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閑話 シールズ公爵
側近たちが席を外し、執務室には二人きりになる。
この女と二人きりでいたなんて噂になったら大変だから、早く話を済ませて出て行ってもらおう。
「ヴィオラ嬢。ご覧の通り私は多忙だ。話は手短にお願いしたい。」
「……お義姉様は体調が悪く食欲が落ちているのです。」
表情を曇らせながら話すヴィオラ嬢は、義姉の体調を心配する義妹のようにしか見えなかった。
狡猾な女だが、アリエルはヴィオラ嬢を可愛がっていたし、二人は仲良くしていたから、この女は本気で彼女を心配しているのだろうと思ってしまった。
「ああ……。顔合わせの時に久しぶりに会ったが、痩せてしまっていたな。」
「お義姉様は記憶喪失だから気づいていないと思いますが、もしかしたらあの男との子供を妊娠しているのかもしれませんわ。」
「……は?」
「私は、二人が情を交わすほど愛し合っていたことを知っていますの。
お義姉様のことをメイドに任せたままの義両親は気付いていませんが、妊娠の可能性が高いかと……
お義姉様は記憶喪失でもあの男のことを少しずつ思い出しているようで、結婚なんてしないで修道院に行きたいと泣いていましたわ。
残りの人生はあの男に祈りを捧げて生きていきたいと考えているようです。」
顔合わせの時に、私に対して空虚な眼差しを向けていたのはそういうことだったのか……
私がアリエルとの縁談を望んだことは、彼女にとっては迷惑でしかなかったのかもしれない……
「シールズ公爵様。お義姉様との結婚はやめることは出来ないのでしょうか?
お義姉様が可哀想ですし、名門のシールズ公爵家の夫人となる人が、他の男の子を孕んでいるかもしれないなんて、許されることではありませんわ。」
ヴィオラ嬢の話は衝撃的だったが、なぜか結婚をやめようとは思えなかった。
貴族の結婚なのだから、愛のない夫婦なんて沢山いるだろう。私もその愛のない夫婦の仲間入りをするだけだ。何の問題もない……
無意識のうちに、自分にそう言い聞かせていた。
「この結婚は王命だ。私から婚約を解消するつもりはない。
ただ……、この話は他言しないように。
今、アリエルに良くない噂が流れるとバトラー侯爵家の評判に関わり、家族である君にも大きく影響するだろう。
君が王太子妃教育に苦労しているという話は私の耳にも届いている。
殿下の伴侶になりたいと思うのなら、自分の家名に泥を塗るようなことをむやみに口にしないことだ。
……分かったか?」
義姉を心配している義妹の表情が一瞬だけ崩れた気がした。
「……わ、分かっておりますわ。
失礼致します。」
ヴィオラ嬢は、青褪めた表情で執務室を出て行ってしまった。
……言い過ぎてしまったか? いや、あれくらい釘を刺さないと、あの女はいつ口を滑らせるか分からない。
それよりも、アリエルが妊娠の可能性があるなら、早く婚姻を済ませてしまった方が良さそうだ。
もし、妊娠のことをアリエルやバトラー侯爵たちが気づいてしまったら? アリエルは、厳格なバトラー侯爵によって幽閉させられてしまうかもしれない。
それに、望まない妊娠をしたと彼女が知ったらまた深く傷付いてしまう。
それだけは嫌だった……
もし彼女が妊娠していたとしても構わない。初夜を済ませてしまえば私の子だ。
生まれた子の容姿が誰にも似てなくても、早くに亡くなってしまった祖父母に似ているとか言って、いくらでも誤魔化してやる。
そんな私は、信用できる口の堅い医者に妊娠について色々教えてもらうことにした。
悪阻などで食欲が落ちる人が多いことや、症状は個人差があること。月のものが不順だった者は妊娠に気づかない場合があること。体型の変化も個人差があるので、妊娠してもあまり変わらない人もいること。
その話を聞いた私は、ヴィオラ嬢の話に疑いを持つことをやめてしまった。
私達は短い婚約期間中、仲を深めることが出来ないまま、結婚式の日を迎えることになる。
そして初夜……
アリエルの待つ夫婦の寝室に向かうと、彼女の目が怯えていることに気付いてしまった。
まるで、私がこの部屋に来ることを望んでいなかったとでも言いたげな目……
アリエルが私との結婚を望んでいないことは分かっていた。
婚約期間中、アリエルから向けられた視線には、私から愛されたいとも思わない、興味すらないというような、無関心に近い視線を向けられていたからだ。
死んだあの男のことが忘れられないのか……?
だから、私は心にもないことを言ってしまった。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚には出来ない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら、君は領地で好きに生活すればいい。」
「……畏まりました。」
口では酷いことを言ってしまったが、妊娠の可能性がある彼女のことは大切に扱いたかった。
しかし彼女は苦痛に顔を歪め、体も何かがおかしい。
終わった後、すぐに血痕に気付く。
その瞬間、私の頭は真っ白になってしまった。
この女と二人きりでいたなんて噂になったら大変だから、早く話を済ませて出て行ってもらおう。
「ヴィオラ嬢。ご覧の通り私は多忙だ。話は手短にお願いしたい。」
「……お義姉様は体調が悪く食欲が落ちているのです。」
表情を曇らせながら話すヴィオラ嬢は、義姉の体調を心配する義妹のようにしか見えなかった。
狡猾な女だが、アリエルはヴィオラ嬢を可愛がっていたし、二人は仲良くしていたから、この女は本気で彼女を心配しているのだろうと思ってしまった。
「ああ……。顔合わせの時に久しぶりに会ったが、痩せてしまっていたな。」
「お義姉様は記憶喪失だから気づいていないと思いますが、もしかしたらあの男との子供を妊娠しているのかもしれませんわ。」
「……は?」
「私は、二人が情を交わすほど愛し合っていたことを知っていますの。
お義姉様のことをメイドに任せたままの義両親は気付いていませんが、妊娠の可能性が高いかと……
お義姉様は記憶喪失でもあの男のことを少しずつ思い出しているようで、結婚なんてしないで修道院に行きたいと泣いていましたわ。
残りの人生はあの男に祈りを捧げて生きていきたいと考えているようです。」
顔合わせの時に、私に対して空虚な眼差しを向けていたのはそういうことだったのか……
私がアリエルとの縁談を望んだことは、彼女にとっては迷惑でしかなかったのかもしれない……
「シールズ公爵様。お義姉様との結婚はやめることは出来ないのでしょうか?
お義姉様が可哀想ですし、名門のシールズ公爵家の夫人となる人が、他の男の子を孕んでいるかもしれないなんて、許されることではありませんわ。」
ヴィオラ嬢の話は衝撃的だったが、なぜか結婚をやめようとは思えなかった。
貴族の結婚なのだから、愛のない夫婦なんて沢山いるだろう。私もその愛のない夫婦の仲間入りをするだけだ。何の問題もない……
無意識のうちに、自分にそう言い聞かせていた。
「この結婚は王命だ。私から婚約を解消するつもりはない。
ただ……、この話は他言しないように。
今、アリエルに良くない噂が流れるとバトラー侯爵家の評判に関わり、家族である君にも大きく影響するだろう。
君が王太子妃教育に苦労しているという話は私の耳にも届いている。
殿下の伴侶になりたいと思うのなら、自分の家名に泥を塗るようなことをむやみに口にしないことだ。
……分かったか?」
義姉を心配している義妹の表情が一瞬だけ崩れた気がした。
「……わ、分かっておりますわ。
失礼致します。」
ヴィオラ嬢は、青褪めた表情で執務室を出て行ってしまった。
……言い過ぎてしまったか? いや、あれくらい釘を刺さないと、あの女はいつ口を滑らせるか分からない。
それよりも、アリエルが妊娠の可能性があるなら、早く婚姻を済ませてしまった方が良さそうだ。
もし、妊娠のことをアリエルやバトラー侯爵たちが気づいてしまったら? アリエルは、厳格なバトラー侯爵によって幽閉させられてしまうかもしれない。
それに、望まない妊娠をしたと彼女が知ったらまた深く傷付いてしまう。
それだけは嫌だった……
もし彼女が妊娠していたとしても構わない。初夜を済ませてしまえば私の子だ。
生まれた子の容姿が誰にも似てなくても、早くに亡くなってしまった祖父母に似ているとか言って、いくらでも誤魔化してやる。
そんな私は、信用できる口の堅い医者に妊娠について色々教えてもらうことにした。
悪阻などで食欲が落ちる人が多いことや、症状は個人差があること。月のものが不順だった者は妊娠に気づかない場合があること。体型の変化も個人差があるので、妊娠してもあまり変わらない人もいること。
その話を聞いた私は、ヴィオラ嬢の話に疑いを持つことをやめてしまった。
私達は短い婚約期間中、仲を深めることが出来ないまま、結婚式の日を迎えることになる。
そして初夜……
アリエルの待つ夫婦の寝室に向かうと、彼女の目が怯えていることに気付いてしまった。
まるで、私がこの部屋に来ることを望んでいなかったとでも言いたげな目……
アリエルが私との結婚を望んでいないことは分かっていた。
婚約期間中、アリエルから向けられた視線には、私から愛されたいとも思わない、興味すらないというような、無関心に近い視線を向けられていたからだ。
死んだあの男のことが忘れられないのか……?
だから、私は心にもないことを言ってしまった。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚には出来ない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら、君は領地で好きに生活すればいい。」
「……畏まりました。」
口では酷いことを言ってしまったが、妊娠の可能性がある彼女のことは大切に扱いたかった。
しかし彼女は苦痛に顔を歪め、体も何かがおかしい。
終わった後、すぐに血痕に気付く。
その瞬間、私の頭は真っ白になってしまった。
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