私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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慌てる人

 教会から帰ってきた私は、疲れがどっと出てぐったりしてしまう。

「奥様。お疲れのようですから、少し休まれてはいかがでしょうか?」

「アンナ、私は大丈夫よ。それよりも、美味しいお茶が飲みたいから淹れてくれるかしら?」

「畏まりました。すぐにご用意します」

 アンナは私の好きな紅茶を淹れてくれる。
 ハァー、この香りに癒されるのよね……
 飲み終えたら、執務室で書類のチェックでもしようかしら。何もしないでいると余計なことを考えてしまうもの。

 お茶を飲み終え、執務室に向かって歩いている時だった……

「アリエル!」

「え、旦那様?」

 いつもならまだ帰ってくるはずのない旦那様が、息を切らして私の所に走って来る。
 こんなに慌てて何かあったのかしら?

「旦那様、何かあったのでしょうか?
 大丈夫ですか?」

 ここまで余裕のなさそうな旦那様の姿は初めて見た。普段は完璧な旦那様だからこそ、そんな姿を見せられた私は戸惑ってしまう。

「ハァ、ハァ……。アリエル……」

「はい、旦那様」

 一体何を言われるのかしら?

「今日……教会で……王太子殿下に会ったらしいな?」

「はい?」

 殿下の話? 予想外すぎて拍子抜けしてしまう。

「殿下が……教会に突然やってきて、君に接触したと聞いた……」

「ええ、話し掛けられましたね。
 ……もしかして、王太子殿下から何か言われてきましたか? 私の殿下への態度が不敬だとか無礼だったとか。
 殿下のことを忘れていたとはいえ、大変申し訳ありませんでした」

「ち、違う! 殿下からは何も言われてない」

 殿下から何も言われてないのになぜ旦那様が知っているの?

「護衛が知らせに来てくれた。教会に殿下がやってきて、君と話をしていたようだと。
 君はその後に体調が悪そうだったと聞いて、心配になったから仕事を早退してきた。
 大丈夫か?」

 確かに、顔すら忘れていた殿下が突然接触してきたから驚いたし、気疲れしてぐったりしてしまったけど……、ただそれだけのことで具合は悪くなっていないのに。

「驚きましたが大丈夫ですわ。
 旦那様……、それだけのためにわざわざ戻って来て下さったのでしょうか?」

「私は君が殿下に会ったことで、つらいことを思い出して悲しんでいるのではないかと不安になり、居ても立っても居られなくなったんだ。
 殿下と君は仲が良かったから、あの頃に戻りたいと思ってしまったのではないかと……」

「……え?」

 旦那様は私が殿下に会うことで過去を思い出し、悲しむのではないかと心配してくれたの?
 だから殿下との面会を断ってくれていたのね……
 私も今さら殿下とは会いたいとは思わないから、旦那様のその配慮には感謝したい。

 記憶を失う前の私が殿下と仲が良かったとしても、殿下は私を信じてくれなかった。それくらいの関係だったということなのよ。
 それに私は、今は旦那様の妻なのだから殿下と個人的に会うのは良くないわ。
 愛はなくても妻として誠実でありたいと思う。

「旦那様、心配して下さってありがとうございます。
 でも、仕事を早退されるなんて……、陛下に申し訳ないですわ」

「仕事は大丈夫だ!
 それよりアリエル……、殿下に会ってその……」

 旦那様は聞きにくそうにしているけど、殿下と私が何を話したのかが気になっているということかしら?
 夫婦としてすれ違うことは良くないから、正直に話した方がいいわね。
 ここで私が変に隠そうとすると、私が殿下に未練でもあると思われてしまいそうだもの。

「旦那様、私が殿下と何を話したのかが気になるということでしょうか?」

「……ああ。でも、言いたくないなら無理には聞かない」

「気になって仕方がないって顔に出ていますわ」

「すまない……」

 殿下と私が何を話したのかを使用人の目がある邸の廊下で話すことは出来ないので、続きは私の執務室で人払いをして話すことになる。

「殿下は、君が離縁を望むのなら何とかしてやろうと言ってきたのか?」

「ええ。でも、私はそれを望まないとはっきり断りましたわ。王命での結婚ですから離縁など考えていないと」

「確かに私達は王命ということになってはいるが……」

「旦那様、殿下の話を聞いて気になったことがあります。
 殿下は私たちの離縁についてバトラー侯爵家と何かを話しているのかもしれません。
 しかし、私はあの家には帰りたくないのです。
 旦那様が離縁を望むのなら私は出て行きますが、私が妻でいることを許して下さるなら、お飾りの妻でいいのでここに置いて下さい」

「アリエル……。私が君にあんな態度をとり続けたから、私を信用できないのは分かっている。
 だが私は、君をお飾りの妻だと思ったことは一度もない。大切な妻だと思っているんだ。
 私も離縁は望んでいないから、殿下には私から話をしておく」

「よろしくお願い致します」

 必死な旦那を見る限り、嘘をついているようには見えない。
 良かった……。今はまだここに置いてもらえるということね。
 旦那様は国王陛下の最側近だから、王命には逆らわないわ。陛下が退位しない限りは離縁はしないってことかもしれない。


 

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