67 / 92
4.とうもろこし色のヒカリの中で
p.67
しおりを挟む
そんな気がした。
「……美味しい」
思わず口をついて出た僕の言葉に、母は微笑む。
「あら? おしゃべりしすぎて喉が乾いていたの? って、喋りすぎは私か」
母は、自分の言葉に自分でツッコミを入れて、ケラケラと笑っている。
「……いえ」
僕は、何に対しての否定か分からない言葉を発しつつ、中身がなくなり本来の透明な色に戻ったグラスを、テーブルへ戻す。すると、母がすっと手を出してきた。
「……え?」
「貸して。もう一杯持ってくるわ」
「すみません」
「いいのよ。気にしないで。それから、こう言う時は『ありがとう』って言った方がいいわよ。恐縮されるより、感謝される方が嬉しいもの」
どこかで言われた耳に残っている助言に僕はハッとなる。視界の端でソファに座る小鬼がピョコンと背筋を伸ばしたのを感じた。
「あの……ありがとうございます」
テッテレ~~
クリアを知らせるメロディが鳴り響く。
母の助言のおかげで、本日分の『ありがとう』を言うことができた。残すは、母に『ありがとう』と言ってもらうのみ。
しかしこの僕が、母に一体どんな事ができるだろうか。
ヒントを求めてソファで待機している二人へ視線を向ける。事務官小野は相変わらずの無表情で腕を組んで座っているだけで、何もヒントをくれそうにない。
事務官の横で、楽しそうにチョコンと座っている小鬼は、僕の視線に気がついて両手をグッと握り込み、全力ガッツポーズで僕にエールを送ってきた。
小鬼の応援は嬉しいけれど、母を攻略するヒントが欲しい。
僕は、苦笑いをしつつ視線を戻す。
「はい。お待たせ」
目の前に、黄金色をしたオクスス茶がなみなみと入っているグラスが置かれ、母は自分の定位置へと腰掛ける。
「あの……」
何を話せば良いか分からなかったが、自然と言葉が口をついて出た。
「先程の話、違うと思います」
「えっ?」
母は、唐突に話し出した僕に向かって首を傾げる。
「先程の……、シュークリームを勝手に食べてしまったので、息子さんを叱った件です」
「ああ、アレね」
「きっと、息子さんは、気にしていないと思います」
「そうかしら?」
「はい。だってその話、小さい頃のことなんですよね? たぶん、本人は覚えていないと思います」
「でも……だったら、どうしてあの子は、私たち家族にも胸の内を見せてくれなくなってしまったのかしら?」
母は困惑気味に顔を顰める。原因が思い浮かばない。そんな顔をしている。
それはそうだろう。母に否はないのだから。
「……美味しい」
思わず口をついて出た僕の言葉に、母は微笑む。
「あら? おしゃべりしすぎて喉が乾いていたの? って、喋りすぎは私か」
母は、自分の言葉に自分でツッコミを入れて、ケラケラと笑っている。
「……いえ」
僕は、何に対しての否定か分からない言葉を発しつつ、中身がなくなり本来の透明な色に戻ったグラスを、テーブルへ戻す。すると、母がすっと手を出してきた。
「……え?」
「貸して。もう一杯持ってくるわ」
「すみません」
「いいのよ。気にしないで。それから、こう言う時は『ありがとう』って言った方がいいわよ。恐縮されるより、感謝される方が嬉しいもの」
どこかで言われた耳に残っている助言に僕はハッとなる。視界の端でソファに座る小鬼がピョコンと背筋を伸ばしたのを感じた。
「あの……ありがとうございます」
テッテレ~~
クリアを知らせるメロディが鳴り響く。
母の助言のおかげで、本日分の『ありがとう』を言うことができた。残すは、母に『ありがとう』と言ってもらうのみ。
しかしこの僕が、母に一体どんな事ができるだろうか。
ヒントを求めてソファで待機している二人へ視線を向ける。事務官小野は相変わらずの無表情で腕を組んで座っているだけで、何もヒントをくれそうにない。
事務官の横で、楽しそうにチョコンと座っている小鬼は、僕の視線に気がついて両手をグッと握り込み、全力ガッツポーズで僕にエールを送ってきた。
小鬼の応援は嬉しいけれど、母を攻略するヒントが欲しい。
僕は、苦笑いをしつつ視線を戻す。
「はい。お待たせ」
目の前に、黄金色をしたオクスス茶がなみなみと入っているグラスが置かれ、母は自分の定位置へと腰掛ける。
「あの……」
何を話せば良いか分からなかったが、自然と言葉が口をついて出た。
「先程の話、違うと思います」
「えっ?」
母は、唐突に話し出した僕に向かって首を傾げる。
「先程の……、シュークリームを勝手に食べてしまったので、息子さんを叱った件です」
「ああ、アレね」
「きっと、息子さんは、気にしていないと思います」
「そうかしら?」
「はい。だってその話、小さい頃のことなんですよね? たぶん、本人は覚えていないと思います」
「でも……だったら、どうしてあの子は、私たち家族にも胸の内を見せてくれなくなってしまったのかしら?」
母は困惑気味に顔を顰める。原因が思い浮かばない。そんな顔をしている。
それはそうだろう。母に否はないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる