金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰

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第53話 疲労困憊まで戦ってみた

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 その日の夜、俺とビビは冒険者ギルドにいた。
 隣接された酒場のテーブルで揃って突っ伏している。
 頼んだ酒と料理が届いているが、手を伸ばす気になれない。

 無言で脱力していると、いつもの職員が歩み寄ってきた。
 彼女は面白そうに話しかけてくる。

「ぐったりしてますねぇ。かなりしごかれました?」

「おかげさまでな」

「ちなみに勝てました?」

「完敗だ。あの治療術師は只者ではない」

「そりゃ元英雄っすからね。引退して身分を隠してますが、実力は現役時代より上っすよ。たぶん軍隊とも単騎で戦える人っす」

「怪物じゃないか……」

 俺は深々と息を吐く。
 それを見て、職員は耐え切れず噴き出した。

 つい先ほどまで、俺とビビは治療術師と戦っていた。
 端的に述べると地獄の特訓だった。
 張り切る治療術師の打撃で何度沈んだことか。
 それなのに一撃ごとに肉体が全快するので、休むことすら許されない。
 さすがに弱音を吐きそうになったのも仕方ないだろう。

 元英雄というのは新事実だが、その経歴にも納得である。
 治療術師の格闘術は異次元だった。
 決して体格と怪力だけに任せた戦い方ではない。
 相手の攻撃を防ぎ、或いは受け流す技が凄まじかった。
 途中から何をされたのか分からずに吹き飛ばされる場面が多かった。
 俺とビビは持てる手段を尽くして対抗したものの、治療術師に有効打を与えることは叶わなかった。
 結局、日没まで戦い続けて、満足した治療術師に解放されて現在に至る。

 職員が俺達と同じテーブルに着くと、放置された料理をつまみながらビビの頭を撫でた。

「ビビちゃんもお疲れ様っす」

 しばらく無反応だったビビが頭を動かす。
 その視線は、少し恨めしそうに職員を見つめていた。

「私達を騙した?」

「誤解っすよ。優秀な治療術師を紹介しただけっすから」

「治療法をわざと教えなかっただろ。おかげでぶっ飛ばされた上に、その後も金貨百枚の支払いのために戦う羽目になった」

「だって詳しく説明したら遠慮しちゃうじゃないっすか。怪我も完治したんだから文句はなしっすよ」

「……確かにそうだが」

 払えなかった金貨百枚の治療費は、本当に今回の戦闘訓練で無しになったらしい。
 加えて俺達の肉体は絶好調である。
 精神的な疲労は極限にまで達しているが、物理的には完璧な状態を保っている。
 十歳くらいは若返った気分だ。
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