推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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ぶっ飛ばしたいほど尊い推し(4)

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 私の頭の中は疑問符でいっぱいになる。

 口をパクパクとするばかりで音にならない私の言葉をしっかりと拾った成瀬さんが、苦笑気味に口を開いた。

「えっと。石川さんは知ってると思うけど、こいつ、影山蓮」

 知ってるも何も……。

 私はその言葉に、コクコクと首を縦に振って答えた。成瀬さんの言葉に無言で反応している私を、蓮の切れ長な目が捉えている。物珍しそうに私を眺める蓮の視線が、私の首元で止まった。そして、すぐにふっと微笑む。

 うわっ、蓮だ。
 
 その笑顔を見た瞬間、私の脳が沸騰した。いつも画面越しに見ていた笑顔がそこにある。ぽぉっと見惚れてばかりで反応の悪い私に呆れたのか、蓮は成瀬さんに質問をした。

「誰?」
「……お隣さん」

 成瀬さんは、少しぶっきらぼうに蓮の問いに答える。その様子を、私は沸騰した頭で懸命に理解しようとしていた。

 すると、そんな私の脳を更に溶かすかのように、蓮の切れ長な目が再び私を捕らえる。ビクリとして固まると、蓮がクスクスと笑う。その笑顔に、私はまた見惚れてしまう。

 ……あぁ、蓮だ。本物の蓮が目の前にいる。

 蓮はタバコを片手に、ベランダの手摺りにもたれるように体重を預けている。いつもの熱血な様子はなく、少し気怠げな雰囲気だ。

 蓮が私を見ている。この距離に蓮がいる。

 その事実だけで、私は天にも昇る心地だった。そんな心ここに在らずの私に向かって、蓮の薄い唇がゆっくりと開かれた。

「それ、こないだのライブのだよな?」

 蓮の視線の先には、私の首元に光るネックレスがある。私は慌てて頷いた。

「赤ってことは、俺のファン?」

 私は首を縦に振るのが精一杯だ。興奮しすぎて、もう頭の中の思考回路はショートしていた。そんな私に向かって蓮は薄く笑う。

「名前は?」

 名前? ……あ、そうか。まだまともに挨拶をしていなかった。

 私は慌てて自己紹介をする。しかし、緊張で声が上擦ってしまった。そんな私を蓮は、面白がるでもなく、ただじっと見つめてくる。

 あぁ、どうしよう。……生蓮は画面越しとは比べ物にならないほど殺傷力が高い。

 不自然な笑みを貼り付けたまま固まっている私に向けて、不意に蓮が手招きをした。私は誘われるままに隣宅へと身を寄せる。必然的にベランダから身を乗り出すような格好になり、ネックレスがシャラリと揺れた。

 私のネックレスに蓮の手が伸びる。咥えタバコをした、妙に色っぽい蓮の顔が近づいてくる。私は思わず息を飲んだ。

 ……近い! 近いよ!!
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