推しと清く正しい逢瀬（デート）生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

好きだからこそ……(７)

　誰かの発した言葉に便乗はしたくない。だけど、私も同意見だった。

　二人が並んでアイドルスマイル全開の笑みをこちらに向けてくる雑誌記事を、私はもう何度読み返しただろう。記事を読むたびに、私は幸せな気持ちになる。そして、同時にチクリと胸が痛む。蓋をしたはずの想いが、少しだけ顔をのぞかせる。

　……一気に遠い人になっちゃったな。

　私は今日も雑誌記事をお供に、ベランダでチビチビ麦茶を飲む。初めてのベランダ飲み会から、もうすぐ一年。飲み会メンバーのお隣さんは、今日も留守だ。

　静かすぎる隣室は、もしかしたら、もう誰も住んでいないのでは？　と思ってしまうほどに、いつも無音。

　本当は、私の知らないうちに引っ越してしまったのかもしれない。

　ファンが隣の部屋に住んでいるなんて、事務所が難色を示したのかもしれない。

　アイドルは万が一のことを考えて、セキュリティ万全の部屋に住むものだろうし。

　そう考えるたびに、胸が締め付けられる。でも、そんな思いに気づかないふりをして、私は今日もベランダで一人飲み会。

　グラスから麦茶の雫がポタリと落ちた。

　ベランダ飲みって、こんなにもつまらなかったっけ？

　私は手摺りにもたれて、盛大にため息をこぼした。

　最近はScorpioスコルピオも成瀬さんのグループもものすごい稼動量なので、ヲタクの私も忙しい。精力的に推し事をしているのに、気持ちが晴れないのはなぜだろう。

　再びため息が落ちる。

　……成瀬さんに会いたいな。

　ふと、そんな思いが頭をよぎった。でもすぐに、いやいやと首を振る。

　彼は今やアイドルだ。気軽に会える相手ではなくなったのだ。推しは遠くから見守るもの。私は自分にそう言い聞かせて、グラスに残った麦茶を飲み干した。

　その時、スマホが短い通知音を鳴らす。画面を確認すれば、それは公式からのお知らせだった。

“ついにグループ名が決定！”

　そんな一文の添えられた動画。その動画を再生した瞬間、笑顔全開の成瀬さんたちが画面の中に現れる。

　成瀬さんは相変わらずの爽やかな笑顔。満面の笑顔で、まずは、自分たちだけの動画チャンネルがこのほど開設されたと報告。

「記念すべき1回目の配信に合わせて、ようやく俺たちのグループ名が決定しました～」

　進行を務める成瀬さんに、他のメンバーから、「いや、遅いだろ」と口々にツッコミが入る。

「まぁ、俺たちは突然のグループ結成となったので、大人の事情が色々とあったのですよ。ここでは何とはあえて言いませんが」