5 / 8
p.5
しおりを挟む
しかし、それを彼女が私のためにするのだというあの物言いが、たまらなく嫌だった。いかにも、勝ち組目線で言われているようで、腹立たしい。きっと、彼女自身には露ほどもそんな考えはない。純粋に、私の幸せを願ってのことなのだろう。そうは思っても、胸に渦巻く嵐は当分収まりそうになかった。
いつから、私はあの子に対してこんな感情を抱くようになったのだろうか。以前は、恋愛脳で甘ったるい子だと思うだけで、こんなイラつきは感じなかったはずなのに。
イラつきに溺れる私を現実に引き戻したのは、インターフォンのチャイムだった。モニターを覗くと、義博が俯きがちに映っている。
「はい?」
“開けてくれ”
マイク越しに聞こえた彼の声は、どこか歪で、いつものような聞き心地の良い芯の通った響きがなかった。
「何か用? 話があるなら、どこか外で話しましょ。今、行く……」
“いいから! 開けてくれ”
私の声を遮って苛立った声がマイク越しに部屋に響く。私は仕方なくオートロックを解除した。程なくして、彼が私の部屋へやってきた。
玄関を開けると、義博は無言で靴を脱ぎ、室内へとあがる。そのままキッチンを通り抜け、寝室兼リビングのソファにどさりと体を投げだした。その振動で、先ほど投げ捨てた紙袋が、バサリと床に落ちた。
「部屋へは来ないで。いくら友達だからって、誤解されるようなことしないで」
私の非難の籠った言葉を、目を瞑ったまま聞き流した義博は、先ほどよりも苛立ちが落ち着いたのか、心地よさそうにソファに沈み込みながら、ボソリと胸の内を零す。
「やっぱり、オレはこの部屋がいいわ」
「はぁ? 何言っているのよ。この御曹司が。あんな高級マンションに住んでるくせに、こんな1Kの狭い部屋がいいとか、意味わかんないんですけど」
悪態をつく私に、気だるげに鼻から息を吐きだした義博が視線を向ける。
「来たのか?」
「まぁね。美香に呼ばれたから」
私の答えを聞いた彼は、一瞬目を瞑り、天を仰ぐような仕草を見せる。それから、大きなため息を吐き出して、目を開けた。その目は、どこか暗い色を宿しているように見えた。
「あいつ、何か言ってたか?」
義博の言葉に、私は一瞬、また苛立ちのようなものを自身の中に感じたが、それを振り払うように、無理やり明るい声を出す。
「べっつに。相変わらず、愚痴という名の、あなたの惚気話を聞かされただけよ」
それを聞いた義博は、心底嫌そうに顔を歪ませて、項垂れた。
いつから、私はあの子に対してこんな感情を抱くようになったのだろうか。以前は、恋愛脳で甘ったるい子だと思うだけで、こんなイラつきは感じなかったはずなのに。
イラつきに溺れる私を現実に引き戻したのは、インターフォンのチャイムだった。モニターを覗くと、義博が俯きがちに映っている。
「はい?」
“開けてくれ”
マイク越しに聞こえた彼の声は、どこか歪で、いつものような聞き心地の良い芯の通った響きがなかった。
「何か用? 話があるなら、どこか外で話しましょ。今、行く……」
“いいから! 開けてくれ”
私の声を遮って苛立った声がマイク越しに部屋に響く。私は仕方なくオートロックを解除した。程なくして、彼が私の部屋へやってきた。
玄関を開けると、義博は無言で靴を脱ぎ、室内へとあがる。そのままキッチンを通り抜け、寝室兼リビングのソファにどさりと体を投げだした。その振動で、先ほど投げ捨てた紙袋が、バサリと床に落ちた。
「部屋へは来ないで。いくら友達だからって、誤解されるようなことしないで」
私の非難の籠った言葉を、目を瞑ったまま聞き流した義博は、先ほどよりも苛立ちが落ち着いたのか、心地よさそうにソファに沈み込みながら、ボソリと胸の内を零す。
「やっぱり、オレはこの部屋がいいわ」
「はぁ? 何言っているのよ。この御曹司が。あんな高級マンションに住んでるくせに、こんな1Kの狭い部屋がいいとか、意味わかんないんですけど」
悪態をつく私に、気だるげに鼻から息を吐きだした義博が視線を向ける。
「来たのか?」
「まぁね。美香に呼ばれたから」
私の答えを聞いた彼は、一瞬目を瞑り、天を仰ぐような仕草を見せる。それから、大きなため息を吐き出して、目を開けた。その目は、どこか暗い色を宿しているように見えた。
「あいつ、何か言ってたか?」
義博の言葉に、私は一瞬、また苛立ちのようなものを自身の中に感じたが、それを振り払うように、無理やり明るい声を出す。
「べっつに。相変わらず、愚痴という名の、あなたの惚気話を聞かされただけよ」
それを聞いた義博は、心底嫌そうに顔を歪ませて、項垂れた。
0
あなたにおすすめの小説
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる