私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

文字の大きさ
42 / 67

閑話 シールズ公爵

 殿下と話をした後日、私はアリエルの兄のエリックと会う約束をしていた。
 殿下がアリエルに接触した日、『殿下は私たちの離縁についてバトラー侯爵家と何かを話しているのかもしれません』と彼女が言っていたことが気になっていたからだ。
 エリックとは時々、王宮で顔を合わせることはあったが、こうやって呼び出して二人で話をするのは久しぶりのことだった。

「オーウェン、今日はどうした?
 アリエルに何かあったか?」

「エリック、王太子殿下がアリエルに無理に接触してきたようだ。
 それで離縁の話をしてきたらしい。
 お前、そのことで何か知っていることはあるか?」

 私がその話を振ると、エリックの表情がこわばるのが分かった。

「その話か……
 実は、少し前に殿下と話をする機会があったんだが……、殿下はまだアリエルを愛しているとおっしゃっていた。
 記憶を失う前のアリーも殿下を愛していたらしい。もし許されるなら、私達は殿下とアリーには元に戻って欲しいと思っている。
 殿下が言うには、今のアリーは正妃は無理だが側妃としてなら迎えることができるようだ」

 やはりアリエルの言う通り、殿下とバトラー侯爵家は繋がっていたらしい。

「私達家族は、アリーには心から愛してくれる人の伴侶になって欲しいと思っている。
 オーウェンは……、ただ王命で結婚しただけだろう?
 私達は王命だからと都合よくアリーを押しつけてしまったことを申し訳なく思っている。でも、この結婚に愛はないよな? だったら離縁を考えてくれないか?
 アリーの記憶が戻って、殿下を愛していたことを思い出した時、オーウェンだってつらいと思うんだ。
 答えは今すぐでなくても構わない。幼馴染のお前を振り回すようなことを言って申し訳ない……」

 その後、エリックと何を話したのかの記憶が曖昧だった。
 殿下だけでなく、アリエルの実家のバトラー侯爵家も離縁を望んでいるということを知り、胸が抉られたように痛む。
 王命という力を都合よく利用して結婚したことで、こんな簡単に離縁を頼まれるほど、気薄な夫婦関係に見られているということか……
 あんな形での始まりだったとはいえ、これからはアリエルの夫として妻を大切にしていこうと決めたのに。
 しかし、エリックの話を聞いてショックは受けたものの、離縁をしたいとは思わなかった。
 アリエルが離縁を望んでいないのだから、私は夫として彼女を守っていきたい。

 この話はすぐに国王陛下に報告し、私達は離縁を望んでいないことを伝えておいた。陛下は当事者が望まない離縁の話を進めることは絶対にしないと言ってくれる。
 今の私に出来ることは、アリエルとの関係を改善していくこと。彼女から夫として認めてもらえるように努力していこう。

 そんな私は陛下から長期の休みをもらえることになり、アリエルと一緒に領地に行くことになる。
 二人で出掛けることも、長時間を二人一緒に過ごすことも初めてのことで少し緊張してしまったが、彼女と一緒に過ごす時間は心地の良いものだった。
 長時間の馬車の移動でアリエルが馬車酔いをしてしまったり、普段は別々に寝ていた私達の寝室が一緒だったりと思いがけない出来事はあったが、彼女と二人で領地で過ごせたことはとても嬉しかった。

 しかし、あることがきっかけで私は激昂することになる。
 それは領地の近くに住む親族に、アリエルを紹介するために開いた食事会での出来事だった。
 親族とは言っても、昔からの付き合いが何となく続いてきただけの関係で、全員と仲が良いわけではない。公爵である私に取り入ってやろうと媚を売る者や、自分の娘を私の妻にと勧めてきたりする者もいたりして、不愉快な者もたくさんいる。きっとその者たちの中には、若くておっとりとした性格のアリエルを見下す者もいたりするだろうと予想はしていた。
 だから、食事会の席やその後の夫人だけの茶会には、信用の出来る使用人と騎士を配置していたのだが、まさかその場で体の弱いアリエルをバカにして、新婚である私達に娘を愛妾にと勧める者がいるとは……
 アリエルから事情を聞いた私は、スローン子爵夫人と令嬢にその場で親族としての縁切りを宣言した。
 更にその後、別室にいた子爵には縁切りと事業の取引をやめることを告げた。

「閣下。そこまでご立腹なさるということは、よほど奥様を愛しておられるのですね」

 それは子供の頃からの付き合いで、お互いをよく知る家令が何気なく言った一言だった。

 この怒りは愛する妻を侮辱されたからだったのか……
 あの女からアリエルが妊娠しているかもしれないと聞いた時、急いで結婚してお腹の子供を自分の子として育てたいと思ったのも、私が彼女を愛していたから……
 王太子殿下がアリエルに接触したことを不愉快に感じたことも、バトラー侯爵家が私達の離縁を望んでいることを知りショックを受けたことも、私はアリエルを愛しているから……
 
 その時になって、やっと私は彼女への気持ちに気付いたのであった。
 

あなたにおすすめの小説

五度目の人生でも「君を愛することはない」と言われたので、私も愛を捨てました

たると
恋愛
「ルチア、私は君を愛することはない。この婚約は単なる義務だ」 冷徹な公爵、アルベルトの声が夜会会場の片隅で響く。 これで、五度目だ。 私は深く、そして軽やかに一礼した。 「承知いたしました。では、今後はそのように」 これまでは泣いて縋り、彼を振り向かせようと必死に尽くしてきた。 だが、死に戻りを五回も繰り返せば、流石に飽きる。 私は彼を愛することを、きっぱりと辞めた。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜

まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。 夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。 社交の場ではただ隣に立つだけ。 屋敷では「妻」としてすら扱われない。 それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。 ――けれど、その期待はあっさりと壊れる。 夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。 私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。 引き止める者は、誰もいない。 これで、すべて終わったはずだった―― けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。 「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」 幼い頃から、ただ一人。 私の名前を呼び続けてくれた人。 「――アリシア」 その一言で、凍りついていた心がほどけていく。 一方、私を軽んじ続けた元夫は、 “失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。 これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、 本当の居場所と愛を取り戻す物語。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

忘れて幸せになってください。〜冷酷な妻として追い出せれましたが、貴方の呪いは私が肩代わりしていました〜

しょくぱん
恋愛
「君のような冷酷な女は知らない」――英雄と称えられる公爵夫人のエルゼは、魔王の呪いを受けた夫・アルフレートに離縁を突きつけられる。 しかし、夫が正気を保っているのは、エルゼが『代償魔導』で彼の呪いと苦痛をすべて肩代わりしていたからだった。 ボロボロの体で城を追われるエルゼ。記憶を失い、偽りの聖女と愛を囁く夫。 だが、彼女が離れた瞬間、夫に「真実の代償」が襲いかかる。

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)