64 / 111
第64話 逃避行を演じてみた
しおりを挟む
建物から建物へと移動する最中、ビビが何かに気付いた。
彼女は近くの壁を剣で切り裂く。
崩れた壁の先には小さな宝箱が設置してあった。
風魔術の感知で隠されていることを察ししたのだろう。
彼女は嬉しそうに報告してくる。
「宝箱があったよ」
「調べてくれ。こっちは手が離せない」
押し寄せるグールを留めながら俺は言う。
防壁の指輪で無理やり封鎖しているが、破られるのは時間の問題だった。
かなりの力技である。
別の場所から入ってきそうなグールには光魔術の浄化を放つ。
光を密着させるのが一番だが、近くで発動するだけでも効果はあるのだ。
ビビが宝箱を調べる間、俺は踏ん張って撃退を続ける。
やがてビビが宝箱を開いて中身を持ってくる。
彼女の手には黒い刃の短剣が握られていた。
何らかの魔術武器のようだが、詳しい効果は分からない。
そもそも悠長に分析している場合ではなかった。
防壁を解いた俺は、ビビから短剣を受け取って走る。
「帰ったらギルドで調べてもらうか」
「うん」
溢れ返るグールを前に、俺達は階段を上がっていった。
二階もグールに占領されつつあったので三階へと向かう。
さすがに三階はまだ無事だった。
ただし廃墟なので床や天井に穴が開いて、激しく動くだけで壊れそうである。
歩くたびに軋んでおり、かなり心許ない印象を受ける。
密集したグールが腐臭を充満させて階段を上がってきた。
呑まれれば即死だろう。
ビビは階段を一瞥して剣を構える。
「来たよ」
「隣に飛び移るか」
「いけるの?」
「問題ない。さあ、行くぞ」
俺とビビは同時に疾走を始めた。
穴の開いた床を避けながら窓へと向かって、一気に外へと飛び出す。
刹那の浮遊感の後、隣の建物の屋根に着地……しようとして重みで崩落した。
そのまま次々と床をぶち抜いて一階にまで至る。
木片に埋もれる俺は、鈍痛に顔を顰めながら立ち上がった。
痣はできているだろうが、たぶん骨は折れていない。
見上げると、俺が落ちて作った穴をビビがゆっくりと降下してくる。
風魔術を持つ彼女は落下を免れたらしい。
俺の魔力量では真似できない技である。
隣家を覆っていたグールが今度はこちらへと迫ろうとする。
互いを踏み潰して下りてくると、呻き声の合唱と共に歩き出した。
俺は逃走を再開しながら考え込む。
「しつこいな。グールがここまで追いかけてくるのは不自然だ」
「でも来るよ」
「ただの大量発生ではなさそうだな。何か悪意を感じる」
「――ご名答」
すぐそばで愉快そうな男の声がした。
俺は反射的に横を見る。
物陰に立つ魔術師が、杖をこちらに向けていた。
彼女は近くの壁を剣で切り裂く。
崩れた壁の先には小さな宝箱が設置してあった。
風魔術の感知で隠されていることを察ししたのだろう。
彼女は嬉しそうに報告してくる。
「宝箱があったよ」
「調べてくれ。こっちは手が離せない」
押し寄せるグールを留めながら俺は言う。
防壁の指輪で無理やり封鎖しているが、破られるのは時間の問題だった。
かなりの力技である。
別の場所から入ってきそうなグールには光魔術の浄化を放つ。
光を密着させるのが一番だが、近くで発動するだけでも効果はあるのだ。
ビビが宝箱を調べる間、俺は踏ん張って撃退を続ける。
やがてビビが宝箱を開いて中身を持ってくる。
彼女の手には黒い刃の短剣が握られていた。
何らかの魔術武器のようだが、詳しい効果は分からない。
そもそも悠長に分析している場合ではなかった。
防壁を解いた俺は、ビビから短剣を受け取って走る。
「帰ったらギルドで調べてもらうか」
「うん」
溢れ返るグールを前に、俺達は階段を上がっていった。
二階もグールに占領されつつあったので三階へと向かう。
さすがに三階はまだ無事だった。
ただし廃墟なので床や天井に穴が開いて、激しく動くだけで壊れそうである。
歩くたびに軋んでおり、かなり心許ない印象を受ける。
密集したグールが腐臭を充満させて階段を上がってきた。
呑まれれば即死だろう。
ビビは階段を一瞥して剣を構える。
「来たよ」
「隣に飛び移るか」
「いけるの?」
「問題ない。さあ、行くぞ」
俺とビビは同時に疾走を始めた。
穴の開いた床を避けながら窓へと向かって、一気に外へと飛び出す。
刹那の浮遊感の後、隣の建物の屋根に着地……しようとして重みで崩落した。
そのまま次々と床をぶち抜いて一階にまで至る。
木片に埋もれる俺は、鈍痛に顔を顰めながら立ち上がった。
痣はできているだろうが、たぶん骨は折れていない。
見上げると、俺が落ちて作った穴をビビがゆっくりと降下してくる。
風魔術を持つ彼女は落下を免れたらしい。
俺の魔力量では真似できない技である。
隣家を覆っていたグールが今度はこちらへと迫ろうとする。
互いを踏み潰して下りてくると、呻き声の合唱と共に歩き出した。
俺は逃走を再開しながら考え込む。
「しつこいな。グールがここまで追いかけてくるのは不自然だ」
「でも来るよ」
「ただの大量発生ではなさそうだな。何か悪意を感じる」
「――ご名答」
すぐそばで愉快そうな男の声がした。
俺は反射的に横を見る。
物陰に立つ魔術師が、杖をこちらに向けていた。
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる