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第34話 魔術の補助具を選んでみた

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 俺は財布から出した検査の手数料を職員に手渡した。
 そしてここまでの礼を言う。

「色々と助かった。また何かあったら教えてほしい」

「食事を奢ってくれるなら請け負いますよ」

 職員が片目を閉じて笑う。
 すかさずビビが俺達の間に割って入ってきた。
 彼女はむっとした顔で職員に忠告する。

「私も一緒に行くからね」

「ちぇっ、二人きりのデートはだめっすか」

「禁止」

 よく分からないやり取りを済ませて、俺達は職員と別れた。
 その足で同じ建物内の武具屋を目指す。
 途中で俺はビビに言う。

「あいつに嫉妬することはないんじゃないか」

「油断は禁物」

「さすがに違うだろ」

「ご主人は好かれやすいから」

「そうか……?」

 職員は俺をからかって遊んでいるだけだ。
 別に本気で好かれているわけではない。
 ビビは俺を誰かに取られたくないという想いが強くて、そういった部分で敏感になっているのだろう。

 話している間に武具屋に到着した。
 魔術触媒についてドワーフの店主に相談すると、親身になって対応してくれた。
 所持金の事情も含めて選んでもらう。

 俺は黒い宝石がはめ込まれた指輪を買うことになった。
 なんと全属性の補助具になるらしい。
 職員は稀少だと言っていたが、武具屋では売られていたのだ。

 店主曰く、誰も買わないらしい。
 全属性の魔術師なんて滅多にいないから当然だろう。
 価格的にも自分の属性のみに符合した触媒の方が安上がりなのだ。
 売れ残るのも納得である。

 指輪はかなり高価なので、貯蓄がまたもや無くなってしまった。
 けれども後悔はしていない。
 必要経費である。
 この指輪さえあれば、他の触媒を買う必要性もない。
 総合的に考えれば得をしたと思う。

 店主も嬉しそうだった。
 ずっと使い手がいなかった骨董品らしく、必要な冒険者と巡り会ってほしかったという。
 こうして俺が見つけたのも何かの縁だ。
 大切に使うつもりである。
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