私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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複雑な気持ち

 旦那様をどこまで信用していいのか分からないけど、私を心配してくれているようだし、元気がないことも気づいてくれた。
 打ち明けてみてもいいかもしれない……

「旦那様。この前の夜会で両親と兄から、旦那様との離縁を勧められました。
 王太子殿下の縁談の話や、私を側妃に望んでいるという話も聞かされました。
 そんなこともあって、王妃殿下のお茶会ではどんな話をされるのか不安なのです」

 旦那様にこんな話をしたら、バトラー侯爵家や私に対して失望するかもしれない。
 王命で仕方なく結婚したにも関わらず、夫としての義務を果たしてくれている旦那様に対して、この話はあまりにも勝手すぎる。

「アリエルは私と離縁したいと考えているのか?」

「……いえ。私はこのまま旦那様の妻でいることを望みます。
 今のまま、静かで穏やかな生活を送りたいのです」

「そうか……。私とアリエルは同じ気持ちでいるようだ。離縁はする必要はないな」

 こんな話をしたら不愉快に感じてもしょうがないのに、旦那様は温和な表情をしていた。

「アリエル。気分を悪くしないで欲しいのだが……
 君は王太子殿下のことを何とも思っていないのか?
 今は記憶がないから殿下に対して何も思わなくても、記憶が戻ったら殿下への気持ちが変わるかもしれない……」

「両親や兄は、以前の私が殿下を愛していたから、側妃になった方が幸せになれると考えているようです。
 しかし私はそうは思いません。殿下の正妃となる方に申し訳なく思いますし、今の私は殿下にそのような気持ちを持っていませんから。
 私と殿下はもう終わったのです。記憶が戻っても、この考えは変わらないと思います」

「分かった。では、私とこれからもずっと夫婦でいてくれるか?」

「……ずっとですか?」

 旦那様から言われた言葉を聞き、複雑な気持ちになる。
 嬉しいけど、旦那様の言葉をどこまで信じていいのか? 
 信じたい気持ちが芽生え始めていても、全てを信じていいものなのか?
 別に大切な女性を見つけたら、またあの頃のように冷遇されるのではないか……
 仲が良かったという家族ですらあんな風に私を冷遇したし、愛し合っていたという王太子殿下だって、簡単に騙されて私を見捨てた。
 期待して後で傷付くのは怖い……

「……アリエル?」

「旦那様は初夜の時に、これは王命での結婚だと言って、私を愛することはないと話していました。私もそれは理解しております。
 ですから、私は旦那様からの愛は望みませんし、私も旦那様を愛することはありません。愛がなくても夫婦でいることは出来ますから。
 しかしこの先、旦那様に本当に愛する人が現れた場合、私達は夫婦生活をすることは難しくなると思います。
 今は夫婦生活を続けますが、国王陛下が退位された後、旦那様が離縁を望まれたなら私はここを出ていくつもりです。ずっと夫婦でいるという約束は出来ませんわ」

「アリエルは……、私をそんな男だと思っているのか……?
 いや。私があんなことを言ったのが悪かったのだな」

 旦那様の声が震えているように聞こえた。
 怒っている? 私は旦那様の気持ちを優先して話をしたつもりだったのに。
 ずっと夫婦でいることを約束は出来ない。
 人の気持なんて、何かをきっかけに簡単に変わるのだから……

「アリエル。初夜の時、君に言ったことは申し訳なかった。
 あんなに酷い態度を取っておきながら、ずっと夫婦でいてくれなんて言っても信用出来ないよな?
 でも私は君と添い遂げたいと思っている。
 私はアリエルを愛しているんだ」

 愛してる……か

「……旦那様。私は愛を望んでおりません。
 記憶を失った私は、愛した記憶も愛された記憶もないのです。正直なところ、愛が何なのかがよく分からないのですわ。
 それに私を愛していたはずの人たちは、あの時に私を簡単に見捨てたのでしょう?
 愛はなくても、これからもずっと仲良くして下さったら嬉しく思っています」

「アリエルの気持ちは分かった。
 君に私を愛してくれなんて言わない。でも、ずっと側にいて欲しいと思っている。
 こんな夫でも、いないよりはマシだと思ってもらえるように頑張るよ」

 旦那様は寂しげに微笑んでいた。
 
 
 


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