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君を救いたい
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私をアリーと呼んでいるその人物は、貴族のお忍びのような服装をしているが、雰囲気や口調から身分の高い人のように見えた。
「……」
何と言葉を返せばいいのか分からずにいると、その人物は私の近くまで来る。
「アリー……、そんな怯えた目で私を見るということは、記憶喪失だという話は本当だったのか……
くっ……あの女! よくもアリーをこんな目に……」
その人が私に向けているのは怒り? それとも悲しみ……?
複雑な感情を滲ませているのは確かだ。
しかし誰なのか分からない私は、近付いてくるその人に対して恐怖のようなものを感じてしまい、無意識に後ずさりしてしまう。
そんな私に気付いたのか、その人は私に手を伸ばせば触れることの出来るくらいの距離までくるとピタっと止まってくれた。
「……怖がらせてしまって悪かった。
私は君を傷付けようなどとは思っていない。むしろ、君を救いたいと思ってやって来た。
アリー……、あの時は君を助けられなくて悪かった。
大切な君を疑うようなことをして何も出来なかったことを後悔している。
君を忘れた日はなかったし、ずっと会いたかった」
「……あ、貴方は誰でしょうか? 私とヴィオラを知っていた方なのですね?」
その人は私に悲哀に満ちた眼差しを向けている。
「……君の元婚約者だと言えば分かるか?」
その言葉に私の血の気が引いていく。
「王太子殿下……! ご無礼をお許しください。
遅くなりましたが、ヴィオラがしたことを謝罪させて下さいませ。
王家を欺くようなことをして申し訳ありませんでした」
慌てた私は謝罪をすることに必死になっていた。
「君は悪くないから謝罪はしなくていい。
謝らなくてはいけないのは私の方だ。
アリー。私は君を守ると約束しながら……、守れなくて悪かった……」
殿下の声が震えていることに気付いてしまった。
どうしてこの方はここまで辛そうにしているの?
私はただの政略結婚の相手で、王家はバトラー侯爵家の令嬢なら誰でも良かったのではなかったの?
「殿下……」
「すまない。今の私は君を困らせているな。
ところでアリー……、君は今幸せなのか?
シールズ公爵は君を大切にしてくれているのか?
君が邸の外に出ることを制限しているようだし、社交の場に連れて来ることもしない。
私が君に面会したいと頼んでもずっと断られているし、バトラー侯爵が君に会いたいと言っても断り続けているようだ。
アリーは王命での結婚だからと、我慢しているのではないか?
もし……君が離縁を望むのなら私が何とかしてやろう。私は君を救いたいんだ」
救いたいですって?
落ちる所まで落ちてしまった私を、殿下はどう救おうというのかしら?
この人も都合のいいことを言っているわ。バトラー侯爵家の人間と一緒……
殿下の私への態度を見る限り、記憶喪失になる前の私は婚約者だった殿下との関係は悪くはなかったようね。むしろ、普通に仲が良かったのかもしれない。
でもこの人は婚約者の私のことより、ヴィーの話を信じた。真実を知ってしまったことで後悔しているということなのね。
今さら無理に謝罪までして、自分だけ楽にでもなりたいのかしら?
「アリー……?」
「王命での結婚ですから、離縁など考えておりませんわ。
夫には何の不満も持っていませんし、私は今の生活に満足しています。
お忙しい殿下にここまで足を運んで頂いたことは、大変申し訳なく思っております」
「……本気で言っているのか?
今の君は無理をしているようにしか見えない」
「殿下、もし離縁したら私はどうなるのでしょうか?
私には帰る場所も行きたい場所もありません。
今の生活に幸せはなくても、不幸を感じることもありませんわ。
旦那様が離縁を望まない限り、私も離縁は望みません」
「帰る場所がない? バトラー侯爵は君が望めばいつでも迎えに行くと言っていた!」
父は殿下の前で何を話したのかしら?
少なくてもあの父より、旦那様の方がまだ信用できる。離縁して実家に戻るくらいなら、お飾りの妻でいる方がまだマシよ。
「私が本当につらい時に、私を蔑ろにした父や母、兄がいる邸に帰りたいなどと思いませんわ。
離縁したら私はどこかに幽閉されるかもしれません。
殿下、私は今のままでいることを望んでおります。
どうかご理解下さいませ」
「……今は何を言っても無理か。
だがアリー、私は諦めるつもりはない。
また会おう……」
殿下が礼拝堂から出て行った後、力が抜けた私はその場に座り込んでしまった。
心配して来てくれたアンナから呼ばれるまで、私は放心状態になっていたと思う。
「……」
何と言葉を返せばいいのか分からずにいると、その人物は私の近くまで来る。
「アリー……、そんな怯えた目で私を見るということは、記憶喪失だという話は本当だったのか……
くっ……あの女! よくもアリーをこんな目に……」
その人が私に向けているのは怒り? それとも悲しみ……?
複雑な感情を滲ませているのは確かだ。
しかし誰なのか分からない私は、近付いてくるその人に対して恐怖のようなものを感じてしまい、無意識に後ずさりしてしまう。
そんな私に気付いたのか、その人は私に手を伸ばせば触れることの出来るくらいの距離までくるとピタっと止まってくれた。
「……怖がらせてしまって悪かった。
私は君を傷付けようなどとは思っていない。むしろ、君を救いたいと思ってやって来た。
アリー……、あの時は君を助けられなくて悪かった。
大切な君を疑うようなことをして何も出来なかったことを後悔している。
君を忘れた日はなかったし、ずっと会いたかった」
「……あ、貴方は誰でしょうか? 私とヴィオラを知っていた方なのですね?」
その人は私に悲哀に満ちた眼差しを向けている。
「……君の元婚約者だと言えば分かるか?」
その言葉に私の血の気が引いていく。
「王太子殿下……! ご無礼をお許しください。
遅くなりましたが、ヴィオラがしたことを謝罪させて下さいませ。
王家を欺くようなことをして申し訳ありませんでした」
慌てた私は謝罪をすることに必死になっていた。
「君は悪くないから謝罪はしなくていい。
謝らなくてはいけないのは私の方だ。
アリー。私は君を守ると約束しながら……、守れなくて悪かった……」
殿下の声が震えていることに気付いてしまった。
どうしてこの方はここまで辛そうにしているの?
私はただの政略結婚の相手で、王家はバトラー侯爵家の令嬢なら誰でも良かったのではなかったの?
「殿下……」
「すまない。今の私は君を困らせているな。
ところでアリー……、君は今幸せなのか?
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君が邸の外に出ることを制限しているようだし、社交の場に連れて来ることもしない。
私が君に面会したいと頼んでもずっと断られているし、バトラー侯爵が君に会いたいと言っても断り続けているようだ。
アリーは王命での結婚だからと、我慢しているのではないか?
もし……君が離縁を望むのなら私が何とかしてやろう。私は君を救いたいんだ」
救いたいですって?
落ちる所まで落ちてしまった私を、殿下はどう救おうというのかしら?
この人も都合のいいことを言っているわ。バトラー侯爵家の人間と一緒……
殿下の私への態度を見る限り、記憶喪失になる前の私は婚約者だった殿下との関係は悪くはなかったようね。むしろ、普通に仲が良かったのかもしれない。
でもこの人は婚約者の私のことより、ヴィーの話を信じた。真実を知ってしまったことで後悔しているということなのね。
今さら無理に謝罪までして、自分だけ楽にでもなりたいのかしら?
「アリー……?」
「王命での結婚ですから、離縁など考えておりませんわ。
夫には何の不満も持っていませんし、私は今の生活に満足しています。
お忙しい殿下にここまで足を運んで頂いたことは、大変申し訳なく思っております」
「……本気で言っているのか?
今の君は無理をしているようにしか見えない」
「殿下、もし離縁したら私はどうなるのでしょうか?
私には帰る場所も行きたい場所もありません。
今の生活に幸せはなくても、不幸を感じることもありませんわ。
旦那様が離縁を望まない限り、私も離縁は望みません」
「帰る場所がない? バトラー侯爵は君が望めばいつでも迎えに行くと言っていた!」
父は殿下の前で何を話したのかしら?
少なくてもあの父より、旦那様の方がまだ信用できる。離縁して実家に戻るくらいなら、お飾りの妻でいる方がまだマシよ。
「私が本当につらい時に、私を蔑ろにした父や母、兄がいる邸に帰りたいなどと思いませんわ。
離縁したら私はどこかに幽閉されるかもしれません。
殿下、私は今のままでいることを望んでおります。
どうかご理解下さいませ」
「……今は何を言っても無理か。
だがアリー、私は諦めるつもりはない。
また会おう……」
殿下が礼拝堂から出て行った後、力が抜けた私はその場に座り込んでしまった。
心配して来てくれたアンナから呼ばれるまで、私は放心状態になっていたと思う。
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