クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
107 / 155

むかし歩いた道(2)

しおりを挟む
 シロ先輩の問い掛けに、私は一瞬迷う。まさか、思い出に浸りに来たとは、何だかセンチメンタルに浸っているようで恥ずかしくて言えない。どうしようかと考えあぐねた末、私は、無難な言葉を返すことにした。

「私の実家、この近くなんですよ。暇つぶしに散歩してたら、ちょっと考え事をしてしまって……。気づいたらここに着いてました」

 私の答えを聞いたシロ先輩は、何故か驚いた顔をする。しかしすぐにフッと笑った。シロ先輩の反応の意味がわからず戸惑っている私の頭にポンッと手を置くと、シロ先輩は歩き出す。

「俺も付き合ってやるよ。その暇つぶし。まだ時間あるんだろ?」

 シロ先輩は、そのまま私の返事を待たずにズンズンと前を進んでいく。私は慌てて後を追いかけた。

「どこへ行くんですか?」

 私の問い掛けに、シロ先輩はチラッとこちらを振り返る。そしてニヤリと笑って言った。

「神社にいるんだ。まずはお参りだろ」

 シロ先輩は私の答えも聞かずに、神社の境内へと続く階段を上っていく。私は急いでその後を追った。

 境内には誰もいなかった。静まりかえった空気の中、私たちは賽銭箱の前に立つと、それぞれ五円玉を取り出し、投げ入れる。パンッと柏手を叩くと、目を閉じた。

 目を開けた私は、隣に立っているはずのシロ先輩の姿がないことに気づいてハッとする。キョロキョロと周りを見回せば、少し離れたところでぼんやりと空を見上げていた。

 私は小走りでそちらへ向かう。少し息を切らしながら駆け寄った私を見て、シロ先輩は苦笑いを浮かべる。

「今日は休みなんだ。そんなに急がなくてもいいだろ?」
「だって、置いて行かれたと思って……」

 私がそう言えば、「バーカ」と言って頭をクシャクシャと撫でられる。私はムッとして口を尖らせた。

「もう、またそうやって髪を乱す! 」

 私の機嫌が悪くなったことに気づいたのか、シロ先輩はバツが悪そうな顔をすると、パッと頭から手を離した。私は乱れた髪を整える。その様子を見ていたシロ先輩は、「悪りぃ」と口の中で小さく謝った。

 シュンとしてしまったシロ先輩の様子に、私は思わずクスッと笑う。途端に、シロ先輩の眉間にシワが寄る。

「何だよ」

 不貞腐れたように言われて、今度は堪えきれずに声を出して笑ってしまった。ますます不満げな表情を見せるシロ先輩。私は慌てて弁明をする。

「いえ、何でもないです。いいですか、シロ先輩。昨日も言ったけど、頭に手を置くときは、ポンポンですよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子だって、姫なのです!

田古みゆう
歴史・時代
「お前の目の色は、どう見たって俺たちとは違うだろうが!」 「ちょっと青みがかっているだけじゃない!」 青い瞳を持つ少女・千代は、江戸の町で育てられた“拾われ子”。見目麗しきその姿は噂と好奇の的となる。 だが、千代はおとなしく見せ物になったりはしない。 勝気で真っ直ぐな性格の千代は、今日も不埒な男どもを口八丁手八丁でバッサリ切って捨てる――。 だが、そんな千代の胸の奥には、ずっとくすぶる疑問がある。 「私は、一体どこの誰なのか?」 唯一同じ青眼を持つ太郎は、何かを知っているようだが、語らない。そして運命は、やがて千代の“過去”と“選択”を試す時を連れてくる。 「恋より先に、本当の自分自身を選びます!」 痛快×成長×謎めく江戸求婚譚。 これよりはじまりはじまり〜♪ ※「エブリスタ」ほか投稿サイトでも、同タイトルを公開中です。 ※表紙画像及び挿絵は、フリー素材及びAI生成画像を加工使用しています。 ※本作品は、プロットやアイディア出し等に、補助的にAIを使用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...