推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣にいるために(5)

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「それは全然……。あ、いや~全然ってことはないんですけど。スッピンだし、あんまり見せられないなぁと。だけど、怒ってなんか……。そういうことじゃなくて」

 私は慌てて言葉を返す。成瀬さんが私のことを気にしていたなんて、思ってもみなかった。私は現実と向き合うのが怖くて、勝手に傷ついて、一人で勝手に落ち込んでいただけ。成瀬さんは何も悪くないのに。

「じゃあ、顔見せてよ? 俺、石川さんに話さなきゃいけないことがあるんだ」

 成瀬さんの声はしきり壁のすぐ向こうから聞こえる。私は思わずしきり壁に手を当てる。

 この壁が消えて欲しい。でも、このままでいたい。……一体私は、どうしたいの?

 自分の感情に整理がつかないまま、私は成瀬さんの声に誘われるように恐る恐るしきり壁越しに顔を覗かせた。そして、成瀬さんの顔を確認した瞬間、胸が詰まった。そこにあったのは、泣きそうな笑顔。

 自分がさせている表情だと思ったら、息ができなくなった。

 何か話さなきゃ。そう思うけど、何を話したらいいのかわからない。

 出てこない言葉の代わりに、ぎこちない笑みを向ける。そんな私を見て、成瀬さんは困ったように眉を下げた。そしてゆっくりと口を開く。

「そんな顔しないでよ……って、俺がさせてるのか……」

 その言葉に、私は無言のままフルフルと首を横に振る。成瀬さんは、そんな私を見てまた小さく笑った。そして、ゆっくりと話し始める。

「無神経を承知で言うけど、本当は眠れなかったんだよね。俺のせいで」

 その言葉に私は小さく息を飲む。成瀬さんはそんな私の表情を見て、また少し困ったように笑う。

「君の気持ちをわかっていながら、俺は……。俺、石川さんに嫌われてしまうかもしれないって、そんなことばかり考えてて。なかなか言い出せなかったんだ……」

 成瀬さんはそこで言葉を切ると、一度深く息を吐いた。いつもよりも少し早口でどこか緊張しているみたい。それは見ていてわかるのだが、話の意図はさっぱりわからない。

 私の気持ちをわかっていながら? まさか、私の気持ちなんて全部お見通しだったっていうこと? でもじゃあ、私に嫌われてしまうっていうのはどういう意味?

 私の頭の中は、ただただクエスチョンマークで埋め尽くされる。目を見つめながら話されると胸が詰まってしまうから、私はなるべく成瀬さんの顔を見ないように遠くの景色に視線を移した。そんな私の身勝手な行動に、成瀬さんが項垂れたのが目の端に映った。
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