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エピローグ これからもずっと
旦那様と仲直りした後、あっという間に時間は過ぎていき、私は臨月を迎えていた。
「アリエル。殿下の結婚式が終わったら私はすぐに帰ってくるようにする。だから、夕飯は一緒に食べれると思うんだ」
今日は王太子殿下とアシュベリー国の王女殿下の結婚式なのだが、私は臨月なので参加を見合わせることになっている。
「教会での式の後、王宮でパーティーがあるのに行かなくていいのでしょうか?
公爵である旦那様がパーティーに参加しないなんて、結婚を祝福していないように見られませんか?」
「殿下や陛下には許可を取ってあるし、王女殿下には女性騎士達の他にバトラー侯爵と夫人が付いてくれることになっているから大丈夫だ」
「それならいいのですが、無理して慌てて帰って来るようなことはしないで下さいね。
もし産気づくことがあっても、初産は生まれるまでに何時間もかかるようですし、アンナ達が付いていてくれるので大丈夫ですから」
「私がアリエルの側にいたいんだ……」
「……分かりました。気をつけて帰ってきてくださいね」
旦那様は側近達に引きずられるようにして出発していった。
しかし、私はその日に産気づくことはなく静かに一日を終える。
そして殿下と王女殿下の結婚式も、何の問題もなく執り行うことが出来たようだ。
後で聞いた話によると、バトラー侯爵家が王女殿下の後ろ盾になったからなのか、パーティーで他の貴族や令嬢達からぞんざいに扱われることはなかったらしい。
また、母が定期的に殿下に面会に行き、一緒にお茶をしているようだ。緑に囲まれた離宮で穏やかに生活していると聞いている。
私の方は予定日を数日過ぎた後、無事に男の子の赤ちゃんを出産した。
旦那様は予想通りオロオロしていたが、お医者様が言うには私は安産らしかった。
「アリエル。可愛い息子を産んでくれてありがとう。二人で一緒に大切に育てていこう。
だが、君が苦しむ姿を見るのはとても辛かった……
跡取りが生まれたなら、もう子供は無理に作らなくていいと思っている。やはり私はアリエルが一番なんだ」
旦那様の言葉を聞いた私は複雑な気持ちになっていた。なぜなら、私は自分の子供には兄弟がいた方がいいだろうと考えていたから。
でも、そのうち旦那様の考えが変わるかもしれないし、今までのような夫婦生活を送っていれば、また子供に恵まれるかもしれない。
今は旦那様と赤ちゃんと私の三人での生活を楽しめたらいいと思っている。
「旦那様。辛い時にずっと側にいてくださってありがとうございました。
二人で大切に育てていきましょうね」
「アリエル、本当にありがとう。
君が無事で良かった……」
旦那様と同じ黒髪に赤い目を持つ赤ちゃんは、アルバートと名付けることになる。アルは旦那様にそっくりで、二人は間違いなく親子だと誰が見ても分かると思う。
そんなアルを旦那様はとても可愛がっている。
私達は家族になれたのよね……?
私が旦那様やアルに持つこの感情は愛なのかよく分からないけど、二人を失いたくないし、ずっと大切にしていきたいと思っている。
記憶が戻っていないので、家族の愛とかはよく分からないけど、旦那様と一緒にずっとアルの成長を見守っていきたい。
アルはすくすくと育ち、気がつくと15歳になっていた。今では五つ年下の妹であるアイラを溺愛する優しい兄でもある。
これくらいになると、気になる令嬢でもいるのか、両親である私達の馴れ初めなんかにも興味を持ち始めているようだ。
アルには、私が無理心中に巻き込まれた話はまだしていなかった。成人を迎えてから話をしようとは思っている。
「父上と母上は、いつ婚約したのでしょうか?」
「私達が婚約をしたのは学園を卒業した後だ。
そんなことを気にするなんて、アルは好きな人でもいるのか?」
「アルに好きな人……?
私や旦那様の知る御令嬢かしら?」
「そんな訳では……」
顔を赤くして言葉を詰まらせるアルは、恋をする者の顔をしていた。
少し前までは赤ちゃんだったのに、子供が成長するのはこんなに早いのね……
「早い人は私くらいの年齢で婚約者がいるのに、父上と母上の婚約は早くはなかったのですね。
もしかして……、学生だった頃は別に恋人がいたのですか?」
15歳になると、なかなか鋭い質問をしてくるからとても困る。
「恋人なんていなかった。私はずっとアリエルが好きだったから、やっと婚約出来た時は嬉しかったし、早く結婚したかったから婚約期間は短かった。準備は大変だったが、早く結婚出来て良かったと思っている」
アルの前でなんて恥ずかしいことを……
「確かに父上は母上が大好きですよね。
父上は片想いでもしているかのような目で母上を見てますし……
ずっと好きだったというのは納得です」
「旦那様の片想いではないわ。私も好きなのだから……」
「……アリエル、私が好きだったのか?」
旦那様がぎょっとして私を見ていた。
そんなに驚くことを言ったかしら?
「ええ。嫌いだったら夫婦でいれませんわよ。
優しくて素敵な旦那様が好きですわ」
「……!」
「えっと……、私はここにいてはいけない気がするので、失礼させて頂きます。
あとは二人でお過ごし下さい」
アルは気まずそうにして部屋から出て行ってしまった。
「旦那様……?」
「アリエルから好きだと言ってもらえたのは、生まれて初めてだったから……、年甲斐もなく嬉しくなってしまった……」
私はそのことに全く気付いていなかった。
そういえば、好きって言葉を口にすることはあったけど、それは子供達に対してだけだった。
「旦那様、今更恥ずかしいですが……
私は旦那様が好きですわ。旦那様と結婚出来て幸せです。
これからもずっと側にいて下さいね」
ちょっとした告白のようで、言ってから恥ずかしくなる。顔が熱い……
そんな私を旦那様は顔をほころばせて見ていた。
「アリエル、私も君が大好きだ。
私と結婚してくれてありがとう……
これからもずっと一緒にいような。嫌だと言っても離さないが……。愛してる」
私が好きだと言っただけで、ここまで喜んでくれる人は旦那様しかいないと思う。
愛さないと決めた人と結婚して困ったこともあったけど、私は今、とても幸せだ。
〈終〉
これで完結です。
最後まで読んで下さり感謝しております。
エールを下さった方、ありがとうございました。
「アリエル。殿下の結婚式が終わったら私はすぐに帰ってくるようにする。だから、夕飯は一緒に食べれると思うんだ」
今日は王太子殿下とアシュベリー国の王女殿下の結婚式なのだが、私は臨月なので参加を見合わせることになっている。
「教会での式の後、王宮でパーティーがあるのに行かなくていいのでしょうか?
公爵である旦那様がパーティーに参加しないなんて、結婚を祝福していないように見られませんか?」
「殿下や陛下には許可を取ってあるし、王女殿下には女性騎士達の他にバトラー侯爵と夫人が付いてくれることになっているから大丈夫だ」
「それならいいのですが、無理して慌てて帰って来るようなことはしないで下さいね。
もし産気づくことがあっても、初産は生まれるまでに何時間もかかるようですし、アンナ達が付いていてくれるので大丈夫ですから」
「私がアリエルの側にいたいんだ……」
「……分かりました。気をつけて帰ってきてくださいね」
旦那様は側近達に引きずられるようにして出発していった。
しかし、私はその日に産気づくことはなく静かに一日を終える。
そして殿下と王女殿下の結婚式も、何の問題もなく執り行うことが出来たようだ。
後で聞いた話によると、バトラー侯爵家が王女殿下の後ろ盾になったからなのか、パーティーで他の貴族や令嬢達からぞんざいに扱われることはなかったらしい。
また、母が定期的に殿下に面会に行き、一緒にお茶をしているようだ。緑に囲まれた離宮で穏やかに生活していると聞いている。
私の方は予定日を数日過ぎた後、無事に男の子の赤ちゃんを出産した。
旦那様は予想通りオロオロしていたが、お医者様が言うには私は安産らしかった。
「アリエル。可愛い息子を産んでくれてありがとう。二人で一緒に大切に育てていこう。
だが、君が苦しむ姿を見るのはとても辛かった……
跡取りが生まれたなら、もう子供は無理に作らなくていいと思っている。やはり私はアリエルが一番なんだ」
旦那様の言葉を聞いた私は複雑な気持ちになっていた。なぜなら、私は自分の子供には兄弟がいた方がいいだろうと考えていたから。
でも、そのうち旦那様の考えが変わるかもしれないし、今までのような夫婦生活を送っていれば、また子供に恵まれるかもしれない。
今は旦那様と赤ちゃんと私の三人での生活を楽しめたらいいと思っている。
「旦那様。辛い時にずっと側にいてくださってありがとうございました。
二人で大切に育てていきましょうね」
「アリエル、本当にありがとう。
君が無事で良かった……」
旦那様と同じ黒髪に赤い目を持つ赤ちゃんは、アルバートと名付けることになる。アルは旦那様にそっくりで、二人は間違いなく親子だと誰が見ても分かると思う。
そんなアルを旦那様はとても可愛がっている。
私達は家族になれたのよね……?
私が旦那様やアルに持つこの感情は愛なのかよく分からないけど、二人を失いたくないし、ずっと大切にしていきたいと思っている。
記憶が戻っていないので、家族の愛とかはよく分からないけど、旦那様と一緒にずっとアルの成長を見守っていきたい。
アルはすくすくと育ち、気がつくと15歳になっていた。今では五つ年下の妹であるアイラを溺愛する優しい兄でもある。
これくらいになると、気になる令嬢でもいるのか、両親である私達の馴れ初めなんかにも興味を持ち始めているようだ。
アルには、私が無理心中に巻き込まれた話はまだしていなかった。成人を迎えてから話をしようとは思っている。
「父上と母上は、いつ婚約したのでしょうか?」
「私達が婚約をしたのは学園を卒業した後だ。
そんなことを気にするなんて、アルは好きな人でもいるのか?」
「アルに好きな人……?
私や旦那様の知る御令嬢かしら?」
「そんな訳では……」
顔を赤くして言葉を詰まらせるアルは、恋をする者の顔をしていた。
少し前までは赤ちゃんだったのに、子供が成長するのはこんなに早いのね……
「早い人は私くらいの年齢で婚約者がいるのに、父上と母上の婚約は早くはなかったのですね。
もしかして……、学生だった頃は別に恋人がいたのですか?」
15歳になると、なかなか鋭い質問をしてくるからとても困る。
「恋人なんていなかった。私はずっとアリエルが好きだったから、やっと婚約出来た時は嬉しかったし、早く結婚したかったから婚約期間は短かった。準備は大変だったが、早く結婚出来て良かったと思っている」
アルの前でなんて恥ずかしいことを……
「確かに父上は母上が大好きですよね。
父上は片想いでもしているかのような目で母上を見てますし……
ずっと好きだったというのは納得です」
「旦那様の片想いではないわ。私も好きなのだから……」
「……アリエル、私が好きだったのか?」
旦那様がぎょっとして私を見ていた。
そんなに驚くことを言ったかしら?
「ええ。嫌いだったら夫婦でいれませんわよ。
優しくて素敵な旦那様が好きですわ」
「……!」
「えっと……、私はここにいてはいけない気がするので、失礼させて頂きます。
あとは二人でお過ごし下さい」
アルは気まずそうにして部屋から出て行ってしまった。
「旦那様……?」
「アリエルから好きだと言ってもらえたのは、生まれて初めてだったから……、年甲斐もなく嬉しくなってしまった……」
私はそのことに全く気付いていなかった。
そういえば、好きって言葉を口にすることはあったけど、それは子供達に対してだけだった。
「旦那様、今更恥ずかしいですが……
私は旦那様が好きですわ。旦那様と結婚出来て幸せです。
これからもずっと側にいて下さいね」
ちょっとした告白のようで、言ってから恥ずかしくなる。顔が熱い……
そんな私を旦那様は顔をほころばせて見ていた。
「アリエル、私も君が大好きだ。
私と結婚してくれてありがとう……
これからもずっと一緒にいような。嫌だと言っても離さないが……。愛してる」
私が好きだと言っただけで、ここまで喜んでくれる人は旦那様しかいないと思う。
愛さないと決めた人と結婚して困ったこともあったけど、私は今、とても幸せだ。
〈終〉
これで完結です。
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