推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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ぶっ飛ばしたいほど尊い推し(14)

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 成瀬さんの前髪が風に靡く。どこか遠くを見つめる彼は、寂しげに見えた。

「入所時期が近くて、いつも同じように現場に呼ばれていた俺たちは、いつか同じグループでデビューするんだと、なんとなくそういう空気になってたんだ」

 成瀬さんは、蓮に視線を向ける。蓮はその視線から逃れるように、ふいと顔を逸らした。蓮は何も言わない。どこか気まずそうな空気。

 私が何か言わなければと口を開きかけた。しかし、上手く言葉にならない。そんな私の様子を見て、成瀬さんはふわりと笑った。その笑みはいつもより少し弱々しい。

「まぁ、実際は石川さんが知っている通りなんだけどね」

 本人は軽く言ったつもりだろう。だが、その口調はやはり重い。

 三人で目指していた目標から一人取り残された成瀬さんの心中を思うと、胸が締め付けられる。気の利いた言葉の1つも思い浮かばない自分が情けなかった。俯く私を見て、成瀬さんは困ったように笑う。

「ごめんね。変な空気になっちゃったね。つまり、何が言いたかったかって言うと、蓮が樹の脱退を含む今回の件を知ったのは、その頃って話」

 成瀬さんの言葉に、私は蓮に視線を向ける。彼は相変わらず視線を逸らしたままだ。その横顔は敢えて無関心を装っているようにも見える。

「そんなに前から知ってたんだ。ライブの時だってみんな楽しそうで、そんな素振りこれっぽっちも見せなかったのに」

 私が言うと、蓮はふっと小さく息を漏らした。

「見せたらダメだろ。あの場で言える話でもないしな。でも、みんな内心焦ってたんだぜ。あの日、妙な噂が流れてたから」

 妙な噂とは、オーラスの日最終日に流れていたSNSのことだろう。私はあの日のことを思い出す。

 ネットは随分と騒然としていた。それを知ったメンバーたちはどんな気持ちでいたのだろうか。

「正直、ボロが出ないかみんな気が気じゃなかったと思う。少なくとも俺はそうだった。めちゃくちゃ気を張ってた」

 そんな蓮の告白に私は目を丸くした。

 だって、私の目にはいつもと変わらない蓮に見えたから。

 そう言うと、蓮はふっと笑う。

「せっかくのライブなんだ。ファンには、思う存分楽しんでもらいたい。いつも通りの俺を、いや、いつも以上の俺を見せる場所だろ。ライブは。……とか言ってるけど、元はと言えば、ツアーが始まった当初、俺らの間がギクシャクしてたのが原因なんだよな。噂になったのは。そんなことを悟らせるなんて、プロ失格だよ」

 蓮が自嘲気味に笑った。
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