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第23話 貴重なアイテムを譲ってみた

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 俺は握った木の実をビビに差し出す。
 そして彼女の意思を確認した。

「ビビは魔術を使えるようになりたいか? もし興味があれば、この実を食べてほしい」

「貴重なのにいいの?」

「金はいくらでも稼げるが、魔術師になれる機会はそう巡ってこない。遠慮はしなくていいから本音で答えてくれ」

 俺は正直な気持ちを伝える。
 ビビはうつむいて悩む。
 これは大きな決断だ。
 すぐに答えが出せないのは当然である。
 難しい選択を俺が強いているのだから、いくらでも熟考してほしい。

 長い沈黙を経てビビが顔を上げた。
 その双眸から葛藤は消えていた。
 彼女は俺を見て答えを述べる。

「たくさん勉強する。だから、魔術師になりたい」

「よし、分かった」

 俺は頷いて木の実をビビに託す。
 それから鑑定術師に念押しをした。

「鑑定結果に間違いはないな? 本当に食っても大丈夫か?」

「誰を疑ってるんや。心配せんでええよ」

 別に本気で疑ったわけではない。
 今回は自己責任で済む話ではなく、ビビの肉体に関わってくる。
 それで少し不安になっただけだった。

 ビビは慎重に木の実を口に運ぶ。
 何度か咀嚼してから、意を決して飲み込んだ。
 いつも澄まし顔なのに、今は苦い表情を隠そうとしない。

 俺はすぐさま手持ちの水を渡した。
 ビビはそれを一気に飲み干す。
 表情からして、木の実の味は良くないらしい。

 俺はビビの姿を観察する。
 これといって気になる部分はない。
 魔力が増えているはずだが、感知できない俺にはよく分からなかった。

「どうだ。何か変化はあるか」

「わかんない」

 ビビも困惑している。
 体感的に理解できるものではないのか。
 それとも即効性がないのか。
 反応に迷っていると、鑑定術師が満足そうに言う。

「ちゃんと増えとるで。元の魔力量と比較すると、だいたい二十倍やな」

「それはすごいな」

「ビビちゃんに適性があったんやろ。鍛練次第でさらに伸びるやろうし、立派な魔術師になれるわ」

 鑑定術師は淡々と意見を述べる。
 俺ではなくビビが木の実を食べたのは正解だったようだ。
 まさかそこまでの効果が出るとは予想外である。

 元の魔力量が少なくても、二十倍になれば話が変わってくる。
 初級や中級の魔術くらいなら難なく使えるのではないか。
 ビビも驚いた様子で自分の手を見つめている。
 まだ実感が湧かないのだろう。
 俺だって同じ立場なら似た反応になると思う。
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