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第81話 思わぬ勧誘を目撃してみた
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素知らぬ顔で料理を口に運びながら、俺はこの状況について考える。
聖騎士を名乗る男は、ギルド内を徘徊し始めた。
横目で確認した俺は方針を決める。
(ここは知らないふりをすべきだな)
聖騎士は死霊術師を倒した冒険者を探しているらしい。
どこかで噂を聞き付けたのだろう。
王都に広まるほどの出来事だとは思わなかったが、あの強さを考えると納得できる部分もある。
無論、ここで名乗り出る気は一切ない。
面倒なことに巻き込まれることが確定しているからだ。
別に俺は名誉がほしくてやったわけではない。
ただ生き延びたかっただけである。
はるばる来訪した聖騎士には申し訳ないが、ここは徒労で終わってもらうのが穏便なのだ。
そうだ、ちょうどいいので旅行に出かけよう。
しばらく街から離れていれば、ほとぼりも冷めているはずだ。
聖騎士が粘って滞在するにしても、俺達に辿り着くことはない。
ギルド側にも念押しで秘密にするように頼めばいいだろう。
聖騎士はしばらく室内を歩き回っていたが、やがて諦めた様子で出入り口へと戻っていく。
見つからないのも当然だ。
俺達が死霊術師を倒したことは冒険者に知られていない。
誰に訊いたところで意味がないのである。
そのまま出ていくかと思われた聖騎士だったが、ふとこちらを向いて足を止めた。
彼は興味を示した顔でなぜか近付いてくる。
「おや」
テーブルまでやってきた聖騎士は胸を張って笑う。
彼の視線は俺……ではなくビビを捉えていた。
「なかなかの魔力を持ったお嬢さんだ。名前を聞いてもいいかな」
「ビビ」
二人の問答を見ながら、俺はハラハラとする。
隠そうとする雰囲気を察知されたのかもしれない。
聖騎士は穏やかな表情で核心を突く。
「ビビさん。あなたはこのギルド内でも指折りの実力者のようだね。もしかして死霊術師を倒したのはあなたではないかな」
「違うよ」
「では誰が倒したのか知っているかい?」
「知らない」
首を振るビビは表情を変えない。
実際はどうか分からないが、少なくとも動揺を見せていなかった。
聖騎士も特に疑っている様子はない。
(よかった、気付かれていない)
俺は密かに胸を撫で下ろす。
しかし、聖騎士の行動はそこで止まらなかった。
彼は床に片膝をついて述べる。
「そうか。仕方ない、討伐者のことは改めて調べてみよう。それより今はあなたが気になる」
「え?」
不思議そうな顔のビビの手を聖騎士が握る。
彼は爽やかな笑みで提案をした。
「僕の騎士団に入らないか。ビビさんなら幹部待遇で歓迎するよ」
聖騎士を名乗る男は、ギルド内を徘徊し始めた。
横目で確認した俺は方針を決める。
(ここは知らないふりをすべきだな)
聖騎士は死霊術師を倒した冒険者を探しているらしい。
どこかで噂を聞き付けたのだろう。
王都に広まるほどの出来事だとは思わなかったが、あの強さを考えると納得できる部分もある。
無論、ここで名乗り出る気は一切ない。
面倒なことに巻き込まれることが確定しているからだ。
別に俺は名誉がほしくてやったわけではない。
ただ生き延びたかっただけである。
はるばる来訪した聖騎士には申し訳ないが、ここは徒労で終わってもらうのが穏便なのだ。
そうだ、ちょうどいいので旅行に出かけよう。
しばらく街から離れていれば、ほとぼりも冷めているはずだ。
聖騎士が粘って滞在するにしても、俺達に辿り着くことはない。
ギルド側にも念押しで秘密にするように頼めばいいだろう。
聖騎士はしばらく室内を歩き回っていたが、やがて諦めた様子で出入り口へと戻っていく。
見つからないのも当然だ。
俺達が死霊術師を倒したことは冒険者に知られていない。
誰に訊いたところで意味がないのである。
そのまま出ていくかと思われた聖騎士だったが、ふとこちらを向いて足を止めた。
彼は興味を示した顔でなぜか近付いてくる。
「おや」
テーブルまでやってきた聖騎士は胸を張って笑う。
彼の視線は俺……ではなくビビを捉えていた。
「なかなかの魔力を持ったお嬢さんだ。名前を聞いてもいいかな」
「ビビ」
二人の問答を見ながら、俺はハラハラとする。
隠そうとする雰囲気を察知されたのかもしれない。
聖騎士は穏やかな表情で核心を突く。
「ビビさん。あなたはこのギルド内でも指折りの実力者のようだね。もしかして死霊術師を倒したのはあなたではないかな」
「違うよ」
「では誰が倒したのか知っているかい?」
「知らない」
首を振るビビは表情を変えない。
実際はどうか分からないが、少なくとも動揺を見せていなかった。
聖騎士も特に疑っている様子はない。
(よかった、気付かれていない)
俺は密かに胸を撫で下ろす。
しかし、聖騎士の行動はそこで止まらなかった。
彼は床に片膝をついて述べる。
「そうか。仕方ない、討伐者のことは改めて調べてみよう。それより今はあなたが気になる」
「え?」
不思議そうな顔のビビの手を聖騎士が握る。
彼は爽やかな笑みで提案をした。
「僕の騎士団に入らないか。ビビさんなら幹部待遇で歓迎するよ」
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