元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

文字の大きさ
125 / 161
ヒロインがやって来た

その頃王都では シールド公爵 1

しおりを挟む
 夜間にも関わらず、珍しく王太子殿下から呼び出しがかかる。王宮に着くと、偶然なのか王都騎士団長のエリックの姿まである。

「お前も殿下に呼ばれたのか?」

「ああ。こんな時間に呼び出されるなんて、何か大きな事件でもあったか?」

 2人で殿下の執務室へ向かう。ドアの前に行くと、近衛騎士が私達の到着を中に伝えて、ドアを開けてくれた。

 中にいたのは、王太子殿下・マディソン・近衛騎士団長・フォーレス侯爵であった。珍しい組み合わせだ。みんな険しい顔をしている。

「シールド公爵に王都騎士団長、夜分に呼び出して悪かったね。」

「いえ。何かあったのでしょうか?」

「…マリーベルがいなくなった。最後に確認されたのは王宮の図書館で、図書館が閉まる時間になっても、外に出て来ないことを不思議に思った付き添いのメイドが、図書館の司書に尋ねたことで、居なくなっていることに気付いたらしい。」

 目の前が真っ暗になった。彼女がいなくなった?なぜ?

「叔父上。もう一度、詳しく話してもらえますか?」

 殿下に促されるフォーレス侯爵。

「マリーベルの専属のメイドが、司書に図書館から戻って来ていない事を伝えて、司書と一緒に図書館の中を探したらしい。すると、マリーベルが読んでいたと見られる本が数冊、床に落ちていたようだ。今日は、図書館を利用していた人が少なく、閉館前の時間には利用者はマリーベルくらいしかいなかったらしい。閉館時間にマリーベルの姿が見えないから、司書はすでに帰ったのかと思ったと話していた。最近ずっと体調が悪かったマリーベルが、家出するなんてあり得ない。恐らく、図書館で何者かに拐われたのだと思う。許可証がないと入れないはずの、安全な図書館に入り込むなんて、相当な手練れか、王宮や図書館内部にかなり詳しい者の犯行だ。安全な場所だと思い込んで、護衛を付けなかったことが駄目だったようだ。」

 悔しそうな、悲しそうな、そんな表情で話すフォーレス侯爵。王族がここまで人前で感情を出すなんて。フォーレス侯爵が彼女を溺愛しているのが、痛いほど伝わる。

「シールド公爵には、騎士団長達と協力して、極秘に捜索して欲しい。私のかわいい従兄妹を探し出してくれ!」

「仰せのままに。」

 冷静に、感情を押し殺せと自分に言い聞かせる。
 近衛騎士団長には、引き続き王宮や図書館の捜索と調査を依頼する。騎士達に箝口令を敷くことも、念を押しておく。
 エリックは、王都内の捜索と調査。王都騎士団には、彼女の顔見知りや、治癒魔法でお世話になった騎士が沢山いるから、みんな、必死で探すだろうと言っていた。王都の出入り口で検問もするらしい。
 念のため、国境でも検問してもらえるように、辺境伯に早馬を飛ばしてもらった。彼女を可愛がっていた辺境伯なら、すぐに動いてくれるだろう。港の客船も念入りにチェックしてもらえるように、出入国の管理官に連絡を入れた。

 しかし、どこを探しても全く手掛かりが掴めない。彼女はどこへ行ってしまったのだろう。日に日に焦りが出てくる。

 最近の彼女は、とにかく体調が悪そうだった。痩せて、元気もなさそうで、思い詰めたような表情をしていたように見えた。
 噂でスペンサー卿と付き合っているが、まだ婚約は認めてもらえてないと耳にした。そして、スペンサー卿や、義兄と夜会に来ていた彼女は、あまり幸せそうには見えなかった気がする。2人が彼女を溺愛しているのは、誰から見ても分かると思う。しかし、彼女の方はそれを喜んでいるようには見えなかったのだ。エリックもそう感じたようで、

「年上で恋愛経験の豊富なスペンサー卿に、逃げられないように外堀でも埋められたか?スペンサー卿は彼女にかなり本気のようだからな。」

 そして、スペンサー卿にずっと好意を寄せていると思われる、シナー公爵令嬢。この令嬢は黒い噂しか聞かない。スペンサー卿が溺愛する彼女の存在は、シナー公爵令嬢にとっては目障りのようで、夜会や近衛騎士団の遠征の出発式の時には彼女に絡んでいた。あの時、出発するスペンサー卿は、彼女を愛おしそうに抱きしめて、キスをしていた。私自身が嫉妬でおかしくなりそうだったので、シナー公爵令嬢の様子までは見ていなかったのだが、あれを見ていたらあの女だって嫉妬に狂ってもおかしくはないと思う。

 そう言えば、彼女はあの時にシナー公爵令嬢にすごい事を聞いていたな。
 『…私は殺されるのでしょうか?』と。もしかして、最近、彼女が元気を無くしていたのは、シナー公爵令嬢が関係しているのか?シナー公爵令嬢が怖いが、スペンサー卿は離してくれなくて、困っていたとか?こんなことになるなら、あの時に無理にでも引き止めて、彼女が何を悩んでいるのか聞き出せばよかった。本当に後悔しかない。
 あの令嬢なら、何をしてもおかしくはない。しかし、相手は公爵令嬢だ。はっきりした証拠がないのに、本人を呼び出して調べることは難しい。だが時間がないのだ。体調の悪い彼女がどこか酷いところに閉じ込められていたら?娼館や奴隷商に売られてしまっていたら?それとも、彼女はすでに…。いや、そんなことは考えたくない。彼女のことを思うと、心が引き裂かれそうだ。
 これは…、あの時のように殿下の力を借りるか。

 王太子殿下に、最近の彼女の様子やシナー公爵令嬢に 『…私は殺されるのでしょうか?』と聞いていたことを話して、はっきりした証拠はないが、シナー公爵令嬢は何かを知っている可能性を伝える。シナー公爵令嬢に、自白剤を飲ませて調査出来ないかと。
 王太子殿下は、恐ろしい事を話す。シナー公爵である彼女の兄は、昔から妹のことが大嫌いだから、自白剤を飲ませようが、拷問しようが、暗殺しようが、何とでも誤魔化す事が出来るだろうという。真っ黒な噂を沢山持つ彼女には、他にいくらでも罪を問えるから、すぐに彼女を呼び出して吐かせてみようと言うのだ。マディソンも恐ろしい笑みを浮かべながら、妃殿下が縁談の話があるからお茶会がしたいと言っていると、彼女を呼び出そうと言う。そして茶会には、一応は独身の私達が出席すればよいと言うのだ。妃殿下も乗り気になり、すぐに彼女を呼び出す事になる。
 次の日、無駄に着飾ったシナー公爵令嬢が王宮にやって来た。私やマディソンを見て、少し驚きながらも機嫌は良さそうだった。王太子殿下・妃殿下も来たところで、人払いをする。そこで口の堅い近衛騎士が、背後から彼女を押さえつけたところで、私が強引に、自白剤を飲ませた。

 彼女の語った内容に、私達は衝撃を受ける事になるのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...