60 / 140
旗本の姫様(4)
しおりを挟む
太郎は濡れ鼠を客間に運び込むと、志乃の言いつけ通りすぐに風呂へ向かって行った。
残された千代と志乃は、濡れ鼠の着物を脱がせにかかった。太郎は軽々と抱えていたが、やはり意識のない人間は重いもの。二人は悪戦苦闘しながらも何とか濡れた着物を脱がせた。そして、思わず顔を見合わせる。
「まぁ……」
「女子……」
二人は濡れ鼠の姿を見て、思わず声を上げた。固く巻かれた晒がその下の膨らみを隠していることはすぐに分かった。しかし、濡れ鼠の身なりは武家の子息そのもの。
「お母様……この方は一体?」
「さぁ、見るからにご事情がお有りの様だけれど、今はとにかく冷え切ったこのお身体を温めないと」
二人は困惑しつつも、それぞれ行動を開始したのだった。
志乃は濡れた晒を慎重に解いていく。痩せてはいたが、女性らしい柔らかそうな曲線を持つ身体だった。年の頃は十六、七だろうか。まだ大人になりきっていない清らかな裸体は、傷一つなく、透き通るように白く美しかった。固く巻かれた晒がきつかったのか、晒を解くと苦しそうだった表情が少しだけ穏やかになった。
志乃はお湯に浸した手拭いで身体を拭いてやり、千代は濡れた髪を丁寧に梳き、椿油で髪を整えた。
「それにしても、美しい方ですわね」
千代は髪を梳きながら、眠っている濡れ鼠の顔をじっくりと見る。確かに女性にしては少々凜々しくもあったが、とても整った顔立ちをしていた。
「お肌もお綺麗ですから、どこかの姫君かもしれませんね」
「そのような方が何故我が家の門前に……」
「さて、それは分かりませんが、今はとりあえず着る物を。殿方かと思っていたのですけれど、女子の様ですし、とりあえず貴女の着物を着せて差し上げなさい」
母の指示で千代は立ち上がる。しばらくして何枚かの着物を手に戻ってきた。その間に志乃は濡れた身体を隅々まで拭いてやっていた。
それから二人はせっせとその身体に乾いた着物を纏わせる。
「これで少しは温まるでしょうか」
千代は心配そうに濡れ鼠の顔をのぞき込む。身体を締め付けるものが無くなったためか、先ほどより表情は険しくないが、それでも顔色はまだ悪く呼吸も浅い。とても良い状態とは言えそうにはなかった。
「しばらく様子を見ましょう。念の為、町医者に来てもらうよう使いを出しておきましょうか」
テキパキと動き指示を出すその様はいつもの母であり、その様子に千代は先刻の様子を思い出しつつも、ほっと安堵の息を漏らした。
残された千代と志乃は、濡れ鼠の着物を脱がせにかかった。太郎は軽々と抱えていたが、やはり意識のない人間は重いもの。二人は悪戦苦闘しながらも何とか濡れた着物を脱がせた。そして、思わず顔を見合わせる。
「まぁ……」
「女子……」
二人は濡れ鼠の姿を見て、思わず声を上げた。固く巻かれた晒がその下の膨らみを隠していることはすぐに分かった。しかし、濡れ鼠の身なりは武家の子息そのもの。
「お母様……この方は一体?」
「さぁ、見るからにご事情がお有りの様だけれど、今はとにかく冷え切ったこのお身体を温めないと」
二人は困惑しつつも、それぞれ行動を開始したのだった。
志乃は濡れた晒を慎重に解いていく。痩せてはいたが、女性らしい柔らかそうな曲線を持つ身体だった。年の頃は十六、七だろうか。まだ大人になりきっていない清らかな裸体は、傷一つなく、透き通るように白く美しかった。固く巻かれた晒がきつかったのか、晒を解くと苦しそうだった表情が少しだけ穏やかになった。
志乃はお湯に浸した手拭いで身体を拭いてやり、千代は濡れた髪を丁寧に梳き、椿油で髪を整えた。
「それにしても、美しい方ですわね」
千代は髪を梳きながら、眠っている濡れ鼠の顔をじっくりと見る。確かに女性にしては少々凜々しくもあったが、とても整った顔立ちをしていた。
「お肌もお綺麗ですから、どこかの姫君かもしれませんね」
「そのような方が何故我が家の門前に……」
「さて、それは分かりませんが、今はとりあえず着る物を。殿方かと思っていたのですけれど、女子の様ですし、とりあえず貴女の着物を着せて差し上げなさい」
母の指示で千代は立ち上がる。しばらくして何枚かの着物を手に戻ってきた。その間に志乃は濡れた身体を隅々まで拭いてやっていた。
それから二人はせっせとその身体に乾いた着物を纏わせる。
「これで少しは温まるでしょうか」
千代は心配そうに濡れ鼠の顔をのぞき込む。身体を締め付けるものが無くなったためか、先ほどより表情は険しくないが、それでも顔色はまだ悪く呼吸も浅い。とても良い状態とは言えそうにはなかった。
「しばらく様子を見ましょう。念の為、町医者に来てもらうよう使いを出しておきましょうか」
テキパキと動き指示を出すその様はいつもの母であり、その様子に千代は先刻の様子を思い出しつつも、ほっと安堵の息を漏らした。
1
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる