49 / 140
格下の姫様(13)
しおりを挟む
「ふふ。ありがとう」
そう言って千代が微笑むと、太郎はホッと安堵したように表情を緩める。しかしそれは一瞬のこと。太郎の眼に真剣な光が宿った。
「しかし、でしたら何故あのような事を仰ったのですか? 吉岡家に嫁ぐなど」
太郎の問い詰めるような口調に、千代は視線を落とす。そして、ポツリと呟いた。
「……だって」
「はい?」
聞き取れず問い返す太郎に、千代はキッと顔を上げて睨みつける。その瞳には涙が浮かんでいた。
「だって! ああでも言って追い払わないと、旗本の言うことは流石に聞き流せないでしょ!」
「え?」
思いもよらぬ言葉に太郎は言葉を失った。そんな太郎の様子に構わず、千代は堰を切ったように話し続ける。
「わたくしだってそれくらいのことは分かっているわ。旗本の言うことは絶対ですもの。相手が格上の家である以上、わたくしの意志など関係ない。それは分かっているけど……」
「姫様……」
千代の目には大粒の涙が浮かぶ。溢れる涙をそのままに、千代は拳を固く握る。
「それでもわたくしは嫌だったの! もしも先方の家から正式に縁談を申し込まれでもしたら、お父様だって断ることは出来ないでしょう? そうなればわたくしは本当に……」
堪えきれず千代はわっと泣き出した。そんな千代の様子に太郎はオロオロとするばかり。
「確かに、正式な申し込みがされては、井上様でもその申し出をお断りすることは難しいでしょうが、でしたら何故御自分から奴に婚姻の条件など出したのです? 姫様の所望した物を手に入れて戻ってきたら、本当に姫様は奴の妾とされてしまうのですよ」
太郎は小さくため息をつく。全く訳が分からないと、頭を振る太郎のその言葉を聞いた千代は、ハッとした様子で泣き止んだ。涙で濡れたままの瞳で太郎を見つめると、ニヤリと笑う。
「ふふふ、その点なら心配無いわ」
先程までの悲しげな様子は何処へやら、千代はすっかり元気を取り戻していた。千代はコロリと表情を変えると笑い出す。
「あはは。大丈夫。そんなことにはならないから」
「大丈夫?」
あっけらかんと笑う千代に太郎は困惑するばかりだった。そんな太郎に構うことなく、千代はいつもの調子で告げる。
「だって、精力が増大する水? 子宝に恵まれる石? そんな物あるはずがないわ。少なくともわたくしは聞いたことが無いわね。あの方たちだってそうよ。皆、知らない様だったわ。そんな物を当てどころもなく探すなんて無理に決まってるもの。見つかりっこないわ」
そう言って千代が微笑むと、太郎はホッと安堵したように表情を緩める。しかしそれは一瞬のこと。太郎の眼に真剣な光が宿った。
「しかし、でしたら何故あのような事を仰ったのですか? 吉岡家に嫁ぐなど」
太郎の問い詰めるような口調に、千代は視線を落とす。そして、ポツリと呟いた。
「……だって」
「はい?」
聞き取れず問い返す太郎に、千代はキッと顔を上げて睨みつける。その瞳には涙が浮かんでいた。
「だって! ああでも言って追い払わないと、旗本の言うことは流石に聞き流せないでしょ!」
「え?」
思いもよらぬ言葉に太郎は言葉を失った。そんな太郎の様子に構わず、千代は堰を切ったように話し続ける。
「わたくしだってそれくらいのことは分かっているわ。旗本の言うことは絶対ですもの。相手が格上の家である以上、わたくしの意志など関係ない。それは分かっているけど……」
「姫様……」
千代の目には大粒の涙が浮かぶ。溢れる涙をそのままに、千代は拳を固く握る。
「それでもわたくしは嫌だったの! もしも先方の家から正式に縁談を申し込まれでもしたら、お父様だって断ることは出来ないでしょう? そうなればわたくしは本当に……」
堪えきれず千代はわっと泣き出した。そんな千代の様子に太郎はオロオロとするばかり。
「確かに、正式な申し込みがされては、井上様でもその申し出をお断りすることは難しいでしょうが、でしたら何故御自分から奴に婚姻の条件など出したのです? 姫様の所望した物を手に入れて戻ってきたら、本当に姫様は奴の妾とされてしまうのですよ」
太郎は小さくため息をつく。全く訳が分からないと、頭を振る太郎のその言葉を聞いた千代は、ハッとした様子で泣き止んだ。涙で濡れたままの瞳で太郎を見つめると、ニヤリと笑う。
「ふふふ、その点なら心配無いわ」
先程までの悲しげな様子は何処へやら、千代はすっかり元気を取り戻していた。千代はコロリと表情を変えると笑い出す。
「あはは。大丈夫。そんなことにはならないから」
「大丈夫?」
あっけらかんと笑う千代に太郎は困惑するばかりだった。そんな太郎に構うことなく、千代はいつもの調子で告げる。
「だって、精力が増大する水? 子宝に恵まれる石? そんな物あるはずがないわ。少なくともわたくしは聞いたことが無いわね。あの方たちだってそうよ。皆、知らない様だったわ。そんな物を当てどころもなく探すなんて無理に決まってるもの。見つかりっこないわ」
1
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる