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第65話 死霊術師と遭遇してみた

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 魔術師の杖から黒い靄が発生する。
 それが触手のような形となり、俺達を狙って伸びてきた。

(闇属性の魔術か……!)

 魔術師の顔には、陰鬱な笑みが浮かぶ。
 敵であるのは間違いない。

 瞬時に判断した俺は、ビビを庇って突き飛ばした。
 闇魔術の靄を盾で振り払うも、攻撃は素通りしてしまう。
 漆黒の靄が右肩に絡み、締め付けられるような痛みを与えてきた。
 加えて寒気を伴う脱力感に襲われる。
 俺は呻きながら光魔術を放ち、靄を相殺して距離を取った。

「ぐっ」

 右肩を一瞥する。
 防具が錆びて内側から出血していた。
 あのまま絡み付かれていたら危なかった。
 高確率で命を奪われていただろう。
 俺は水魔術で素早く治療し、痛みを緩和させる。
 無事だったビビが俺に寄り添ってきた。

「ご主人、平気?」

「なんとかな」

 しつこく追跡してくるグール達が、ぴたりと止まっていた。
 先ほどまでの勢いを忘れて、少し離れた場所に留まっている。
 数体は魔術師のそばに近付いて跪いた。
 その光景に俺は目付きを鋭くする。

(グールを操っているのか)

 俺が訝しんでいると、魔術師が嘲笑を洩らした。
 彼はそばに控えるグールの頭を叩きながら発言する。

「さすがだね。ここまで上手く逃げられるとは思わなかった。僕の想定では既に一人殺しているはずなんだが。君達を見くびっていたようだね」

「誰だ」

「名乗るわけがないだろう。いつ呪われるか分かったものじゃない。君のように小器用な奴は特にそうだ。凡人だからこそ手段を選ばない」

 魔術師は憎々しげに言う。
 まるで俺のことを知っているような口ぶりだ。
 いや、たぶん調べているのだろう。
 理由は不明だが、こいつは俺達のことをよく知っている。

 魔術師は四つん這いになったグールに腰かける。
 その姿勢で俺に尋ねた。

「ところで、あのトロールは気に入ってくれたかな。僕が用意したものなんだ」

「なるほど。お前が冒険者殺しの死霊術師か」

 俺は納得がいった。
 状況が分からないビビがすぐに問いかけてくる。

「誰なの」

「迷宮を根城にする邪悪な魔術師だ。深層にしか現れないと聞いていたが、方針を変えたらしい」

 ギルドでも討伐依頼が出ていたので印象に残っている。
 確か数年前から被害が多発していたはずだ。
 魔物と同等の扱いとされており、殺害証明をすると多額の報酬が支払われる。

 グールを死霊魔術で操っている時点でその予感はしていたが、まさか遭遇するとは思わなかった。
 神出鬼没な術師で、それなりに有名な冒険者パーティでさえ全滅させた過去がある。
 ようするに高い実力を持っているのだ。
 そして、迷宮内の冒険者を殺すことに躊躇いがない。
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