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エピローグ 妻の話
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ゴホッ、ゴホッ…。ハァ、ハァ…。
日に日に息苦しくなってきた。
死期が近いことを悟った私は、すぐに侯爵位を息子のアルフレッドに継承させることに決めた。
まだ学生だが、もうすぐ卒業だし、成人を迎えているので、爵位を継承するのに何の問題もない。
私が亡くなってからだと、葬儀のことや遺産のことなどで面倒になりそうだから、私が生きているうちにやってしまった方がいいと考えたのだ。
「父上、何を言っているのです?生きるのを諦めるのですか?」
爵位をすぐに継承させたいと話すと、アルフレッドは納得していないような反応だった。
「ハァ、ハァ。アルフ…、今出来るうちに…、ハァ…、済ませておきたい。
若いお前…に、苦労をかけることを…、ハァ、申し訳な…く思う。
ハァ、ハァ…、私はも…う、長くない。後のことは、…アルフに任せたい。ハァ、ハァ…。」
「……っ。父上、私はまだ父上に生きていて欲しい。母上だって、父上がいなくなったら悲しみます。」
「…アルフ、自分を…信じて、ハァハァ、やっていきなさい。…ハァ、ハァ。お前な…ら、出来る。
ハァ…、オリビアを頼んだ…ぞ。」
「……分かりました。」
その数日後、国王陛下から許可を得て、侯爵位は無事にアルフレッドに継承された。これで分家の者達は、私が死んでからもうちに口出し出来ないだろう。財産も妻とアルフレッドに分与したから問題ない。有能な弁護士に秘書官達もいる。
これで私がいつ死んでも大丈夫だ…。
息苦しさは更に酷くなり、話すのも辛くなってきた。意識もスッキリしない。
そろそろなのだろう……
「オ…リビ…ア。」
「はい?」
「…あり…がと…う。…ハァ、、」
「はい……。旦那様、私からも沢山のありがとうを伝えたいですわ。」
オリビアは目を潤ませているような気がする。
「実家の子爵家は侯爵家の援助で持ち直しましたし、あの時に幼かった弟や妹には、きちんと教育を受けさせられ、立派に育ってくれました。
こんなカタチで嫁いだ私を、旦那様は大切にしてくれましたし、幸せでした。」
あんなに苦労させたのに、そこまで言ってくれるのか。
「しかし旦那様。もういいのです。旦那様は十分苦しみました。
旦那様の心にあの方がいるのは分かってましたのよ…。あの方への償いのために、私を妻として大切にして下さっていたのですよね。」
……何を言って?
「旦那様が夜会やパーティーで、あの方のいる場所を目で探していたのは知ってましたし、切なそうな目で見ていたことも気がついていましたわ。
ふふっ。旦那様もアルフも、そんなところが似ていますわね。」
「……。」
「旦那様は私を家族として、妻として、大切にしてくれたので、私はそれで満足でしたわ。父親としても、アルフのことを可愛がってくれましたし。本当の愛はあの方に向けられているのに気がついても、あんなに美しくて素敵なお方なら仕方がないと思えました。」
「………。」
「そんな悲しそうに見ないでくださいまし。優しい旦那様だから、私に悪かったとでも思っているのでしょうが、私も別のお方が心にいましたのよ。
初夜の日に話をしましたよね…。私の前の婚約者ですわ。
その方は裕福でない男爵家の方で、私の家が借金まみれで持参金も用意できないと知ると、あちらのご両親から婚約解消を求められました。私達は愛し合っていましたので、とにかく落ち込みましたわ。」
「…オリビ…ア。」
「行き遅れで訳ありの私を、この家の嫁として迎えて下さったことに感謝しております。愛する人と結婚はできませんでしたが、旦那様と結婚できたことは幸せでした。」
涙を流しながら微笑むオリビア。
「旦那様。次にまた人生があるのなら、お互い本当に愛した人と結ばれたいですわね。
次にまた旦那様に会えるなら、旦那様とはもう結婚はしませんが、親友にはなれると思っていますわ。
ふふっ…。」
オリビアは最後まで私を責めたりはしないのだな。
次の人生か…。
それならば、私はあの日に戻りたいと思ってしまう。
こんなに素晴らしい妻がいて、立派に育った息子がいるのに。私はなんて自己中心的なんだろうか。
それでも、もし叶うのであれば、私はあの日から全てやり直したい…。
ハァ、ハァ…、苦しい。でも、なぜか心は軽くなった気がする。
オリビアに手を握られ、私の意識は遠のいていく……
終
これで完結です。
最後までありがとうございました。
日に日に息苦しくなってきた。
死期が近いことを悟った私は、すぐに侯爵位を息子のアルフレッドに継承させることに決めた。
まだ学生だが、もうすぐ卒業だし、成人を迎えているので、爵位を継承するのに何の問題もない。
私が亡くなってからだと、葬儀のことや遺産のことなどで面倒になりそうだから、私が生きているうちにやってしまった方がいいと考えたのだ。
「父上、何を言っているのです?生きるのを諦めるのですか?」
爵位をすぐに継承させたいと話すと、アルフレッドは納得していないような反応だった。
「ハァ、ハァ。アルフ…、今出来るうちに…、ハァ…、済ませておきたい。
若いお前…に、苦労をかけることを…、ハァ、申し訳な…く思う。
ハァ、ハァ…、私はも…う、長くない。後のことは、…アルフに任せたい。ハァ、ハァ…。」
「……っ。父上、私はまだ父上に生きていて欲しい。母上だって、父上がいなくなったら悲しみます。」
「…アルフ、自分を…信じて、ハァハァ、やっていきなさい。…ハァ、ハァ。お前な…ら、出来る。
ハァ…、オリビアを頼んだ…ぞ。」
「……分かりました。」
その数日後、国王陛下から許可を得て、侯爵位は無事にアルフレッドに継承された。これで分家の者達は、私が死んでからもうちに口出し出来ないだろう。財産も妻とアルフレッドに分与したから問題ない。有能な弁護士に秘書官達もいる。
これで私がいつ死んでも大丈夫だ…。
息苦しさは更に酷くなり、話すのも辛くなってきた。意識もスッキリしない。
そろそろなのだろう……
「オ…リビ…ア。」
「はい?」
「…あり…がと…う。…ハァ、、」
「はい……。旦那様、私からも沢山のありがとうを伝えたいですわ。」
オリビアは目を潤ませているような気がする。
「実家の子爵家は侯爵家の援助で持ち直しましたし、あの時に幼かった弟や妹には、きちんと教育を受けさせられ、立派に育ってくれました。
こんなカタチで嫁いだ私を、旦那様は大切にしてくれましたし、幸せでした。」
あんなに苦労させたのに、そこまで言ってくれるのか。
「しかし旦那様。もういいのです。旦那様は十分苦しみました。
旦那様の心にあの方がいるのは分かってましたのよ…。あの方への償いのために、私を妻として大切にして下さっていたのですよね。」
……何を言って?
「旦那様が夜会やパーティーで、あの方のいる場所を目で探していたのは知ってましたし、切なそうな目で見ていたことも気がついていましたわ。
ふふっ。旦那様もアルフも、そんなところが似ていますわね。」
「……。」
「旦那様は私を家族として、妻として、大切にしてくれたので、私はそれで満足でしたわ。父親としても、アルフのことを可愛がってくれましたし。本当の愛はあの方に向けられているのに気がついても、あんなに美しくて素敵なお方なら仕方がないと思えました。」
「………。」
「そんな悲しそうに見ないでくださいまし。優しい旦那様だから、私に悪かったとでも思っているのでしょうが、私も別のお方が心にいましたのよ。
初夜の日に話をしましたよね…。私の前の婚約者ですわ。
その方は裕福でない男爵家の方で、私の家が借金まみれで持参金も用意できないと知ると、あちらのご両親から婚約解消を求められました。私達は愛し合っていましたので、とにかく落ち込みましたわ。」
「…オリビ…ア。」
「行き遅れで訳ありの私を、この家の嫁として迎えて下さったことに感謝しております。愛する人と結婚はできませんでしたが、旦那様と結婚できたことは幸せでした。」
涙を流しながら微笑むオリビア。
「旦那様。次にまた人生があるのなら、お互い本当に愛した人と結ばれたいですわね。
次にまた旦那様に会えるなら、旦那様とはもう結婚はしませんが、親友にはなれると思っていますわ。
ふふっ…。」
オリビアは最後まで私を責めたりはしないのだな。
次の人生か…。
それならば、私はあの日に戻りたいと思ってしまう。
こんなに素晴らしい妻がいて、立派に育った息子がいるのに。私はなんて自己中心的なんだろうか。
それでも、もし叶うのであれば、私はあの日から全てやり直したい…。
ハァ、ハァ…、苦しい。でも、なぜか心は軽くなった気がする。
オリビアに手を握られ、私の意識は遠のいていく……
終
これで完結です。
最後までありがとうございました。
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