私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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支えになりたい

 私が孤児院で悩んでいることについて話すと、王太子殿下は今すぐに全てを変えることは難しいが、帰ってから側近たちと相談してみると言って下さった。

「アリー、前に教会で会った時よりも表情が明るくなっているな。ずっと心配していたが、君のその変化が見れて安心した。
 早く……君の記憶も戻ればいいのに……」

 殿下は、私の記憶が戻ることを望んでいるようだ。
 今さら私の記憶が戻ったとして、何が変わるというのか? 記憶喪失が治っても、前のようには戻れないのに。
 その時、殿下が私を見る目は臣下に向ける目ではないことに気付いてしまった……

「殿下……、申し訳ありません」

「アリー、そんな悲しそうな目で私を見ないでくれ。
 また会おう。もう避けないでくれよ」

 殿下は最後に優しく微笑むと帰っていった。
 それにしても私が教会に行かなくなったから、殿下に避けているのがバレていたらしい。
 でも夫のいる立場で、かつての婚約者と会うのはあまりいいものではないと思う。分かりやすく避けるつもりはないけど、極力会わないように気を付けなければならない。

「奥様、殿下との話は大丈夫でしたか?」

 殿下が人払いしたので、話が終わるまでアンナも部屋の外で私を待っていてくれた。

「ええ。孤児院の今の問題点について殿下にお話が出来たから良かったわ。殿下はお忙しいのに、私の話に耳を傾けて下さったの。話せて良かったと思っているわ。
 アンナが特に心配するようなことはなかったわよ」

「そうでしたか。それなら安心しました」

 アンナは前に教会で殿下にお会いした時の私が、グッタリと疲れていたから心配しているのだろう。
 その時、ハッとした。私が公爵家から連れて来た護衛騎士たちは、きっとこのことを旦那様に報告するに違いない。
 彼らはみんな主人に忠実な護衛であり監視なのだから。
 でも報告を聞いた旦那様が、前みたいに変な心配をして仕事を早退してきたらどうしようかしら?
 不安になった私は、私の護衛騎士の一人であるアーロン卿に聞いてみることにした。

「アーロン卿。貴方たち護衛は、王太子殿下と私が接触したことを旦那様に報告するのかしら?」

「公爵閣下からは、邸での奥様に何かなかったか、外出先での出来事など全て報告するようにと言われております。
 たとえ奥様が接触した相手が、どこかの貴婦人であろうが平民の子供であろうが、捨て猫であったとしても、細かく報告することを閣下は望まれております。
 どうかご理解下さい」

 アーロン卿は、相手が王太子殿下でなくても旦那様に報告すると言いたいのだろうけど……
 護衛というよりは、見張りや監視で付いてきているのだと聞こえるような言い方をするのね。そういえばヴィーは、本当か嘘か分からないけど、この結婚は監視の意味があると言っていた。
 私はやはり旦那様から信用されていないみたいだわ。私も旦那様を完全に信用していないからお互い様だけど、気分のいいものではない。

「そう……分かったわ。いつもありがとう。
 ただ、前に王太子殿下に教会でお会いした時に旦那様が慌てて仕事を早退して帰ってきたことがあったでしょ?
 私は旦那様の仕事の邪魔をしたくないの。今日は旦那様が心配するようなことは何もなかったし、さっき殿下にお話したのは、孤児院の問題について相談しただけよ。
 貴方たちには、旦那様が心配して仕事を早退しないように上手く報告して欲しいと思っているわ」

「畏まりました」



 その日、旦那様は仕事を早退することはなく、いつもの時間に帰ってきた。
 そして夕食時、旦那様は今日の出来事を私に聞いてくるのだった。

「アリエル、今日は孤児院はどうだった?
 楽しかったか?」

 穏やかな口調で聞いてくる旦那様からは悪意のようなものは感じなかった。
 でも護衛騎士から細かく報告を受け、何でも知っているはずなのにわざわざ私に聞いてくるなんて、何だか白々しく感じてしまった。

「ええ……、楽しく過ごしてきました。
 護衛騎士から報告を受けていると思いますが、王太子殿下にお会いしました」

「ああ、そのことか……
 帰って来る前に偶然殿下にお会いして、話は聞いている。
 殿下はアリエルを褒めておられた。
 普通の貴族なら寄付をしただけで孤児を助けたつもりになって満足して終わりなのに、アリエルは孤児の問題をよく理解していて、どうすべきなのか分かっていると。
 私も君の夫として誇らしく感じたよ」

 私の夫として誇らしいですって……?
 あんなに私を監視するようなことをして、私のすること全てを疑っているくせに、随分と都合のいいことを口にするのね。

「ちょうど孤児院のことを考えていた時に殿下にお会いしたので、図々しくも相談してしまいましたわ」

「殿下は、予備予算を使って何とかできないかと考えているようだ」

「そうでしたか……。殿下が孤児院の問題をそこまで考えて下さっていたことを知れて、とても嬉しく思います」

「アリエル……、次に何か悩みがある時は私にも話してくれないか?
 君の夫として、何かあれば一番に支えになりたいんだ」

 普通の夫婦であったなら、愛する夫からそんなことを言われれば妻として嬉しく感じるのだろう。
 でも私達は、愛のない形だけの夫婦で信頼関係もない。
 旦那様は、夫として私の心の内も監視したがっているのかもしれない。

「……はい。何かあれば旦那様に相談するように致します」

 力なく微笑むことしか出来なかった。

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