31 / 67
支えになりたい
私が孤児院で悩んでいることについて話すと、王太子殿下は今すぐに全てを変えることは難しいが、帰ってから側近たちと相談してみると言って下さった。
「アリー、前に教会で会った時よりも表情が明るくなっているな。ずっと心配していたが、君のその変化が見れて安心した。
早く……君の記憶も戻ればいいのに……」
殿下は、私の記憶が戻ることを望んでいるようだ。
今さら私の記憶が戻ったとして、何が変わるというのか? 記憶喪失が治っても、前のようには戻れないのに。
その時、殿下が私を見る目は臣下に向ける目ではないことに気付いてしまった……
「殿下……、申し訳ありません」
「アリー、そんな悲しそうな目で私を見ないでくれ。
また会おう。もう避けないでくれよ」
殿下は最後に優しく微笑むと帰っていった。
それにしても私が教会に行かなくなったから、殿下に避けているのがバレていたらしい。
でも夫のいる立場で、かつての婚約者と会うのはあまりいいものではないと思う。分かりやすく避けるつもりはないけど、極力会わないように気を付けなければならない。
「奥様、殿下との話は大丈夫でしたか?」
殿下が人払いしたので、話が終わるまでアンナも部屋の外で私を待っていてくれた。
「ええ。孤児院の今の問題点について殿下にお話が出来たから良かったわ。殿下はお忙しいのに、私の話に耳を傾けて下さったの。話せて良かったと思っているわ。
アンナが特に心配するようなことはなかったわよ」
「そうでしたか。それなら安心しました」
アンナは前に教会で殿下にお会いした時の私が、グッタリと疲れていたから心配しているのだろう。
その時、ハッとした。私が公爵家から連れて来た護衛騎士たちは、きっとこのことを旦那様に報告するに違いない。
彼らはみんな主人に忠実な護衛であり監視なのだから。
でも報告を聞いた旦那様が、前みたいに変な心配をして仕事を早退してきたらどうしようかしら?
不安になった私は、私の護衛騎士の一人であるアーロン卿に聞いてみることにした。
「アーロン卿。貴方たち護衛は、王太子殿下と私が接触したことを旦那様に報告するのかしら?」
「公爵閣下からは、邸での奥様に何かなかったか、外出先での出来事など全て報告するようにと言われております。
たとえ奥様が接触した相手が、どこかの貴婦人であろうが平民の子供であろうが、捨て猫であったとしても、細かく報告することを閣下は望まれております。
どうかご理解下さい」
アーロン卿は、相手が王太子殿下でなくても旦那様に報告すると言いたいのだろうけど……
護衛というよりは、見張りや監視で付いてきているのだと聞こえるような言い方をするのね。そういえばヴィーは、本当か嘘か分からないけど、この結婚は監視の意味があると言っていた。
私はやはり旦那様から信用されていないみたいだわ。私も旦那様を完全に信用していないからお互い様だけど、気分のいいものではない。
「そう……分かったわ。いつもありがとう。
ただ、前に王太子殿下に教会でお会いした時に旦那様が慌てて仕事を早退して帰ってきたことがあったでしょ?
私は旦那様の仕事の邪魔をしたくないの。今日は旦那様が心配するようなことは何もなかったし、さっき殿下にお話したのは、孤児院の問題について相談しただけよ。
貴方たちには、旦那様が心配して仕事を早退しないように上手く報告して欲しいと思っているわ」
「畏まりました」
その日、旦那様は仕事を早退することはなく、いつもの時間に帰ってきた。
そして夕食時、旦那様は今日の出来事を私に聞いてくるのだった。
「アリエル、今日は孤児院はどうだった?
楽しかったか?」
穏やかな口調で聞いてくる旦那様からは悪意のようなものは感じなかった。
でも護衛騎士から細かく報告を受け、何でも知っているはずなのにわざわざ私に聞いてくるなんて、何だか白々しく感じてしまった。
「ええ……、楽しく過ごしてきました。
護衛騎士から報告を受けていると思いますが、王太子殿下にお会いしました」
「ああ、そのことか……
帰って来る前に偶然殿下にお会いして、話は聞いている。
殿下はアリエルを褒めておられた。
普通の貴族なら寄付をしただけで孤児を助けたつもりになって満足して終わりなのに、アリエルは孤児の問題をよく理解していて、どうすべきなのか分かっていると。
私も君の夫として誇らしく感じたよ」
私の夫として誇らしいですって……?
あんなに私を監視するようなことをして、私のすること全てを疑っているくせに、随分と都合のいいことを口にするのね。
「ちょうど孤児院のことを考えていた時に殿下にお会いしたので、図々しくも相談してしまいましたわ」
「殿下は、予備予算を使って何とかできないかと考えているようだ」
「そうでしたか……。殿下が孤児院の問題をそこまで考えて下さっていたことを知れて、とても嬉しく思います」
「アリエル……、次に何か悩みがある時は私にも話してくれないか?
君の夫として、何かあれば一番に支えになりたいんだ」
普通の夫婦であったなら、愛する夫からそんなことを言われれば妻として嬉しく感じるのだろう。
でも私達は、愛のない形だけの夫婦で信頼関係もない。
旦那様は、夫として私の心の内も監視したがっているのかもしれない。
「……はい。何かあれば旦那様に相談するように致します」
力なく微笑むことしか出来なかった。
「アリー、前に教会で会った時よりも表情が明るくなっているな。ずっと心配していたが、君のその変化が見れて安心した。
早く……君の記憶も戻ればいいのに……」
殿下は、私の記憶が戻ることを望んでいるようだ。
今さら私の記憶が戻ったとして、何が変わるというのか? 記憶喪失が治っても、前のようには戻れないのに。
その時、殿下が私を見る目は臣下に向ける目ではないことに気付いてしまった……
「殿下……、申し訳ありません」
「アリー、そんな悲しそうな目で私を見ないでくれ。
また会おう。もう避けないでくれよ」
殿下は最後に優しく微笑むと帰っていった。
それにしても私が教会に行かなくなったから、殿下に避けているのがバレていたらしい。
でも夫のいる立場で、かつての婚約者と会うのはあまりいいものではないと思う。分かりやすく避けるつもりはないけど、極力会わないように気を付けなければならない。
「奥様、殿下との話は大丈夫でしたか?」
殿下が人払いしたので、話が終わるまでアンナも部屋の外で私を待っていてくれた。
「ええ。孤児院の今の問題点について殿下にお話が出来たから良かったわ。殿下はお忙しいのに、私の話に耳を傾けて下さったの。話せて良かったと思っているわ。
アンナが特に心配するようなことはなかったわよ」
「そうでしたか。それなら安心しました」
アンナは前に教会で殿下にお会いした時の私が、グッタリと疲れていたから心配しているのだろう。
その時、ハッとした。私が公爵家から連れて来た護衛騎士たちは、きっとこのことを旦那様に報告するに違いない。
彼らはみんな主人に忠実な護衛であり監視なのだから。
でも報告を聞いた旦那様が、前みたいに変な心配をして仕事を早退してきたらどうしようかしら?
不安になった私は、私の護衛騎士の一人であるアーロン卿に聞いてみることにした。
「アーロン卿。貴方たち護衛は、王太子殿下と私が接触したことを旦那様に報告するのかしら?」
「公爵閣下からは、邸での奥様に何かなかったか、外出先での出来事など全て報告するようにと言われております。
たとえ奥様が接触した相手が、どこかの貴婦人であろうが平民の子供であろうが、捨て猫であったとしても、細かく報告することを閣下は望まれております。
どうかご理解下さい」
アーロン卿は、相手が王太子殿下でなくても旦那様に報告すると言いたいのだろうけど……
護衛というよりは、見張りや監視で付いてきているのだと聞こえるような言い方をするのね。そういえばヴィーは、本当か嘘か分からないけど、この結婚は監視の意味があると言っていた。
私はやはり旦那様から信用されていないみたいだわ。私も旦那様を完全に信用していないからお互い様だけど、気分のいいものではない。
「そう……分かったわ。いつもありがとう。
ただ、前に王太子殿下に教会でお会いした時に旦那様が慌てて仕事を早退して帰ってきたことがあったでしょ?
私は旦那様の仕事の邪魔をしたくないの。今日は旦那様が心配するようなことは何もなかったし、さっき殿下にお話したのは、孤児院の問題について相談しただけよ。
貴方たちには、旦那様が心配して仕事を早退しないように上手く報告して欲しいと思っているわ」
「畏まりました」
その日、旦那様は仕事を早退することはなく、いつもの時間に帰ってきた。
そして夕食時、旦那様は今日の出来事を私に聞いてくるのだった。
「アリエル、今日は孤児院はどうだった?
楽しかったか?」
穏やかな口調で聞いてくる旦那様からは悪意のようなものは感じなかった。
でも護衛騎士から細かく報告を受け、何でも知っているはずなのにわざわざ私に聞いてくるなんて、何だか白々しく感じてしまった。
「ええ……、楽しく過ごしてきました。
護衛騎士から報告を受けていると思いますが、王太子殿下にお会いしました」
「ああ、そのことか……
帰って来る前に偶然殿下にお会いして、話は聞いている。
殿下はアリエルを褒めておられた。
普通の貴族なら寄付をしただけで孤児を助けたつもりになって満足して終わりなのに、アリエルは孤児の問題をよく理解していて、どうすべきなのか分かっていると。
私も君の夫として誇らしく感じたよ」
私の夫として誇らしいですって……?
あんなに私を監視するようなことをして、私のすること全てを疑っているくせに、随分と都合のいいことを口にするのね。
「ちょうど孤児院のことを考えていた時に殿下にお会いしたので、図々しくも相談してしまいましたわ」
「殿下は、予備予算を使って何とかできないかと考えているようだ」
「そうでしたか……。殿下が孤児院の問題をそこまで考えて下さっていたことを知れて、とても嬉しく思います」
「アリエル……、次に何か悩みがある時は私にも話してくれないか?
君の夫として、何かあれば一番に支えになりたいんだ」
普通の夫婦であったなら、愛する夫からそんなことを言われれば妻として嬉しく感じるのだろう。
でも私達は、愛のない形だけの夫婦で信頼関係もない。
旦那様は、夫として私の心の内も監視したがっているのかもしれない。
「……はい。何かあれば旦那様に相談するように致します」
力なく微笑むことしか出来なかった。
あなたにおすすめの小説
五度目の人生でも「君を愛することはない」と言われたので、私も愛を捨てました
たると
恋愛
「ルチア、私は君を愛することはない。この婚約は単なる義務だ」
冷徹な公爵、アルベルトの声が夜会会場の片隅で響く。
これで、五度目だ。
私は深く、そして軽やかに一礼した。
「承知いたしました。では、今後はそのように」
これまでは泣いて縋り、彼を振り向かせようと必死に尽くしてきた。
だが、死に戻りを五回も繰り返せば、流石に飽きる。
私は彼を愛することを、きっぱりと辞めた。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
◇レジーナブックスより書籍発売中です!
本当にありがとうございます!
愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜
まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。
社交の場ではただ隣に立つだけ。
屋敷では「妻」としてすら扱われない。
それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。
――けれど、その期待はあっさりと壊れる。
夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。
私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。
引き止める者は、誰もいない。
これで、すべて終わったはずだった――
けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。
「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」
幼い頃から、ただ一人。
私の名前を呼び続けてくれた人。
「――アリシア」
その一言で、凍りついていた心がほどけていく。
一方、私を軽んじ続けた元夫は、
“失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。
これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、
本当の居場所と愛を取り戻す物語。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
忘れて幸せになってください。〜冷酷な妻として追い出せれましたが、貴方の呪いは私が肩代わりしていました〜
しょくぱん
恋愛
「君のような冷酷な女は知らない」――英雄と称えられる公爵夫人のエルゼは、魔王の呪いを受けた夫・アルフレートに離縁を突きつけられる。
しかし、夫が正気を保っているのは、エルゼが『代償魔導』で彼の呪いと苦痛をすべて肩代わりしていたからだった。
ボロボロの体で城を追われるエルゼ。記憶を失い、偽りの聖女と愛を囁く夫。
だが、彼女が離れた瞬間、夫に「真実の代償」が襲いかかる。
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)