻、次期宰相様、そして生徒会長の5人であった。
 どうしてこの方たちいるの?

「へぇー、君が私のかわいい従姉妹のマリーベルに危害を加えようとした男爵令嬢?真面目そうに見えるのに、人は見かけによらないね。」

「あら、殿下。男爵令嬢はタチが悪い令嬢が多いではありませんか。ほら、私達が学園に在籍していた時も、身の程を弁えない男爵令嬢がアンに嫌がらせをしてましたでしょ。あの時はマディソン殿が、上手くあの令嬢を消してくれましたけど…。」

 何を言っているのだろう…。タチが悪いって何?かわいい従姉妹って?
 その時に、生徒会長が口を開いた。

「マリーベル嬢と同じクラスの君が、彼女に嫌がらせをしていたことは、もう調べがついているんだ。ルーベンス先生とアルベルトが、君に影をつけて監視していたからな。初等部まで真面目で成績優秀だったと聞いていたし、とても残念だ。」

 …全部見られていたの?まさか!

「私は、ミラー伯爵令嬢に脅されてやっただけなのです。どうか信じてください。」

 ルーベンス先生が低い声で言う。

「始めは、ミラー伯爵令嬢を疑って、彼女のことも影をつけて調べたのですが、何もありませんでした。ミラー伯爵令嬢とあなたとの間にも接点は見つかりませんでしたよ。それでも、あなたを信じろと?」

 そこで初めてフォーレス侯爵令息が口を開く。

「ははっ。ルーベンス先生、やはり彼女は自分の非を認めたくないらしい。王太子殿下に頼んで、自白剤を用意してもらえて良かったですよ。私達だけの力では、拘束出来ても、自白剤を使ってまで調べるなんて、許されませんでしたから。」

 彼の私を見る目は、害虫を見るような目だ。そんな冷たい目で見ないで!
 自白剤って、犯罪者に使用される薬品じゃない?そんなのイヤ!

「アルベルトから、マリーベルのことで急ぎの相談があると珍しく接触してきたから、何かあったのだろうと思ったけど…。確かにこういうタイプの令嬢は放っておくと危険だからね。…自白剤持ってきて!」

 王太子殿下が声を掛けると、騎士が3名やってきて、体を取り押さえられ強引に自白剤を飲まされてしまった。
 自白剤を飲まされて私は、話したくないことまでペラペラと喋っていた。

 将来は文官になりたかったので、今まで必死に勉強して、トップ争いをしていたのに、聖女子学園から優秀な令嬢が、沢山編入してきて焦っていたこと。
 フォーレス侯爵令息をお慕いしていたのに、義妹のフォーレス侯爵令嬢が編入して来て、彼が義妹を愛しそうに大切にする姿が許せなかったこと。
 フォーレス侯爵令嬢は、美しいだけでなく、勉強もダンスも全てが完璧で、自分が惨めになっていたこと。そして、沢山の友人に囲まれていて羨ましかったこと。
 フォーレス侯爵令嬢が大嫌いだから、学園に来てほしくない、目障りだし、死ねばいいのにと思ったこと。彼女がいなくなれば、フォーレス侯爵令息は、いつか私を見てくれる日が来るかもしれないと期待していたこと。こんなことまで喋ってしまった…。



 私は終わった…。
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