金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰

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第52話 支払い方法を変更してみた

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 俺は財布の中身を見る。
 予想通りの額だ。
 当たり前だが金貨百枚なんて入っているはずもない。
 治療術師はじっとこちらを凝視していた。
 威圧感で後ずさりそうになる。
 俺は慎重に疑問を口にした。

「金貨百枚……冗談ではないよな?」

「無論。真剣請求」

「すまない。そんな大金が必要だと思わなかった。今はこれしか持ち合わせていない」

 俺は素直に財布の中身を手のひらに出して見せる。
 誤魔化せる場面ではないだろう。
 ここは正直にいくしかない。
 下手に嘘をつくより、誠実な態度をすべきだと思った。

「…………」

 治療術師はゆっくりと目を細める。
 不機嫌そうに見えるが、ずっと同じ表情なので実際は分からない。
 怒っているのだとすれば不味い。
 ここで殺されるかもしれなかった。
 せめてビビだけでも逃げられるように頑張らなければ。

 やがて治療術師が仁王立ちに戻った。
 彼女は堂々と言い放つ。

「事情理解。支払方法変更」

「金の代わりになることをすればいいのか」

「肯定」

 その言葉にひとまず安堵する。
 金貨百枚分となると相当な仕事だろうが、それでも治療術師を怒らせるより穏便な展開には違いない。
 仕事ならば、冒険者としての経験があるので自信がある。
 ビビもいるので協力して取り組めばいいだろう。

 俺は財布を仕舞って治療術師に尋ねる。

「何をすればいい。どこまでやれるか分からないが、可能な限りで力を尽くす」

「簡単依頼。即日終了」

 すぐに終わる仕事らしい。
 それを聞いた俺はさすがに訝しむ。
 金貨百枚を補填できる上に短期間とは、さすがに都合が良すぎるのではないか。
 たとえば犯罪行為などが筆頭だろう。
 加担するつもりはないものの、真っ先に思い付く仕事と言えばそれくらいになる。

 断り方を考えていると、治療術師がおもむろに拳を構えた。
 腰を落とし、全身から熱に近い魔力を放出する。
 おそらく火属性だ。
 室内の温度が上がってじっとりと汗が滲む。
 治療術師は不敵な笑みを浮かべて俺達に宣言した。

「決闘要求。共闘許可」

「……俺達であなたと戦えということか?」

「肯定」

「勝てるわけがない。戦力差がありすぎるだろう」

「指摘理解。決闘強行」

 俺の言いたいことは分かった上で、決闘を止めるつもりはないらしい。
 つまりこれが仕事なのだ。
 犯罪ではなかったが、さすがに無茶が過ぎるのではないか。
 しかし、治療術師はやる気に満ち溢れている。
 俺は逃げられないことを悟りつつ、念のために確認する。

「決闘で満足してくれるんだな」

「肯定。決闘大好物。金不要。戦闘渇望」

「なるほど。最初から決闘ありきの請求だったわけか……」

 俺は納得する。
 法外な価格はすべて決闘のためだったのだ。
 冒険者などの戦える人間が訪れたら、こうやって同じことをしているのだと思われる。
 成り行きを見守っていたビビが小声で俺に訊く。

「ぼったくり?」

「いや、違う。治療内容を考えたら妥当……むしろ安いくらいだ。普通では治せない部分まで処置してもらったからな」

 できれば事前説明がほしかったが、今更な話である。
 治療を受けてしまったのだから仕方ない。
 これでどこかに訴えたところで、事態が好転することはないのだ。
 大人しく要求を呑むべきである。

「やるぞ。金貨百枚分の戦いを披露しよう」

「分かった」

 俺とビビはそれぞれ武器を構える。
 治療術師は心底から嬉しそうに笑みを湛えた。
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