クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
112 / 155

むかし歩いた道(7)

しおりを挟む
 母の意味深な発言に、私とシロ先輩は互いに顔を見合わせる。母はコホンと咳払いをして、何とかその場を仕切り直そうとした。しかし、私がジトッと見つめると、観念したように母はポツリポツリと話し始めた。

 曰く、シロ先輩は、私のお見合い相手だったと。

「はぁ!?」

 思わず大きな声を出してしまった私は、慌てて口を塞ぐ。シロ先輩も驚いたようで固まっていた。そんな私たちを見て、初めは真面目な顔をしていた母だったが、次第にクツクツと笑い出した。私はキッと母を睨む。それに気づいた母は、すぐに笑いを引っ込めた。そして、少し真面目な表情で言う。

「ほら、いつだったか、あなたに、お母さんの知り合いの息子さんに会ってみないかって聞いたことがあったじゃない」

 そう言えば、以前にそのような話をされたことがあったと思い出す。その時、私は母の話を何も聞かずに断っていた。

「まさか、あの時の相手がシロ先輩だったっていうの?!」

 信じられない気持ちでシロ先輩を見る。シロ先輩はバツの悪そうな顔をしながら、首を横に振った。自分は何も知らないと言いたいのだろう。

「一体、どういうこと? どうして今まで黙って……」

 言いたいことが溢れてきて、うまく言葉にならない。それでも、なんとか言葉を吐き出し、母に説明を求めた。

「黙っても何も、あなた、全然聞く耳を持たなかったじゃない。それに、あなたと史郎さんがお仕事のコンビで、いつも一緒にお仕事をしているなんて、お母さん知らなかったわよ。今日、二人から聞いてビックリしているんだから」

 そう言って、母は少し頬を膨らませてみせた。

 母の説明によると、シロ先輩の母親と私の母は学生時代の友人で、今でも時々連絡を取っているらしい。久しぶりに再会した際、互いの子供が同じ職場だと知って驚いたそうだ。しかも、どちらの子供にも浮いた話の一つもない。そこで、職場が同じならばちょうど良いと思った親たちは、自分たちで接点を作ろうと考えたようだった。

 そこまで聞いて、私はあることに気がついた。

「ねぇ、その話だと、お母さんはシロ先輩がうちの会社にいることを知ってたってことだよね? でも、あの時はそんな事言ってなかったよね?」
「だって、お相手が同じ職場の人だなんて言ったら、あなた身構えるでしょ。だから言わなかったの」

 私の問いに、母は素知らぬ顔で答えた。母の態度に呆れ果てる。私は頭を抱えたくなった。シロ先輩も私の隣で苦笑を浮かべている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...