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両親と兄
旦那様は毎日忙しいようで、帰りが遅くなる日々が続く。
私が寝る直前に疲れて帰ってくる旦那様に、アシュベリー国の王女殿下のことを聞くことは出来ず、あの後どうなったのかを詳しく知ることは出来なかった。
私の方は公爵夫人の執務をしたり、孤児院へ慰問に行ったり、友人達とお茶をしたりして過ごしている。
そんなある日、先触れもなくバトラー侯爵家の両親と兄がやって来るのであった。
旦那様が仕事で不在であることを知りながら、わざと先触れも出さずに来たに違いない。怒りが込み上げてくるのを何とか我慢しながら、応接室へと向かうことになる。
「アリー、突然来てしまって申し訳ない。
……人払いをして欲しいのだが」
図々しく人払いを頼んでくる父にため息が出そうになる。
突然やって来て人払いをしなくてはならない話をするようだ。
私はアンナや他のメイド達に目配せをし、退室してもらうことにした。
「侯爵様、使用人達は下がらせましたわ。
今日はどう言った御用でしょうか?」
私の冷ややかな目を見て、気まずそうな表情をしながら父が口を開く。
「殿下から話を聞いた……
私達が推し進めた、殿下の政略結婚の相手であるアシュベリー国の王女殿下にアリーが毒を盛られたと。
大丈夫だったか? まさか王女殿下がそのようなことをするとは思っていなかった。すまない……」
私を殿下の側妃にするために好都合の人物を正妃として迎えようとしたら、その人物から私が命を狙われたと聞いて慌ててやって来たということらしい。
私だけではなく、アシュベリー国の王女殿下まで自分達の都合のいいように利用しようとしておきながら、この人達は謝罪をすれば何とかなると思っているようだ。
「侯爵様が私と離縁させようとした夫が守ってくれましたので大丈夫でしたわ……
今回のことでお分かり頂けたと思います。側妃になっても、私は幸せにはなれません」
「本当に悪かった……。大切な娘を守ってくれたシールズ公爵には謝意を表したいと思っている」
「謝意だけですか……?
私のような者と結婚してくれただけでなく、大切にしてくれている旦那様に、今まで自分勝手な考えで離縁を勧めておきながら、他に言うことはないのでしょうか?」
「……すまなかった」
父が言葉を詰まらせていると母が口を開く。
「アリー。もう私達は殿下の側妃になりなさいだとか、離縁をしなさいだとか言うのはやめるわ。
公爵様はアリーを大切にしてくれているようだし、今が幸せならそれでいいと思うの。
何か嫌なことがあったら、いつでも帰って来なさい。困ったことがあれば、私達は貴女の力になりたいと思っているのよ……」
私が本当に困っている時に冷遇しておきながら、よくもこんな都合のいいことが言えるものだと感心してしまう。
腹が立つから言い返したいところだけど、私はこの人達の薄っぺらい厚意を上手く利用したいと思ってしまった。
「ありがとうございます。
でしたら……、アシュベリー国の王女殿下の力になってあげて下さいませ。
祖国で冷遇され、この国に来てまで酷い扱いをされていた王女殿下を見たら、他人事のようには思えませんでしたわ。
私だって、あのようになっていたかもしれません……」
「アリー……、何を言ってるんだ?」
それまで黙っていた兄が驚いたように声を上げる。
「今回の毒殺未遂事件が公になれば、王女殿下は婚約破棄されてアシュベリーに帰されるでしょう。そうなれば命の補償はありませんわ。
王女殿下との婚約を決めた王太子殿下と、殿下を支持して婚約に賛成していた貴族達にも大きな痛手になります。それだけでなく、アシュベリー国と我が国との関係が悪くなるかもしれませんわ。
私はそれを望まないので、今回のことは目をつぶってもいいと考えているのです。旦那様には反対されましたが……」
「妹を毒殺されそうになったのに、私は見て見ぬ振りなど出来ないぞ!」
「お兄様、落ち着いて聞いて下さいませ。
私はバトラー侯爵家で王女殿下の後ろ盾になって欲しいと思っています。
形だけの正妃がこの国で生きていくには後ろ盾が必要です。ただ後ろ盾になるのではなく、王女殿下が道を外さぬように監視もして欲しいですし、知り合いのいない王女殿下が孤独にならぬよう配慮して欲しいと思っています。
いずれ王太子殿下が側妃をお迎えになった時、王女殿下の後ろ盾としてバトラー侯爵家が付いていれば、側妃やその実家の者が好き勝手出来ないよう、抑止力にもなると思いますわ」
私の話を険しい顔で聞いていた父と兄は、考えさせて欲しいと言って帰って行った。
母だけは、最後まで悲しそうな目で私を見ていた気がした。
私が寝る直前に疲れて帰ってくる旦那様に、アシュベリー国の王女殿下のことを聞くことは出来ず、あの後どうなったのかを詳しく知ることは出来なかった。
私の方は公爵夫人の執務をしたり、孤児院へ慰問に行ったり、友人達とお茶をしたりして過ごしている。
そんなある日、先触れもなくバトラー侯爵家の両親と兄がやって来るのであった。
旦那様が仕事で不在であることを知りながら、わざと先触れも出さずに来たに違いない。怒りが込み上げてくるのを何とか我慢しながら、応接室へと向かうことになる。
「アリー、突然来てしまって申し訳ない。
……人払いをして欲しいのだが」
図々しく人払いを頼んでくる父にため息が出そうになる。
突然やって来て人払いをしなくてはならない話をするようだ。
私はアンナや他のメイド達に目配せをし、退室してもらうことにした。
「侯爵様、使用人達は下がらせましたわ。
今日はどう言った御用でしょうか?」
私の冷ややかな目を見て、気まずそうな表情をしながら父が口を開く。
「殿下から話を聞いた……
私達が推し進めた、殿下の政略結婚の相手であるアシュベリー国の王女殿下にアリーが毒を盛られたと。
大丈夫だったか? まさか王女殿下がそのようなことをするとは思っていなかった。すまない……」
私を殿下の側妃にするために好都合の人物を正妃として迎えようとしたら、その人物から私が命を狙われたと聞いて慌ててやって来たということらしい。
私だけではなく、アシュベリー国の王女殿下まで自分達の都合のいいように利用しようとしておきながら、この人達は謝罪をすれば何とかなると思っているようだ。
「侯爵様が私と離縁させようとした夫が守ってくれましたので大丈夫でしたわ……
今回のことでお分かり頂けたと思います。側妃になっても、私は幸せにはなれません」
「本当に悪かった……。大切な娘を守ってくれたシールズ公爵には謝意を表したいと思っている」
「謝意だけですか……?
私のような者と結婚してくれただけでなく、大切にしてくれている旦那様に、今まで自分勝手な考えで離縁を勧めておきながら、他に言うことはないのでしょうか?」
「……すまなかった」
父が言葉を詰まらせていると母が口を開く。
「アリー。もう私達は殿下の側妃になりなさいだとか、離縁をしなさいだとか言うのはやめるわ。
公爵様はアリーを大切にしてくれているようだし、今が幸せならそれでいいと思うの。
何か嫌なことがあったら、いつでも帰って来なさい。困ったことがあれば、私達は貴女の力になりたいと思っているのよ……」
私が本当に困っている時に冷遇しておきながら、よくもこんな都合のいいことが言えるものだと感心してしまう。
腹が立つから言い返したいところだけど、私はこの人達の薄っぺらい厚意を上手く利用したいと思ってしまった。
「ありがとうございます。
でしたら……、アシュベリー国の王女殿下の力になってあげて下さいませ。
祖国で冷遇され、この国に来てまで酷い扱いをされていた王女殿下を見たら、他人事のようには思えませんでしたわ。
私だって、あのようになっていたかもしれません……」
「アリー……、何を言ってるんだ?」
それまで黙っていた兄が驚いたように声を上げる。
「今回の毒殺未遂事件が公になれば、王女殿下は婚約破棄されてアシュベリーに帰されるでしょう。そうなれば命の補償はありませんわ。
王女殿下との婚約を決めた王太子殿下と、殿下を支持して婚約に賛成していた貴族達にも大きな痛手になります。それだけでなく、アシュベリー国と我が国との関係が悪くなるかもしれませんわ。
私はそれを望まないので、今回のことは目をつぶってもいいと考えているのです。旦那様には反対されましたが……」
「妹を毒殺されそうになったのに、私は見て見ぬ振りなど出来ないぞ!」
「お兄様、落ち着いて聞いて下さいませ。
私はバトラー侯爵家で王女殿下の後ろ盾になって欲しいと思っています。
形だけの正妃がこの国で生きていくには後ろ盾が必要です。ただ後ろ盾になるのではなく、王女殿下が道を外さぬように監視もして欲しいですし、知り合いのいない王女殿下が孤独にならぬよう配慮して欲しいと思っています。
いずれ王太子殿下が側妃をお迎えになった時、王女殿下の後ろ盾としてバトラー侯爵家が付いていれば、側妃やその実家の者が好き勝手出来ないよう、抑止力にもなると思いますわ」
私の話を険しい顔で聞いていた父と兄は、考えさせて欲しいと言って帰って行った。
母だけは、最後まで悲しそうな目で私を見ていた気がした。
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