推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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番外編 きみに、心ほどかれ(1)

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 ーーあの日のことを、今でもふと思い出す。

 これは、数年前まだ俺が中途半端に立ち止まったままだった頃の話だ。


 演劇の仕事は嫌いではなかったけれど、すごくやりたいことでもなかった。どちらかと言えば、歌とダンスの方が好きだった。それは、アイドルを目指していた頃から。

 ……まぁ色々あって、結局その夢は叶わなかった。俺の実力が足りなかったからだと言えばそれまでだが、正直悔しかったし、すごく落ち込んでいた。

 だって、そうだろう。同期の蓮と樹と俺の三人でグループデビューをするんだとか言っていたくせに、俺だけそのレールに乗れなかったのだから。

 蓮と樹は同じグループでアイドルとしてデビューした。一人残された俺はというと、あいつらと同じ芸能事務所に籍を置きながら、俳優業を細々と続ける、世間にほとんど名も知られていない役者。そんな存在だった。

 正直焦っていた。舞台の仕事は細々とはいえある。だけど、俺は一体いつまでこのままなのか。口に出して言わなかったけれど、あの頃の本音はそれだった。

 俺だけの、俺のための歌とダンスを思いっきり踊ってみたい。歓声を浴びたい。そんな想いがずっと心の奥底にあった。

 俺の夢を軽々と叶えていったあいつらが眩しくて眩しくて。俺はあいつらから目を背けた。

 そんな俺の態度に樹は気づいていたと思う。あいつはもともと、馴れ合うタイプではなかったけれど、俺が避けているのを察してか、樹からの連絡は一切なくなった。

 それはそれで寂しかったけれど、俺は心のどこかでほっとしていた。樹はただでさえ、歌もダンスも上手い。これ以上差を見せつけられたくなかった。そんな俺は樹とは距離を置くことで、なんとか平静を保っていた。

 問題は、蓮だった。根っからの熱血キャラで、暑苦しいあいつ。俺がわざと距離を置いているというのに、それに気がつかないのか、いつも俺に発破をかけてきた。

 お前はこんなところで終わる男じゃないだろう? くすぶってる場合じゃないだろ! と。そして、いつも俺にライブのチケットを送ってきていた。自分たちの頑張りを見てほしいと。

 正直、俺はうんざりだった。蓮の顔を見たくなくて、何ヶ月も家を空けることになる地方公演の仕事をわざわざ選んだりもした。

 それなのに送られてくるライブのチケットは、公演の合間でも来られるようにと、いつも俺が出演中の劇場に近い会場のものだった。

 俺は、あいつに仕事の予定を話さなくなっていたというのに。
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