朽津間ビル25階3号室

結城絡繰

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第8話 行方不明

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「ねえ、こんな所入りたくないんだけど……」

「どうせモザイクだらけだろうし、ここから撮って終わりでいいだろ」

「やった!」

 ナベの判断にイリエが喜ぶ。
 ところがその時、カトウが大声で喚きながら走り出した。
 彼は悪臭に満ちた部屋に飛び込むと、生ゴミを蹴散らして突き進む。
 そのまま奥にある扉から別の部屋へ移動してしまった。

 一部始終を目にしたナベは呆れる。

「なんだあれ。おかしくなってやんの」

「もう放っておこうよ……」

「そうだな。動画のネタになると思ったけど面倒臭えや」

「……じゃあ俺が連れ戻す」

 話に割り込んだアサバが、二人を押し退けて部屋の前に立つ。
 ナベは皮肉を込めて言った。

「へえ、年寄りには優しくってか」

「俺がオッサンを引っ張ってきた。その責任を取るだけだ。動画に出演させたら面白いと思ったが、ここに放置するのは違うだろ」

「……偽善者め」

「そうそう、自己満足の偽善だ。それでいいよ」

 開き直ったアサバはさっさと部屋に入った。
 服の袖で鼻と口を押さえつつ、消えたカトウに呼びかける。

「おーい、オッサン。あんま遠くに行くなよー」

 ゆっくりと進むアサバは、カトウを追って隣の部屋へと消えた。
 その背中を見届けたナベは、屈み込んで舌打ちする。

「あいつ、空気読めねえよな。俺達と同じクズのくせに」

「根は優しいんじゃない? 知らないけど」

「ふん……」

 不貞腐れたように言う二人だったが、アサバの悲鳴が聞こえてきたことで顔色を変えた。
 部屋の奥から激しい物音が響いてくる。
 ナベが慌てて声を上げた。

「アサバ! どうしたっ!?」

 返事はない。
 物音も止まって静寂が戻ってきた。

 ナベは何度か躊躇し、意を決して部屋に入る。
 彼はアサバが消えた扉の先へと向かった。
 イリエも顔を歪めてついていく。

 扉の先は掃除用具が放り出された小部屋だった。
 他に出口がないにも関わらず、カトウとアサバの姿はない。
 録画中のカメラだけが床に落ちていた。

「は……? どこに行ったんだ……」

 ナベは壁に開いた大きな穴に注目する。
 穴には新しい血痕が付着していた。
 息を呑んだナベは、乾いた笑いを洩らす。

「はっ、ははは……良い演出じゃん。あいつ、意外と気が利くんだな」

「ねえ……これってヤラセだよね。マジじゃないよね?」

「ヤラセに決まってんだろ! アサバの奴がアドリブで――」

 ナベの言葉を遮るように、壁の中から悲鳴が発せられる。
 それはアサバの声だった。
 顔面蒼白のイリエは耳を塞いで「ひっ」と怯える。
 悲鳴を聞いて放心するナベだったが、やがて彼は決心した。

「……企画変更だ。追いかけるぞ」

「えっ、嫌……」

「じゃあ車に戻ってろよ! その代わり今回のギャラはゼロだからなッ!」

 イリエに車のキーを投げ渡したナベは、カメラを持って壁の穴に潜り込む。
 彼はよじ登るようにして姿を消した。

 残されたイリエは泣きながら狼狽える。
 悩んだ末、彼女は小部屋を出てビルの外へと逃げた。

 数分後、小部屋の端で生ゴミの山が蠢く。
 そこから現れたのはカトウだった。
 カトウはよろめきながら立ち上がると、来た道を壁伝いに戻り始める。

「……にじゅうご……かい……」

 カトウが導かれるように向かった先は、エレベーターのそばにある階段だった。
 深呼吸をした後、カトウは一歩ずつ上がり始めた。
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