推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣人だもの。……気になるでしょ。(10)

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 何人ものダンサーが自己主張するようにステージ上で飛んだり跳ねたり、ステップを踏んだり。その中に、格段に動きにキレのある人を見つけた。

 あの人だっ!

 直感でそう思った。スラッとしていて、しなやかで無駄のない動き。先ほど見たダンサーの動きそのものだった。私はその人を目で追う。樹のステージの時よりは舞台が明るいので、その姿を追うことはできる。私は必死に画面を追うけれど、それを阻むようにすぐにカメラの視界が外れてしまう。

 あぁ……。もっとはっきり顔が見たいのに……! ちゃんと映して。

 そもそも彼はバックダンサーなので、ズームアップされることなどありえない。それなのに私は必死に念を送る。そんな私の思いが届いたように、目当ての人物が蓮の傍へと移動した。

 チャンスだっ! 蓮の近くならカメラに映るはず。

 そう思ったのに、最大の刺客に私の出鼻は挫かれた。アングル的にしっかり蓮の陰に入ってしまい、彼の姿を捉えきれない。

 もう! 蓮、どうして今、カメラに寄るのっ!

 推しのアップに、 私は心の中で悪態をつく。せっかくあのダンサーを間近で確認できるチャンスだったのに。蓮が邪魔だと思ってしまった。いつもの私なら、推しのアップなんて発狂する場面なのに。

 もどかしい思いで画面を見つめていたら、いつの間にか蓮のソロ曲が終わりを迎えていた。バックダンサーである彼は、私にその素顔を確認させることなく、曲の終了とともにステージから捌けていった。

「も~蓮……」

 私は天を仰いだ。落胆する私をよそに、画面の中では、涼×優磨のコンビがステージに立っている。どうやら次は二人のユニット曲のようだ。彼らのバックダンサーは事務所の研究生の子たちが務めることが多い。この曲であの人が出てくることはないだろう。

 私は、もうすっかりあのダンサーのことが頭から離れなくなってしまっていた。あまり期待せず、ライブに目を向ける。だけど、案の定あのダンサーは舞台に出てこなかった。

 Scorpioスコルピオのライブではいつも、グループ曲、ソロ曲、ユニット曲、そしてグループ曲という構成で、二時間半のライブが繰り広げられる。それを把握している私は、次の出番は蓮×樹かと無意識に考え、はたと気がついた。あのダンサーは、樹のソロと蓮のソロでバックを務めていたのだ。今日のライブで、涼と優磨のステージにはついていない。

 だとしたら、次の曲には出てくるかも……。

 そんな期待を胸に、私は画面に注目する。
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