私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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失っていた記憶

 ある日、目覚めた私は知らない部屋に寝かされていた。

 身体中が怠くて動けないでいると、中年のメイドらしき人物が部屋に入って来る。
 目覚めた私に気付いたメイドらしき女性は、この邸の主らしき人物を呼んできた。

「アリー、目覚めて良かったな。
 すぐに侍医を呼ぶから、治療をしっかりやるように。」

 身なりのいい、40代くらいの男性は、それだけを言うと部屋から出て行ってしまった。
 あの人は誰なのだろう? 私を〝アリー〟と呼んでいたから、私の親しい人だったのかもしれない。
 そんなことを考えていた私は、ある事に気付いてしまった。私が、自分自身のことを何も覚えていなかったことに……


◇◇


「アリー、侍医から聞いた。お前は記憶喪失らしい。
 どうして……、こんなことに……
 まあ、いい。自分にとって都合の悪いことを忘れることができて楽になれただろう。
 今は体調を戻すことだけを考えろ。部屋から出ることは許さない。何かあればメイドを通せ。」

 私の父だという男性は、私と話すことが余程苦痛らしい。苦悶の表情を浮かべて一方的に話をすると、すぐに部屋を出て行ってしまった。

 私には何があったというのだろう?
 私の父という人は、私を嫌っているように見えたから頼ることは難しいだろう。私の知りたいことを聞いても、教えてくれるか分からない。
 私には他に家族はいるのかしら?
 私はどうして記憶喪失になったの?

 私に付いてるメイドからは、最近雇われたばかりで詳しいことは何も分からないと言われてしまった。
 そのかわりに、メイド自身のことをたくさん話してくれる。
 私の専属メイドのアンナは、田舎の没落した男爵家の夫人だったらしく、この邸で雇ってもらうために十年ぶりに王都に出てきたらしい。貧乏で社交も出来ないような家でしたのよと笑いながら話してくれる。
 アンナは気さくで元気な人のようだ。

 アンナと話をしているとドアがノックされて、金髪の美少女が部屋に入ってくる。

「お義姉様! 目覚めたと聞いて、嬉しくなって来てしまいましたわ。
 まあ、こんなにお痩せになってしまって……
 早く元気になって下さいませ。」

 この華やかな美少女は、私を姉と呼んでいる。私には妹がいたらしい。

「お義姉様……私のことも覚えていないのですね。
 私はお義姉様の義理の妹のヴィオラですわ。
 お義姉様は、私をヴィーと呼んで可愛がって下さっていたのです。」

 私が何も覚えていないことを残念に思ったのか、寂しそうな表情を浮かべる美少女。

「……義理の妹?」

「ええ。私は元々はお義父様の親友の子爵家の令嬢でしたの。両親が事故で亡くなってしまい、お義父様が私を憐れんで引き取って下さったのですわ。」

「そうだったの……。大変だったのね。」

 あの冷たそうな父が、そんなに慈悲深い人間だったのかと思い驚いてしまう。
 私の義妹だという美少女は、その後も私の知らないことを沢山教えてくれたのだった。

 私はアリエル・バトラー。十九歳の侯爵令嬢らしい。
 家族は父と母に兄がいるらしいが、母も兄も私には会いに来てくれていないので、顔すら分からない。

「私は、どうして記憶喪失になってしまったのかしら?」

「……それを知ったら、お義姉様は悲しむと思いますわ。」

「何も知らないで生きていくのも辛いのよ。
 貴女が教えてくれないかしら?」

「分かりました。実は……、お義姉様は……、服毒自殺をしたのですわ。
 生死を彷徨い、何とか命は助かったようですが、記憶を失ってしまったようですね。
 お義姉様。また一からやり直せばいいではないですか。私はまた元気なお義姉様に戻って欲しいと思っていますのよ。」

「……私が服毒自殺?」

 信じられない話だったが、その話は何となく納得出来た。
 私の体はガリガリに痩せ細り、髪はパサパサだ。顔は死人のように青く、この美しい義妹と比べると、自分が可哀想な人にしか見えなかった。
 毒で生死を彷徨い、ずっと寝込んでいたから、こんな外見になってしまったのだろう。
 父があんなに冷たいのも、私が自殺未遂をしたことで一家の恥だと思っているのかもしれない。

「辛かったことを何も覚えていらっしゃらないようですわね。
 でも、私はお義姉様の味方ですわ。早く元気になって下さいませ。」

「……ありがとう。これからもよろしくお願いするわ。」

「勿論です。」

 義妹はにっこり微笑む。この子はきっと誰にでも愛される子に違いないわ。
 明るくて可愛くて優しいもの。記憶を失う前の私が可愛がっていたことには納得だわ。


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