私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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謝罪

 あの日、真実を聞かされた後に旦那様たちから謝罪を受けたが、途中で気持ちが悪くなってしまった私は、謝罪に対しての返事をする前に退室してしまった。
 それから数日間、ずっと自分の部屋で安静に過ごしている。

「奥様、バトラー侯爵家から手紙が届いております。」

「アンナ……、手紙を読みたいと思えないの。」

「では、体調が良くなってからお読みになってはいかがでしょう?
 奥様はまだ顔色が悪いですし、食欲も戻りません。今は何も考えずに、安静にお過ごし下さい。」

「ありがとう。手紙は後で読むから、そこのチェストに仕舞ってもらえるかしら?」

「畏まりました。」

 あの日、体調が悪くなり部屋に戻った後、何があったのかをアンナに少しだけ打ち明けた。泣きながら話をする私の背中をアンナは優しくさすってくれて、落ち着かせてくれた。
 今はいつものように笑顔で話しかけてくれて、明るく振る舞ってくれている。

「アンナ……、今までごめんなさい。
 今だから言えるけど、アンナは私を守るためにヴィーと関わらないようにと言ってくれたのね。
 自分の立場よりも、私のことを考えてくれていたのね……。ありがとう。」

「奥様……、私こそ出すぎた真似をしましたわ。」

「そんなことないわ。アンナが側にいてくれて、私は本当に幸せなの。
 私、今までは大切な人たちに迷惑をかけたから、これ以上は迷惑をかけられないと思って、ひっそりと生きていこうと思っていたわ。
 でも、それはもうやめる。何も悪いことをしていないなら、もっと堂々と生きていてもいいわよね?」

「……はい。その通りでございます。
 奥様は私の自慢なのですなら、もっと堂々として欲しいです。多少は我儘に生きてもいいのではないでしょうか?」

 いつも明るくて元気なアンナの目が潤んでいるのは気のせいではないと思う。
 家族に見捨てられても、アンナだけは私の味方でいてくれた。アンナのためにも私は変わらなくてはならない。

「そうね。私は強くなりたい……
 以前の私は弱かったからヴィーに付け込まれたのよね。
 こんな私でも公爵夫人なのだから、他の貴族に付け込まれないように強くなるわ。
 旦那様にはこんな私が妻で申し訳ないけど、王命での結婚だから離縁は出来ないでしょう? お飾りの妻でもしっかりやるようにするわ。」

「お飾りだなんてとんでもない。旦那様は奥様のことを大切に思って下さっていると思います。
 でも奥様、今はまず体調を良くすることを第一にしましょうね。」

「ふふっ。分かったわ。」

 
 時折、あの日聞いた話を思い出し、亡くなった従者やヴィーのことを考えると未だに気持ち悪くなるけど、私は負けるわけにはいかない。
 
 旦那様はそんな私を気遣ってくれて、栄養のある食事を用意してくれたり、安眠できるハーブティーを贈ってくれたりもした。
 そのおかげで、私の体調は少しずつ良くなっている。
 夫としての義理を果たしてくれているのか、休日や仕事から早く帰って来た日などに私の顔を見に来てくれたりもするのだ。

 実家の侯爵家からはその間も何度か手紙が届いていたが、読む気にはなれず未開封のまま置いてある。
 どうせ謝罪の内容だろう。謝罪されても、あの人たちとは親しくできない。
 記憶喪失になった私にとって、家族の思い出は何一つなく、覚えているのは実家で冷遇されたことだけなのだから。
 

「アリエル。実は今日、王宮でエリックに会ったんだ。
 エリックも君の両親も、みんな心配している。
 体調が良くなってきたらでいいから、手紙を書いてやってくれないか?
 君からの手紙が来たら、きっと喜んでくれると思うんだ。」

 兄は、私から手紙の返事がこないことを旦那様に話したのね……
 散々、私をいない者として扱ったくせになんて図々しいのかしら。

「兄は、私なんかの手紙を喜んでくれるでしょうか……?
 兄も両親も、私を存在しない者として扱っていましたわ。
 存在しない者から手紙が届くはずがないのです。」

「……すまない。
 気が向いたらでいいんだ。」

 お優しい旦那様は傷ついた顔をしている。
 最近の私は、自分の考えをはっきり伝えるようにしていたのだけど、少し酷かったかしら?
 旦那様の立場を考えると、私と私の実家の板挟みでつらい立場よね。
 たとえ愛はなくても、旦那様に嫌われる妻にはなりたくないから、あまり困らせてはいけないわ。

「もし兄と顔を合わせる機会がありましたら、旦那様と公爵家の使用人たちから大切にして頂いているので、私は大丈夫だとお伝え下さい。
 手紙は元気になったら書きますから。よろしいでしょうか?
 旦那様には迷惑をお掛けしてしまいますね。」

「迷惑ではない。エリックにはそのように伝えておくよ。」

「旦那様、よろしくお願いします。」
 
 今さら謝罪なんてされても、心の傷は癒えないのよ。


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