私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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教会

 旦那様と一緒に食事をした翌日、私は教会に来ていた。
 シールズ公爵家の一番近くにある教会で、こじんまりとした可愛らしい教会だ。
 私の他に付き添いのアンナと護衛騎士が十人もいる。
 狭い礼拝堂の中にガッチリした騎士が十人もいたら、圧迫感のようなものを感じてしまって落ち着かない。

「一人で祈りを捧げたいので、外で待ってもらえますか?
 他に誰もいませんし、私はどこにも行きませんから……」

「分かりました。何かあればすぐにお呼び下さい。」

 騎士たちが理解してくれて良かった。
 監視されているような視線を向けられ、静かな気持ちでお祈りが出来るはすがないもの。

「奥様、私も外で待機しておりますから、ごゆっくりどうぞ。」

「アンナ、ありがとう。」

 一人になれた私は、礼拝堂のベンチに腰を掛けて祈りを捧げる。
 こうやって教会で祈るのは、記憶喪失になってから初めてのことだ。
 私は、自分が愛した人のために祈りたかった。

 忘れてしまってごめんなさい……
 生きていてごめんなさい……

 いつか亡くなった彼を思い出す日が来るのかもしれない。その時に私はどうなるのだろう?
 私が彼を思い出したとしても、もう彼はいない。
 私はまた死にたくなるのかしら?
 ……それはないわね。悲しくなったり後悔することはあっても、もう死のうとは思わない。
 私のために働いてくれるアンナに悪いし、王命で結婚した妻が自殺なんてしたら、公爵家や旦那様に泥を塗る行為になる。これ以上、周りの人に迷惑は掛けられないわ。
 旦那様と愛する人の邪魔をしないように、残りの人生は領地でひっそりと生きていこう。


 貴方のことを思い出せないけど、時々こうやって祈りに来るので、どうかお許し下さい……

 
 祈りを終えて礼拝堂から出ると、アンナがホッとした表情をしていた。

「奥様。静かな礼拝堂の中が心地いいからと、居眠りでもされているのではないかと心配しておりましたわ。
 騎士様たちも、中の様子を見に行くべきではと私にしつこく言うので、軽く口喧嘩をするところでしたのよ。」

「……ふふっ。いくら私がボーっとした性格でも、礼拝堂で居眠りなんてしないわよ。
 皆様、待たせてしまってごめんなさいね。そろそろ帰りましょうか。」

 護衛騎士に囲まれて萎縮してしまいそうになるけど、アンナがその場の雰囲気を明るくしてくれたから助かった。

「奥様……」

 なぜかアンナや騎士たちが私を凝視している。

「アンナ、どうかしたの?」

「奥様が自然に笑いかけてくれたのは……始めてですわ。」

「え……、そうかしら?」

「……良かったです。笑うことを忘れてしまったのかと思っていたので……。
 笑った奥様は女神様のように美しいですわ。」

「大袈裟よ……。
 ただアンナが面白くて笑っただけなのだから。」



 その日の夜、また旦那様からディナーを誘われる。
 断わる理由のない私は誘いを受けることにした。


「アリエル、今日は教会に行って来たと報告を受けている。
 出先で気分が悪くなったりしなかったか?」

「旦那様。今日は外出を認めて下さってありがとうございました。特に体調に問題はありませんでしたわ。
 小さくて可愛らしい教会で、私のお気に入りの場所になりました。」

「それは良かった。
 教会では何かあったか?」

「……何もありませんでした。他に誰もいなかったので、一人で静かにお祈りできて良かったですわ。」

「そうか……。
 君が行きたい時にまた行くといい。」

「ありがとうございます。」

 何となくだが、旦那様は何か別のことを聞きたがっているかのように見えた。
 その時、旦那様は突拍子のないことを口にする。
 
「アリエル……。私達は夫婦になったのだから、夕食は毎日一緒に食べるようにしよう。」
 
「……毎日ですか?」

「ああ……。婚約中は忙しくて、君と過ごす時間が取れなかった。今は忙しくても夕食前には帰ってこれるし、休みもとれる。君と夫婦らしい関係になりたい。」

 気まずそうに話をする旦那様からは、悪意や嘘のようなものは感じられなかった。
 こんな美しい旦那様から夫婦らしい関係になりたいと言われたら、誰だって嬉しいと感じるはず。
 でも……、私は素直に喜べなかった。
 婚約期間中の旦那様の私への態度は忘れられないし、初夜の時に言われたこともちゃんと覚えている。

「旦那様は跡継ぎのことを心配なさっているのでしょうか?
 私は自分の立場を理解しているつもりです。
 旦那様の愛する人に子供ができましたら、その子供を公爵家の正式な跡取りとしてお迎え下さいませ。
 勿論、旦那様の愛する人もご一緒にですわ。
 私は領地で静かに生活しますので、旦那様たちの邪魔はしないとお約束いたします。」

 私との望まない結婚をしてくれた旦那様に、私なりに気を遣って話をしたつもりだった。

 それなのに、旦那様は深く傷付いた顔をする。

「……君が何を勘違いしているのかは分からないが、私に愛人などいない。
 婚約期間中に私は君に対して冷たい態度をとり、結婚初夜に酷いことまで言ってしまったから、そのように勘違いされても仕方がないな……
 反省している。……すまなかった。」

「……え?」

「そんな私に対して、君が心を開けないのは当然だ。
 今更、夫婦らしくしたいなんて虫のいい話であることも分かっている……
 毎日が嫌なら、一日おきでいいから夕食は一緒に食べて欲しい。君と顔を合わせられるのは食事の時くらいなのだから……、頼む!」

「……分かりました。」

 なぜ旦那様が泣きそうになっているのかが分からない。
 でも、そんな顔で頼まれたら嫌とは言えなかった。
 

 

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