推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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再会 ×(偶然)³ +きゅん= ゼロ距離って、合ってます?(8)

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 顔を上げると、成瀬さんが真っ直ぐにこちらを見ていた。

「俺はスコッコじゃないです。でも、石川さんがScorpioスコルピオの話をしたいなら、遠慮しないで思う存分話してくれていいんですよ」
「いえ……。私は、そんな……」

 私は両手を顔の前で振り、慌てて否定をする。しかし、その手は成瀬さんによって掴まれた。私は思わず息を飲む。私を見つめる成瀬さんの目は真剣だった。

「スコッコって、Scorpioファンのファンネームですよね? 俺の中では、石川さんがスコッコであることは、もう確定しているんです。なのに何をそんなに必死に隠しているんですか? もし、そういう態度をファンの子が取っているってScorpioのメンバーが知ったら、傷つきますよ。俺たちのファンであることは、隠さなきゃいけないようなことなのかって」

 成瀬さんの瞳に一瞬寂しそうな色が滲んだように見えた。そして、彼はすぐにハッとして私の手を離すと、慌てた様子で頭を下げる。

「す、すみません。俺、思わず……。手、痛くないですか?」

 成瀬さんのあまりの慌てぶりに、私は思わず吹き出す。彼は気まずそうに視線を彷徨わせていたが、私の笑い声に釣られて照れ笑いを浮かべた。私達はどちらからともなく歩みを再開させた。

「……あの、ごめんなさい。私、本当は結構強火の影山担です」

 そうボソリと呟くと、成瀬さんは少し驚いた顔をしてから、すぐに笑顔になる。

「強火って……。あはは。うん。そっか。……えっと、なんて言うんだっけ? ああ、ガチ恋ってやつ?」

 私は緊張で震える手をぎゅっと握りしめて口を開く。

「かなり本気で推してますが、ガチ恋……ではないです。さすがにもういい歳なので、夢と現実の区別くらいは」
「いい歳って。アイドルに夢中になるのも、恋愛するのも、歳なんて関係ないと思うけどな」

 これほど肯定的な言葉をこれまでもらったことがない。それは単純に嬉しかった。でも、これまでの人たちと反応が違いすぎて、これはこれでなんだかやりづらい。成瀬さんの明るい声に、私は思わず苦笑する。

 成瀬さんは私の反応に少し首を傾げたけれど、それ以上深く追及してくることはなかった。

「さっき、成瀬さんに言われてハッとしました。推しの話になると、どうしても周りと熱量が違ってしまって、変な空気になるんです。だから、これまでは気をつけていたんです。……でも、Scorpioのみんなは隠さなきゃいけないような存在じゃないです!」
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