私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

文字の大きさ
29 / 67

久しぶりの外出

 旦那様から許可をもらった私は、さっそく孤児院へ出かけることにした。
 記憶喪失になった後は実家の侯爵家から出なかったし、結婚した後は邸の近くにある教会に出掛けるくらいだったので、馬車で三十分の距離にある孤児院へ行くことは、私にとってちょっとした旅行や冒険に行くような感じだった。

「アンナ。王都の街並みは綺麗だったのね!」

「ええ。私も久しぶりに王都に来た時はそう思いましたわ。私の実家も嫁ぎ先も田舎でしたし、王都にタウンハウスを持てるような裕福な家ではありませんでしたから。
 この辺りは特に整備されていて美しいと思います」

 馬車の窓から見える風景を眺めながらアンナとのお喋りを楽しんでいると、いつの間にか孤児院に到着していた。
 先触れを出していたからか、孤児院の入口にはシスターや職員らしき人物たちが待っているのが見える。

「シールズ公爵夫人。本日は孤児院に来て下さってありがとうございます。
 また、先日は沢山のご寄付を頂きましたことを深く感謝しております」

 挨拶してくれたのは、この孤児院の院長をしているという五十代くらいのシスターだった。

「シスター、ご機嫌よう。
 今日は突然お邪魔してごめんなさい。子供たちからの手紙が嬉しくて来てしまいましたわ」

「それを聞いたら子供たちはとても喜びますわ!
 子供たちの勉強の励みになるでしょう」

 さっそくシスターは、孤児院の中を案内してくれる。建物は新しくはないが、掃除が行き届いて明るい雰囲気だった。
 シスターといると色々な子供たちが話しかけてくれる。このシスターは子供たちにとても好かれているようだ。そうでなければ、こんな風に子供たちから寄ってくるはずがない。

「公爵夫人から頂いた寄付金で、新しいテーブルや椅子、カーテンを買いました。
 子供たちの服やノート、薬なども購入できましたわ。本当にありがとうございます」

「それは良かったですわ。
 他に必要な物はありますか?」

「いえ。沢山いただきましたわ。ありがとうございます」

「何かあれば、何でも言ってください」

「でしたら、ぜひ子供たちと交流していって欲しいのです。
 子供たちはみんな公爵夫人を憧れの目で見ていますから、話しかけていただけたらみんな喜びますわ!」

「そうでしょうか?」

 私なんかに憧れるはずがないのに……

「ええ。ぜひ子供たちとお喋りをして欲しいですわ」

 何を話せばいいのか分からなかったけど、近くにいた女の子に挨拶をしたら、分かりやすく喜んでくれて、それを見た違う子供たちが私に話しかけてくれたりして、子供たちとのお喋りは思った以上に楽しかった。
 子供ってこんなに可愛いのね。みんな元気で、見ているだけで私まで明るい気持ちになれる。

 お喋りをしているとあっと言う間に時間が過ぎていき、帰る時間になっていた。

「公爵夫人、もう帰ってしまうの?」

「また遊びにきてね!」

「うわーん! 寂しいよぉ。帰らないで」

「公爵夫人。今日はありがとうございました。
 子供たちはみんな喜んでいましたわ」

「シスター、また遊びに来てもいいでしょうか?」

 私はこの孤児院のシスターと子供たちにまた会いたいと思ってしまった。

「勿論ですわ。いつでもお待ちしております」

 それから、週に一度くらいの割合でこの孤児院に来ることが私の楽しみになっていた。

 何度か孤児院に遊びに来ていると、色々なことが見えてくる。
 人手不足で職員が業務に追われていることや、子供たちの将来への不安に、子供の部屋が足りていないことなど。
 職員は掃除や洗濯、食事の準備などの業務を回すのが大変だから、子供たちとじっくり会話をする時間が取れないようだ。
 職員の配置を増やせればいいけど、予算の都合上、簡単に決められないのかしら?

 余りにも忙しそうなので、私も何か手伝いたいと思い、無理を言って洗濯をさせてもらうことにした。
 シスターやアンナからは『公爵夫人に洗濯なんて……』『ドレスが汚れてしまう』とか言われたが、私は旦那様と離縁して平民になった時のために洗濯を覚えておきたいと思ってしまったのだ。
 初めてやった洗濯は、当たり前だが上手には出来なかった。水は冷たいし腰は痛くなるし、手はガサガサになってこんなに大変な仕事だということを初めて知った。
 アンナも私に付き合ってくれて一緒に洗濯をしたけど、手慣れていてとても上手だった。
 さすがアンナ、何でも器用にこなす凄い人なのよね。
 でも体を動かして働くことは気持ちがいい。
 違う日には、洗濯だけでなく掃除もやらせてもらうことにした。


「奥様。今日は洗濯をして手が荒れてしまったので、湯浴みの後に手をマッサージしてお手入れをします。
 ハンドクリームも取り寄せましょうか?」

「ハンドクリームだけど、私の分だけでなく公爵家の使用人たちの分と、孤児院で働く職員の分も取り寄せてもらえるかしら? 勿論、アンナの分もよ。
 孤児院に行ってみて気付いたわ。みんなが働いてくれるから、私は何不自由なく暮らせているのよね。
 アンナ、いつもありがとう」

「奥様からそんな嬉しい言葉を掛けていただけるなんて……
 ありがとうございます。みんな喜びますわ!」

 アンナは急ぎでハンドクリームを取り寄せてくれて、公爵家の使用人たちに配ってくれた。






* いつもありがとうございます!

あなたにおすすめの小説

五度目の人生でも「君を愛することはない」と言われたので、私も愛を捨てました

たると
恋愛
「ルチア、私は君を愛することはない。この婚約は単なる義務だ」 冷徹な公爵、アルベルトの声が夜会会場の片隅で響く。 これで、五度目だ。 私は深く、そして軽やかに一礼した。 「承知いたしました。では、今後はそのように」 これまでは泣いて縋り、彼を振り向かせようと必死に尽くしてきた。 だが、死に戻りを五回も繰り返せば、流石に飽きる。 私は彼を愛することを、きっぱりと辞めた。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜

まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。 夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。 社交の場ではただ隣に立つだけ。 屋敷では「妻」としてすら扱われない。 それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。 ――けれど、その期待はあっさりと壊れる。 夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。 私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。 引き止める者は、誰もいない。 これで、すべて終わったはずだった―― けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。 「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」 幼い頃から、ただ一人。 私の名前を呼び続けてくれた人。 「――アリシア」 その一言で、凍りついていた心がほどけていく。 一方、私を軽んじ続けた元夫は、 “失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。 これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、 本当の居場所と愛を取り戻す物語。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

忘れて幸せになってください。〜冷酷な妻として追い出せれましたが、貴方の呪いは私が肩代わりしていました〜

しょくぱん
恋愛
「君のような冷酷な女は知らない」――英雄と称えられる公爵夫人のエルゼは、魔王の呪いを受けた夫・アルフレートに離縁を突きつけられる。 しかし、夫が正気を保っているのは、エルゼが『代償魔導』で彼の呪いと苦痛をすべて肩代わりしていたからだった。 ボロボロの体で城を追われるエルゼ。記憶を失い、偽りの聖女と愛を囁く夫。 だが、彼女が離れた瞬間、夫に「真実の代償」が襲いかかる。

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)