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離縁
アブスが実家に里帰りした翌日、伯爵様が私の執務室にやって来た。
昨日のアブスの報告にでも来たのだろうな…と思った私は、執務室に入れてあげることにした。
顔だけはいいはずの伯爵様は、今日も疲れた顔をしている。
「エレノア…。昨日はすまなかった。
あの女があそこまで狂っているとは知らなかった。
あの女がエレノアに敵意を剥き出しにしているのを見て、いかに危険な女なのかを、私は今更だが理解した。」
媚薬を盛る時点ですでに危険人物なんですけどね。
今更、何言ってんのアンタ…。
「危険な人物だと理解して下さったなら良かったですわ。
あの危険人物をメイド長任せにしないで下さいませ。メイド長や私の言うことを、今後も素直に聞くことはないでしょうからね。
この邸に戻って来たら、伯爵様からしっかりと言って聞かせるようにして下さいね。」
「そのことだが、今の時点で妊娠が確認されていないようだから、結婚して1年が経ったら離縁を願い出るつもりでいる。
私はあの狂った犯罪者の存在自体が苦痛でしかない。
何より、あの女がエレノアに危害を加えないか不安なのだ。」
へぇー…。
自分は私の離縁に応じないくせに…。随分と都合の良い考えをお持ちですこと。
この伯爵様は、あの女に離縁を願い出て、上手く離縁出来るなんて甘い考えでいるのね。
あの女こそ離縁に応じるはずがないじゃん。媚薬を盛って、全てを失ってまで伯爵様と結婚したかったのに。
この前の王家の夜会なんて、周りからボロクソ言われることなんて分かっているのに、あんなド派手なドレスを着て堂々と「私がアランの妻よ。ドヤッ!」みたいな雰囲気を出すくらいの、すごい性格の持ち主なんだからね。
そんな女が、離縁を黙って受け入れるはずがない。
「伯爵様が離縁したいと言っても、あの女が離縁に応じるとは思えませんが…。」
「簡単ではないだろうが、説得はするつもりだ。
私はあの女と早く離縁して、そして今度こそエレノアとやり直したいと思っている。」
何言ってんの?
伯爵様がアブスと離縁出来た頃には、私はすでにこの邸にはいない予定なのですがね。まだ言えないけど…。
「今までは夫婦らしいことは何も出来なかったし、夫として何もしてあげられなかったことを後悔しているんだ。
私はエレノアの誕生日を祝うことも、プレゼントを贈ることも、2人で出かけることもしなかったな…。
あの女と離縁して2人の生活に戻れたら、今まで出来なかったことを沢山したいと思っている。」
「………。」
呆れて言葉が出てこなかった。
伯爵様がアブスから誕生日を祝って欲しいだとか、ドレスを買って欲しいだとか、2人で出掛けたいとか…、色々と要求されていることはメイド長から聞いていた。
アブスに要求されたことで、今まで私に何もしてこなかったことに気付いてしまったのだろう。
だからこの人は、今更こんなことを言ってきたのね…。
頭がお花畑だった頃のエレノアは、貧乏な伯爵様に悪いと思って、物を強請ったりは全然しなかった。
誕生日も家族でお祝いするので、何も要りませんって言っていたのよね。
伯爵様も恐らくだが、両親に放っておかれて育ってきたから、誕生日を祝ってもらったり、プレゼントを贈ったり貰ったりする習慣が無かったのだと思う。
だから、お花畑のエレノアが遠慮して言ったことを鵜呑みにして、何も贈ってくれなかったのかもしれない。
でも本当はお花畑のエレノアは、庭に咲く小さな花でいいから、何か贈って貰えたら嬉しいと考えていたのよね。好きな人から贈られた物なら何でも嬉しいからと…。
そして今現在、結婚して中身がアラフォーおばちゃんになった私は、そんなことはどうでもいいと思っている。
アラフォーくらいになると、誕生日なんて全然嬉しくないからね。贈り物だって、貰ったらお返しどうしようか?ってなるし。
気の合わない人と出掛けるくらいなら、1人で出掛けた方が楽だし。
前にメイド長に、奥様の誕生日はどのように過ごしますかと聞かれたことがあったが、何もしなくていいし、伯爵様にも何も言わないで欲しいと話しておいた。
メイド長は私の言いつけを守り、伯爵様には何も言わずにいてくれたから、伯爵様は私の誕生日すら忘れていたのだと思う。
私はそれでいいと思っていた。私も伯爵様の誕生日や結婚記念日を無視できるからね。
しかしアブスに色々と言われて、今更気づいてしまったのね…。
「…エレノア?」
「伯爵様がそういうことをしたとして、喜んでくれそうなお方にしてあげるべきですわ。例えば第二夫人のあの方とか。」
「私にはエレノアだけなんだ。今まで何もしなかったことをこれから償いたい。
前にも話したが、普通の夫婦になりたいと思っている。」
もう何をしても無理なのだと、まだ分からないのね。
言いたくないけど、あのことを言っちゃう?
「無理ですわ。いくら媚薬を盛られたと言っても、他の女と情を交わした人と普通の夫婦になるなんて。
愛や信頼関係がある夫婦でしたら、許そうとか、2人で苦しみを乗り越えたいとか考えるかもしれませんが、愛も信頼関係もない私達には非常に難しいことだと思います。
伯爵様やあの第二夫人を見ると、まぐわっていたことを想像してしまって気分が悪くなりそうです。
償いなんて必要ありませんから、私と離縁して欲しいと思っています。」
伯爵様の顔が蒼白になるのが分かった。
自分でも酷いことを言っているのは分かる。
でも、貴方とはもう無理なのよ…。
「……それは出来ない。また来る。」
それだけを言って、伯爵様は部屋を出て行ってしまった。
昨日のアブスの報告にでも来たのだろうな…と思った私は、執務室に入れてあげることにした。
顔だけはいいはずの伯爵様は、今日も疲れた顔をしている。
「エレノア…。昨日はすまなかった。
あの女があそこまで狂っているとは知らなかった。
あの女がエレノアに敵意を剥き出しにしているのを見て、いかに危険な女なのかを、私は今更だが理解した。」
媚薬を盛る時点ですでに危険人物なんですけどね。
今更、何言ってんのアンタ…。
「危険な人物だと理解して下さったなら良かったですわ。
あの危険人物をメイド長任せにしないで下さいませ。メイド長や私の言うことを、今後も素直に聞くことはないでしょうからね。
この邸に戻って来たら、伯爵様からしっかりと言って聞かせるようにして下さいね。」
「そのことだが、今の時点で妊娠が確認されていないようだから、結婚して1年が経ったら離縁を願い出るつもりでいる。
私はあの狂った犯罪者の存在自体が苦痛でしかない。
何より、あの女がエレノアに危害を加えないか不安なのだ。」
へぇー…。
自分は私の離縁に応じないくせに…。随分と都合の良い考えをお持ちですこと。
この伯爵様は、あの女に離縁を願い出て、上手く離縁出来るなんて甘い考えでいるのね。
あの女こそ離縁に応じるはずがないじゃん。媚薬を盛って、全てを失ってまで伯爵様と結婚したかったのに。
この前の王家の夜会なんて、周りからボロクソ言われることなんて分かっているのに、あんなド派手なドレスを着て堂々と「私がアランの妻よ。ドヤッ!」みたいな雰囲気を出すくらいの、すごい性格の持ち主なんだからね。
そんな女が、離縁を黙って受け入れるはずがない。
「伯爵様が離縁したいと言っても、あの女が離縁に応じるとは思えませんが…。」
「簡単ではないだろうが、説得はするつもりだ。
私はあの女と早く離縁して、そして今度こそエレノアとやり直したいと思っている。」
何言ってんの?
伯爵様がアブスと離縁出来た頃には、私はすでにこの邸にはいない予定なのですがね。まだ言えないけど…。
「今までは夫婦らしいことは何も出来なかったし、夫として何もしてあげられなかったことを後悔しているんだ。
私はエレノアの誕生日を祝うことも、プレゼントを贈ることも、2人で出かけることもしなかったな…。
あの女と離縁して2人の生活に戻れたら、今まで出来なかったことを沢山したいと思っている。」
「………。」
呆れて言葉が出てこなかった。
伯爵様がアブスから誕生日を祝って欲しいだとか、ドレスを買って欲しいだとか、2人で出掛けたいとか…、色々と要求されていることはメイド長から聞いていた。
アブスに要求されたことで、今まで私に何もしてこなかったことに気付いてしまったのだろう。
だからこの人は、今更こんなことを言ってきたのね…。
頭がお花畑だった頃のエレノアは、貧乏な伯爵様に悪いと思って、物を強請ったりは全然しなかった。
誕生日も家族でお祝いするので、何も要りませんって言っていたのよね。
伯爵様も恐らくだが、両親に放っておかれて育ってきたから、誕生日を祝ってもらったり、プレゼントを贈ったり貰ったりする習慣が無かったのだと思う。
だから、お花畑のエレノアが遠慮して言ったことを鵜呑みにして、何も贈ってくれなかったのかもしれない。
でも本当はお花畑のエレノアは、庭に咲く小さな花でいいから、何か贈って貰えたら嬉しいと考えていたのよね。好きな人から贈られた物なら何でも嬉しいからと…。
そして今現在、結婚して中身がアラフォーおばちゃんになった私は、そんなことはどうでもいいと思っている。
アラフォーくらいになると、誕生日なんて全然嬉しくないからね。贈り物だって、貰ったらお返しどうしようか?ってなるし。
気の合わない人と出掛けるくらいなら、1人で出掛けた方が楽だし。
前にメイド長に、奥様の誕生日はどのように過ごしますかと聞かれたことがあったが、何もしなくていいし、伯爵様にも何も言わないで欲しいと話しておいた。
メイド長は私の言いつけを守り、伯爵様には何も言わずにいてくれたから、伯爵様は私の誕生日すら忘れていたのだと思う。
私はそれでいいと思っていた。私も伯爵様の誕生日や結婚記念日を無視できるからね。
しかしアブスに色々と言われて、今更気づいてしまったのね…。
「…エレノア?」
「伯爵様がそういうことをしたとして、喜んでくれそうなお方にしてあげるべきですわ。例えば第二夫人のあの方とか。」
「私にはエレノアだけなんだ。今まで何もしなかったことをこれから償いたい。
前にも話したが、普通の夫婦になりたいと思っている。」
もう何をしても無理なのだと、まだ分からないのね。
言いたくないけど、あのことを言っちゃう?
「無理ですわ。いくら媚薬を盛られたと言っても、他の女と情を交わした人と普通の夫婦になるなんて。
愛や信頼関係がある夫婦でしたら、許そうとか、2人で苦しみを乗り越えたいとか考えるかもしれませんが、愛も信頼関係もない私達には非常に難しいことだと思います。
伯爵様やあの第二夫人を見ると、まぐわっていたことを想像してしまって気分が悪くなりそうです。
償いなんて必要ありませんから、私と離縁して欲しいと思っています。」
伯爵様の顔が蒼白になるのが分かった。
自分でも酷いことを言っているのは分かる。
でも、貴方とはもう無理なのよ…。
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それだけを言って、伯爵様は部屋を出て行ってしまった。
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