冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

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4.とうもろこし色のヒカリの中で

p.68

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 僕は目の前のグラスを手に取ると、一口啜る。そうして、喉を潤してから言葉を続けた。

「それは……あなた方ご家族に甘えていたからです」
「どういうこと? 息子は全然我儘なんて言わないわよ。我儘どころか何も言わないわ……」

 母は悲しそうに眼を伏せる。

 僕の知らないところで母はこんな顔をして僕のことを気に病んでいたのかと思うと、胸が痛くなる。

(ごめんね。母さん。今から、僕の胸の内を話すよ)

 僕は、そう胸の内で母に謝ってから口を開いた。

「何も言わない。それこそが甘えです。人は自分で行動を起こし、自分から気持ちを口にしなければ相手との意思疎通は図れません。それなのに、人見知りを理由に自分の殻に閉じこもり、自分からは何も行動せず、そのくせ相手には気づいてほしい、分ってほしいと望むのは我儘でしょう」

 僕の言葉に、母は伏せていた眼を上げ僕を見る。

「ずいぶんと手厳しい意見ね」
「そうでしょうか? 僕は、ようやくそのことに気が付いたのです。相手に甘えること、自分の言葉で相手に思いを伝えることの大切さを。それをしないがために、相手とすれ違ってしまうということに。それができるのはその時だけなんです。どんなに悔やんでも、過ぎてしまった時間は戻せない。あの時本当はああして欲しかったのにと、後から思っても不満は胸の中にくすぶり続け解消はされない。溜まっていく一方だ。それよりも、例えそれが自分に都合の良すぎる甘えた言い分だったとしても、思いを口に出して相手と共有や衝突をした方が、きっと胸の中に不満は残らない。そうしていれば、きっとあなたもここまで息子さんのことを気に病むことはなかったはず」

 一息に胸の内の言葉を吐き出した僕は、そこで一旦言葉を区切ると、お茶で口を潤す。その隙に母が少しきつい口調で詰め寄ってきた。

「それは、あなたが自分の意見をしっかりと言えるからこその意見でしょ!」

 僕は、無言で母を見つめる。 

「うちの子は人見知りなの。みんながみんな、あなたのように意見が言える人ばかりではないわ。もっと周りがあの子の気持ちを察してあげられれば……」

 母は勘違いしている。

 気持ちを察してあげる。その言葉を、その行動を、今までの僕は周りの人に期待していた。でも、それが叶えられることは少ない。特に僕のような天邪鬼な心の中を察することなど、難しい。現に、本人である僕ですら自分の気持ちがきちんと分っていなかったのだから。

 では、どうするべきか。
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