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格下の姫様(5)
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太郎の杞憂は吉岡家当主の良くない噂だけではなかった。太郎の聞いた話によると、千代の縁談相手は、吉岡家の若様つまり次期御当主になるのだが、これが途轍もない放蕩息子なのだ。
まだ寺子屋に通う年齢にもかかわらず、町へ繰り出しては女と遊ぶ。遊女屋にも幾度も出入りし、湯水の様に金を使い果たし豪遊の限りを尽くしているという。更にそれだけではなく、町の茶屋などでは身分を笠に着て無銭飲食を繰り返したり、取り巻きを引き連れて町中で喧嘩や騒動を起こしたりと、乱暴狼藉を繰り返していた。
そんな若様が来年には元服をするらしい。それに合わせて千代を妾にするのだと、そんな話を放蕩息子の取り巻きがわざわざ太郎の耳に入るように言いまわっていたのだ。
そんな家と縁付いても千代が不幸になるだけだと思う太郎は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、眠れぬ一夜を明かした。
翌日も悶々とした気持ちを抱えながら、太郎は井上家へ顔を出した。
太郎の目の前では、千代がいつもの様に琴の稽古をしていた。千代の細い指にはめられた琴爪が弦に擦れる度、透き通った音が屋敷の中を満たして行く。相変わらず、千代の奏でる琴の音は見事であった。琴の音に太郎が聞き惚れていると、ふと千代が顔を上げる。そして、太郎の姿を見つけるとニコリと微笑んだ。
「あら、太郎。待っていたのよ」
琴を弾く手を止めて、千代は無邪気に太郎に語り掛ける。そんな千代に太郎は複雑な表情を返した。そんな表情を見せる太郎を不思議に思ったのか、千代は首をかしげる。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
「……何でもないという顔ではないけれど? 貴方、昨日から少し変よ」
そう言って怪訝な表情で自分を見つめる千代から、太郎は思わず目を逸らす。そしてしばし逡巡した後、絞り出すように口を開いた。
「姫様……」
「ん? なあに?」
千代が間延びした声で答える。あまりにも普段通りに、それが当たり前の様に自分に向けられる千代のその声に、太郎は言いたかった言葉を飲み込んだ。
「……いえ、その……茶屋にあんみつでも食べに行きませんか?」
「茶屋? ……あの男はもう居ないかしら?」
千代は困った様な顔で言った。その表情と声音から、太郎には千代の言わんとしていることが分かった。そんな千代に太郎は精一杯微笑むと口を開く。
「大丈夫です! あの職人の見習いなら最近は屋敷の周りで見かけません。それに、今日は私がちゃんとお守りしますから!」
まだ寺子屋に通う年齢にもかかわらず、町へ繰り出しては女と遊ぶ。遊女屋にも幾度も出入りし、湯水の様に金を使い果たし豪遊の限りを尽くしているという。更にそれだけではなく、町の茶屋などでは身分を笠に着て無銭飲食を繰り返したり、取り巻きを引き連れて町中で喧嘩や騒動を起こしたりと、乱暴狼藉を繰り返していた。
そんな若様が来年には元服をするらしい。それに合わせて千代を妾にするのだと、そんな話を放蕩息子の取り巻きがわざわざ太郎の耳に入るように言いまわっていたのだ。
そんな家と縁付いても千代が不幸になるだけだと思う太郎は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、眠れぬ一夜を明かした。
翌日も悶々とした気持ちを抱えながら、太郎は井上家へ顔を出した。
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「あら、太郎。待っていたのよ」
琴を弾く手を止めて、千代は無邪気に太郎に語り掛ける。そんな千代に太郎は複雑な表情を返した。そんな表情を見せる太郎を不思議に思ったのか、千代は首をかしげる。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
「……何でもないという顔ではないけれど? 貴方、昨日から少し変よ」
そう言って怪訝な表情で自分を見つめる千代から、太郎は思わず目を逸らす。そしてしばし逡巡した後、絞り出すように口を開いた。
「姫様……」
「ん? なあに?」
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「……いえ、その……茶屋にあんみつでも食べに行きませんか?」
「茶屋? ……あの男はもう居ないかしら?」
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