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南国へ国外逃亡できたよ

閑話 ガザフィー男爵令嬢 1

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 男爵家の中では、比較的にゆとりのある家に生まれた私。上に兄2人がいて、末の女の子ということで、両親や兄からは可愛がられていたとは思う。
 欲しいものは、何でも買って貰えたし、母に似て美人だと言われていたし、貴族学園に入れば、成績もどちらかかというと上位の方だったし、令息達からは、綺麗だとチヤホヤされていた。こんな自分に私は満足していた。

 綺麗な私が少しでも好意を伝えると、令息はすぐにその気になる。それが面白くて堪らなかった。しかし、しばらくするとそれにも段々と飽きてきた。

 ある日、恋人との惚気話をしている友人がいた。卒業したら結婚すると約束していると、幸せそうに話している。へぇ、そんなに思い合っているの?そう思った私は、友人の恋人がどれだけ友人を大切に思っているのか試してみたくなり、誘惑してみる事にした。その令息にずっと好きだった、私を好きにしていいのよと言って見たら、あっさり落ちた。激しく私を求める令息は若いこともあって、野獣のようだった。それがクセになり、その男に飽きたら、違う友人の恋人に手を出したりした。
 あたり前だが、気付くと友人はいなくなっていた。そして、学園の令息達にも警戒され、私に近づくのは癖のある令息や、やりたいだけの男だけになった。伯爵家以上の令息達には、特に避けられるようになった。問題のある男爵令嬢と仲が良いと広まれば、実家の評判に関わるからだろう。
 学園での出会いを諦めた私は、卒業後に王宮の文官になろうと考え、必死に勉強をした。王宮の文官なら、沢山の貴族がいるから、出会いも沢山ありそうだと考えたからだ。

 努力が身を結び、私は文官になれた。
 王宮には出会いは沢山あったが、私の噂を知っているのか、付き合う事が出来ても一晩だけの関係か、2番目という位置であった。そろそろ結婚を考えて、真面目なお付き合いがしたいのに。自分でいい人を見つけないと、両親に縁談を進められてしまう。いい噂のない私にくる縁談なんて、成金のジジイか売れ残りの不細工な子息か、没落しそうな貴族くらいだろう。そんな結婚は嫌だった。
 学園時代に遊び過ぎたことで、今更苦労するなんて。

 そんな時、仕事で関わることになった令息に一目惚れをした。他国から、名門のマーフィー侯爵家の跡取りとしてやってきた美形の令息。鮮やかなキラキラした金髪に青い目の、物語に出てくる王子様のような方。
 その方は、私に対して紳士的に丁寧に接してくれる。まだこの国の事があまり知らないから、色々と教えてくれると助かると、高位貴族なのに威張らずに低姿勢だった。就職してから私にこんな態度をとってくれるなんて、彼が初めてだったから嬉しかった。
 この人が欲しい。この人が相手なら余所見をしないで一途に愛せるのに。

 彼が、まだ覚える事が沢山あるからと、休日まで執務室に来て仕事をしていると聞いた私は、勤務者の少ない休日に勤務を入れてもらい、マーフィー卿に近づく事にした。2人しかいない時に、今まで令息を落としてきた時のように、好意を伝えてみた。しかし、全く相手にされない。少しでもいいから私を見て欲しくて必死だった。遊びでもいいだとか、2番目でもいいからと。付き合ってしまえば、時間をかけて自分が1番になれるように、頑張ればいいのだから。

 しかし、私がしつこくし過ぎてしまい、マーフィー卿を怒らせてしまったようだった。マーフィー卿はハッキリと私には愛する恋人がいると言って、お前みたいな尻軽なんて全く興味が無いと、私に言ったのだった。それでも、私はもう引けなかった。2番目でも、遊びでもいいからと言い続けた。
 そんな私に更に怒りを露わにしたマーフィー卿は私に冷たい目を向けて言うのであった。なら、私のただの性処理の道具になれと。更に他言しないようにと念を押され、もし、この事を他言することがあれば、お前も実家の男爵家も潰すと言って私を脅すのであった。彼を振り向かせたくて、必死になっただけなのに、私は自分が思った以上に彼を怒らせていたらしい。もう後戻りは出来なかった。

 彼は私を女として扱ってくれなかった。本当に性処理の道具だった。それらしい言葉も、キスも、抱き締めてくれることすらなかった。
 そんな時にある噂を耳にする。マーフィー卿が恋人らしき令嬢と一緒にカフェにいるのを見たという話だった。すごい美少女で、マーフィー卿は誰が見ても分かるくらい、恋人に夢中そうだったという。更にその美少女は、貴族学園で有名な令嬢だという噂も。学年首席で、学園のパーティーでは王太子殿下がダンスに誘うくらい凄い令嬢だと。
 惨めだった…。そんなすごい本命の恋人がいたことも知らずに、いつかは自分に振り向かせようだなんて、私はなんてバカだったんだろう。
 でも、惨めに感じても彼のことは好きだったし、どこかで諦められなかった。心の虚しさを埋める為に、他の令息達とも関係を持っていた。
 気付くと月の物が止まっていた。マーフィー卿なのか、他の令息なのか分からない。しかし、他の令息達よりも回数を重ねたのはマーフィー卿だ。だからきっと、お腹の赤ちゃんはマーフィー卿の子に違いない。
 
 休日出勤の今日もマーフィー卿に会うと思うと、朝から体が疼いていた。今日、赤ちゃんがいると話してみようか?どんな反応をするのか?捨てられてしまうのか不安になる。愛妾でもいいからと頼んでみようかしら?名門の侯爵家だからそれくらい平気かもしれないし。
 いつものように王宮の裏庭で交わる私達。彼と交わるのも、いつまで出来るのか分からないと思うと、つい本音が出てしまい『好き』とか『恋人にして』とか口にしていた私。しかし、マーフィー卿は『煩い』としか言ってくれなかった。本当に惨めな私。しかし、その時だった。

『マーフィー卿!随分と楽しそうだな。』と、低い怒りを含んだような声が聞こえてきた。

 誰かに見られていたようだった。焦った私達は、急いで服を整える。そして声をした方を見ると、そこには4人の男女が立っていた。1人は誰でも分かる王太子殿下だった。それにあの美青年は、殿下の側近で護衛騎士のコリンズ卿!そして、若い近衛と見たこともないくらいの美少女がいる。その美少女を見て、焦り出すマーフィー卿。この令嬢が噂のマーフィー卿の恋人?
 その令嬢は、あっさりマーフィー卿に別れを告げていた。他の女とこんなことをしているのを見たのだから、若いあの令嬢は相当なショックを受けただろう。顔色が悪く、私達を見る目が冷たい。
 しかしマーフィー卿はそれでも、引き止めようと必死な様子だった。愛しているとか、償いたいだとか、私には冷たい態度しかとらなかったあのマーフィー卿が!よっぽど彼女が好きなのね。

 しかし恋人だった令嬢は、マーフィー卿を許すつもりはない様子だった。
 王太子殿下や、人気のコリンズ卿に付き添われているくらいだから、マーフィー卿には未練はないのね。だったら、私が彼をもらっていいわよね?そう思った私は後で後悔することも知らずに、その言葉を放っていた。

『ちょうど良かったわ!私、マーフィー様の赤ちゃんがお腹にいるの。』と。


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